「スカさず、アホに徹します」俳優で歌手で代表取締役。これが現在の柴咲コウの肩書だ。ABEMAオリジナルドラマ『スキャンダルイブ』では、週刊誌との攻防戦に奮闘する新興芸能事務所の女社長を熱演する。自身が立ち上げた会社も来年で創立10周年。その社長業は「0か100か」人間だった“孤高の人”柴咲の性格を大きく変えたという。「クール」「怖そう」と評されたのも今は昔。「人に頼る事を覚えた」という柴咲コウが自身の変化を語る。
――レトロワグラース株式会社を立ち上げて来年で10年。代表取締役としてはどのような月日でしたか?
会社の代表としては、人に頼ることを覚えた10年だなと思います。何十年もお芝居をやってきた人間として、私は人に甘えるのが上手くないので、創業して5年くらいはワンマンでやろうとし過ぎて苦労しました。自分が表に出る仕事であれば自分の考えだけでやるのは問題ないけれど、例えば他企業とのコラボレーションだとか会社としての仕事に私だけが前面に出て口出しするのは良くないというか、それだとチームでやる意味もなくなるわけですから。すべてが私の意見でまかり通るとスタッフも育たなくなるので、口出ししたくなってもそこはグッと我慢(笑)。徐々に人に頼って任せる事にも慣れてきました。
――会社を運営していく上でのモチベーションは?
人に頼るという事を覚えて以降、スタッフの成長が一つのモチベーションになってきた気がします。会社を運営していく。チームでクリエイトしていく。そこにある喜びって、結局は人なんだなと。みんなで良いものを作り、その過程で人が育っていく。自分がいなくなってもそのプロジェクトがスタッフたちの力によって良いものに発展していく。人を育てよう、なんていうおこがましい事は考えていませんが、成長していく姿を見守るのはとても楽しいです。
――性格面でも余裕が生まれた、という事なのでしょうか?
そうかもしれません。それまでは0か100か人間でしたから(笑)。今では「私の意見は10にするから、90はそちらの意見でいいよ。やってみなよ!」みたいに委ねる事が出来ている。「かわいい子には旅をさせよ」ならぬ「かわいいスタッフには旅をさせよ」です。事業を回すのが上手い人たちが協力してくれているお陰もあって「ここは任せよう」「ここは私が出よう」とか、色々な角度から物事を把握することが出来て、試行錯誤しながらの冒険という感じです。でもその冒険自体がとても楽しい。
――柴咲さんには孤高の印象があるので、朗らかな人柄にビックリです!
どうも私には「クール」だとか「コワイ」というイメージがあるようで「変なことを言ったら冷めた目で睨まれそう」なんて言われた事もあります。私としてはそんなつもりはないのに、そう思われてしまうという事は余計にフラットにいなければいけないのかなと(笑)。撮影現場でも年下が増えて年配と思われる立場にもなってきてしまったので、フンッ!みたいにスカさず、アホに徹しています(笑)。周囲に「この人冗談通じるんだ!?」とこちらから教えないと、周囲を緊張させてしまうだろうし、その緊張がこちらにも伝わって来て私も緊張してしまうので。
――これまでの長いキャリアの中で出演した作品を観返すことはありますか?
わざわざ振り返って観てみようとはならないけれど、何のきっかけだったのかは忘れましたが、『ガリレオ』を見返したことがあります。制作から十数年経っているので内容や芝居をしている時の自分を覚えているのかどうか確かめる意味も含めて。『MIRRORLIAR FILMS Season2』の『巫.KANNAGI』を監督したこともあって、違う視点で観たくなったのかもしれません。時間もだいぶ経ったので客観性を持って観る事は出来ましたが、当時の自分を見て、細胞が入れ替わったのかな?と思うくらい他人のように感じました。
――ちなみに柴咲さんにとって、芸能界での最終ゴールとはどこになりますか?
俳優の仕事はオファーがある限りは続けていきたいですが、死ぬまでやるか?と問われたら、そこまでの執着は…。これを言ったら怒られてしまいそうだけれど、元々のきっかけはスカウトで、どちらかというと自分の意思というよりも、流れに乗っていたらいつの間にかありがたい事に世に出ていた感覚があるので。自分が人様の前に出るなんて思ってもいなかった人間なので、芸能の仕事に執着はそれほどありません。でも人間は好きだし、私自身も人間臭いとよく言われるので、それはどんな形であれ活かしていきたい。俳優なのか、作り手なのか、裏方なのかわからないけれど。ワクワクしている限りは辞められないだろうなとは思います。
――惰性でやっているのか好奇心を持ってやっているのか。周囲の人間にはおのずと伝わりますしね!
ワクワクを失って使命感だけになったら自分も辛いし、見ている人だってワクワクしている人を応援したいと思うはずです。年齢を重ねようが、キャリアを重ねようが、同年代の人がワクワク感を持っていたら、同じ世代としても背中を押されるし希望にもなる。キャリアや年齢を超越して、ずっとワクワクを持ち続けていたい。それが私の目標かもしれません。
スタイリスト:柴田 圭
・ドレス / FETICO(THE WALL SHOWROOM)
・ピアス(右耳) /avgvst
※その他スタイリスト私物
取材・文:石井隼人
写真:You Ishii




