「バズる男」が、クラブも街も押し上げてJ2リーグへ…ピッチとSNS、二つのフィールドで戦う“栃木シティの顔”に密着しました。

J屈指のインフルエンサー、ピッチでも結果

 11月15日、J2リーグ昇格を1番乗りで決めた栃木シティFC。3年連続で上位リーグへと昇格を決めたこのクラブを、10月に取材していました。

三谷紬アナウンサー
「Good!いちおし初登場、テレビ朝日アナウンサーの三谷紬です。入社以来、サッカーをずっと担当してきた私がいちおし!したいのが、SNSで大バズりしたことによって屈指の知名度を誇るある選手」

 その人こそ、チームトップの11ゴール、リーグトップの13アシストで昇格の立役者となった田中パウロ淳一選手(32)です。

 今年3月のゴールがJリーグ公式SNSで投稿されると、ネットの流行を取り入れたパフォーマンスも相まって、なんと240万回視聴されました。まさにJリーグいちバズっている男なんです。SNSの総フォロワーはなんと70万人。日本代表レベルの数字となっています。

 現役選手ながら、積極的にSNSで発信していて、中でも人気なのが、サッカー初心者という設定ながら、超絶テクニックを見せる「パウちゃん」という彼女シリーズが大人気です。今年のされるまでになりました。

三谷アナ
「田中パウロ淳一というお名前についてなんですが」

田中パウロ淳一選手
「パウロっていうのは、高校時代のあだ名。元日本代表の(田中マルクス)闘莉王選手のお父様はパウロさんということらしくて、田中ということだけで、いっぱいいるから、「じゃあ、パウロな」って、それだけです。金沢でJ2昇格したタイミングでノリでチームが田中パウロ淳一に改名したらどうかっていうのを出したんです。フィリピンとのハーフなので(母がフィリピン人)、本当にミドルネームついていると思ったんじゃないですかね」

三谷アナ
「じゃあその時は(Jリーグも)本名がパウロだって」

パウロ選手
「思っていたと思うんです」

一時はJリーグ“クビ” 栃木シティ入りに込めた逆襲の思い

 2012年、J1の川崎フロンターレでJリーグデビュー。その後、4クラブを渡り歩いたあと、2022年、Jクラブからのオファーがなくなったのです。声をかけてくれたのは、2つカテゴリーが下の栃木シティでした。

パウロ選手
「SNSをやっているので、サッカー全然ちゃんとやってないってすごく言われてきたんで、その中でクビになってしまったんですけど、みんながもう落ちてきたなとよく言われて、これ絶対覆してやろうという気持ちで栃木シティ入りましたね」

 しかし、直面したのは厳しい現実でした。

パウロ選手
「本当にお客さんも少なくて、アウェーにお客さんいなかった」

三谷アナ
「ゼロ?」

パウロ選手
「ゼロの時あったっすよね?」

クラブ広報
「ゼロはない、2とか」

 前年まで平均8000人を集めていたJ3のチームから一転、関東リーグでは、たった100人のお客さんの中で試合をすることもありました。

パウロ選手
「栃木としてはお客さんを増やさなくちゃいけない。僕のSNSはそれを助けられるんじゃないか。それなら毎日投稿しなくちゃいけない」

なぜ“彼女シリーズ・パウちゃん”はサッカー初心者をも虜にするのか

 そんなSNS撮影は、いつも練習後にしているというのですが…。

パウちゃん
「こんにちは。こんにちは」

三谷アナ
「よくSNSで見ています。本物結構大きいんですね」

パウちゃん
「え、分からない、身長分からないけど」

 2024年にスタートした彼女シリーズの「パウちゃん」が登場。名選手のテクニックを、パウちゃんとして披露。サッカーを知らない人も楽しめる動画として話題になりました。中でもお気に入りは…。

パウロ選手
「小野伸二さんみたいなトラップ。あれはやばかったですね」

三谷アナ
「あれできるんだ、すごいって思いました」

パウロ選手
「ちょっと上手くなりました。TikTokで撮っていたら、それが練習になるんで、シュート決めたこともあったので、もうこれはやってよかった」

三谷アナ
「今日ちなみにどんな?」

パウロ選手
「TikTokで流行ってるダンスあるんで、なんか使いたいなと」

 毎回、チームメートに手伝ってもらいながらの撮影です。この日はTAKE2でOKが出て、10分ほどで撮影終了しました。

 実はこのダンスは、10代に人気の恋愛リアリティーショー番組に出ていた18歳、曽根凌輔さんのダンス。32歳のプロサッカー選手なのに、アンテナの張り方がすごいのです。

パウロ選手
「今までサッカーしてる人だけに届けるSNSが多かったんですけど、栃木シティに来てからはサッカー知らない人に届けるのに意味があるなと思っていて、サッカー知らない人がサッカー知ってる人に『田中パウロ知ってる』って言われたら、それがスタジアム行ってみようっていうきっかけになると思っているので、そこにつなげています。流行りの次に行くスピードが速くて、ついていくのに必死なので、目についたやつはやっていくっていう感じですね」

 一方、監督はSNS撮影についてどう思っているのでしょうか。

三谷アナ
「監督としては練習後にあえて動画を撮られているっていうのはどのようにご覧になってますか?」

J3栃木シティ 今矢直城監督
「その選手の価値を、上げていくことっていうのは、なかなかこれ現役終わってからやるのと、現役中にやるのっていうのは効果が違うと思うんですよね。私の目線から見ていると、プレーに支障があるとは思えないし、むしろいいプレッシャーになるんじゃないですかね。追い込まれるじゃないですか。活躍しないと何やっているの?となる」

 2023年、パウロ選手の移籍1年目、地域リーグからJFLに昇格を決めると、翌年にはJFLで優勝し、Jリーグに昇格。パウロ選手が精力的に取り組みだしたSNSのかいもあって、ホームゲームの観客動員数は2倍以上となっていました。

 そして、J3リーグで戦う今シーズン。試合当日の入場前には、この大行列。ここCITY FOOTBALL STATION開催試合では、1試合平均1000人も増加しています。

日本一ピッチが近いスタジアムが生む熱狂と、地域を巻き込むパウロシート

武隈アナウンサー
「さぁ、リーグ戦も残り4試合となりました。J2リーグ昇格に向けて、負けられない試合が今から始まります。その前に、まずはスタジアムグルメを楽しんでいきたいと思います」

 栃木といえば、まずはご当地・佐野ラーメンです。

武隈アナ
「ん~!うわ!スープと絡んでいる!この甘いチャーシューと柔らかくて縮れた麺、もう最高のパートナー」

 デザートには栃木のいちごをふんだんに使ったけずりいちごも魅力的です。

 スタジアムグルメを楽しんだあと、会場では、2年前から応援を続ける3世代サポーターを発見しました。

武隈アナ
「栃木シティは生活の中でどんな存在?」

お父さん
「活力」

おばあちゃん
「3世代の話題がサッカーなんてありませんもの。地域の話題で地域が一つになる」

武隈アナ
「夢を聞いてもいいですか?」

一人目の子ども
「シティに入って、試合に出て点を取ることです」

二人目の子ども
「栃木シティに入ることです」

武隈アナ
「何年後になる?お父さんどうですか?」

お父さん
「楽しみですね~!」

 こんな熱を生み出した要因の一つがスタジアムにありました。

武隈アナ
「見てください!応援席とグラウンドの距離がめちゃくちゃ近いんですよね。およそ5メートルほどしかありません。選手を近くに感じられる素敵なスタジアムですね」

 そこには、地元に工場があった縁でスポンサーとなった社長の思いがありました。

J3栃木シティ 大栗崇司社長
「日本一ピッチとスタジアムが近いので、選手の声も届きますし、選手同士のぶつかる音も聞こえますので、非常に臨場感もあって、非日常を与えられるスペースになった」

 設備はもちろん、戦力もしっかり補強。今シーズン、かつてのJ1得点王・ピーターウタカ選手を始め、都倉賢選手、J1の町田から期限付き移籍してきたバスケスバイロン選手など経験のある選手をそろえました。

 取材した11月8日の時点で栃木シティは2位。上位2チームがJ2リーグに自動昇格できるため、1試合も落とせない状況です。

 試合開始1時間前、なにやら子どもたちがピッチ前にスタンバイしています。すると、そこに…。

子どもたち
「うわー!」

 パウロ選手が登場。こちらは、パウロ選手が自費で小学生のサッカーチームを招待する企画、通称パウロシートです。試合前にも関わらず、ひとりひとりとの写真撮影だけではなく、グッズのプレゼント、質問タイムもありました。

子ども
「ゴールパフォーマンスはいつ決めているんですか?」

パウロ選手
「お、ゴールパフォーマンスどうしよう?何してほしい?」

子ども
「ナルトダンス」 

パウロ選手
「ナルトダンスしてほしい?オッケー、頑張ってするから見ておいてね」

 栃木シティvs讃岐、この日の試合は1点を先制された後半、パウロ選手のコーナーキックから同点に追いつくと、後半30分、パウロ選手がこのロングボールを胸トラップ、そこから華麗なヒール。見事なアシストで勝ち越しを演出します。得点を決めたウタカ選手もパウロ選手を讃えます。

 後半、一挙3点で勝利し、首位をもぎとりました。試合後には、距離が近いスタジアムならではの光景として、選手とファンが勝利のハイタッチです。

子どもたち
「パウロー!」

パウロ選手
「ゴール決められなかった、ナルトダンスやろうと思ったのに!」

子どもたち
「今やって!」

パウロ選手
「やった今!」

パウロ選手
「やっぱり僕たちだけじゃなくて、この栃木の方もそうですし、日本全体に栃木の活力っていうのを見せるチャンスだと思うので、僕たちだけじゃなくて、地域のこの盛り上がりを見せるチャンスだと思っています。だからこれからもしっかり試合に勝って、もっと栃木の魅力をみんなに伝えられたらなと思っています」

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