
30年以内に70%の確率で発生するとされる首都直下地震。その時、首都東京では何が起きるのか?そして私たちは、どう行動すればいいのか。新たな「被害想定」を元に、専門家と検証しました。(12月20日OA「サタデーステーション」)
被害想定 12年ぶりに見直し
今年も日本各地で起きた、強い地震。鹿児島県のトカラ列島近海では、震度5弱以上の地震が8日間に8回相次ぎました。そして記憶に新しいのが、今月8日の深夜、青森県東方沖で起きた最大震度6強 マグニニュード7.5の地震です。この地震では、運用開始後初めてとなる後発地震注意情報も発表されました。
こうした中、政府が19日に公表したのが、新しい首都直下地震の被害想定。被害想定が見直されたのは12年ぶりのことです。
首都直下地震とは、東京圏とその周辺の地下にある3つのプレート上や内陸の浅い所で起こる地震で、30年以内に70%の確率で発生するとされています。この12年で耐震化が進むなどしたため、死者数の想定は最大およそ1万8000人にまで減少。建物の被害や避難者の数も減ってはいますが、大きな被害が出ることには変わりはありません。
帰宅困難者840万人 専門家とリスクを検証
サタデーステーションが注目したのは最大840万人になると想定される「帰宅困難者」です。
東日本大震災発生時、震度5強を観測した東京では交通網がマヒ。このときの帰宅困難者は今回の想定より少ない515万人(首都圏推計)といわれていますが、道路や駅の多くの場所では混雑が見られました。JR新橋駅前でも、広場を埋め尽くす人たちの姿が確認できます。
帰宅困難者で溢れた場合に起こる問題とは。今回の被害想定見直しにも携わった廣井教授に話を聞きました。
大都市防災に詳しい 東京大学 廣井悠教授(19日 JR新橋駅前)
「大きな地震が起きると鉄道が止まることが予想されますので、情報を取りに多くの方が駅に集中することが予想される」
群衆が密集しそうな場所は、ほかにも。
報告・仁科健吾アナウンサー(19日 勝鬨橋)
「隅田川にかかる勝鬨橋にきましたが、ここにもリスクが?」
大都市防災に詳しい 東京大学 廣井悠教授(19日 勝鬨橋)
「こういう橋のような逃げ場がない空間に多くの人が集中して群集事故が発生する可能性もあります」
より規模の大きい首都直下地震が起きた後に無理に帰宅しようとすると、帰宅困難者本人の身を危険にさらすことになるといいます。さらに、別の懸念も。
大都市防災に詳しい 東京大学 廣井悠教授(19日 勝鬨橋)
「帰宅困難者が一斉に徒歩帰宅したり、家族を車で迎えに行くことによって車道や歩道が大渋滞する。救急車、消防車が助けられる命を助けられない可能性もある」
人命救助が優先される時間帯に、救助活動の妨げとなってしまう可能性があると指摘します。実際東日本大震災後の都内では、すべての車線が渋滞の車で埋まっていた道路もあり、救急車がその間をぬうようにしながら移動していく様子もとらえられていました。こうした二次被害を減らすために、帰宅困難者が取るべき行動はー。
大都市防災に詳しい 東京大学 廣井悠教授(19日 勝鬨橋)
「一時滞在施設と言われる、そういったところに行ってある程度状況が落ちつくまで、あるいは鉄道が回復するまで待って帰るというパターンが望ましい」
帰宅困難対策の柱「一時滞在施設」
帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設とは、どんな場所なのでしょうか。訪ねたのは、渋谷駅に隣接しており、レストランやオフィスなどが入る複合施設です。
報告・仁科健吾アナウンサー(19日 渋谷サクラステージ)
「滞在できるのはどのあたりになる?」
東急不動産株式会社 ビル運営事業部 鈴木悠太係長(19日 渋谷サクラステージ)
「まさに今いらっしゃるこの場所になります。シャッターがついていて、これをおろして雨風しのげる環境を作ります」
区の要請を受けているこの施設では、オフィスロビーや廊下など8つのスペースに3000人の帰宅困難者を受け入れます。会社や学校などが被災してその場に留まれない人や、旅行者などが対象です。
倉庫には水や食料、アルミのブランケットや簡易トイレなど3000人が3日間滞在できる備蓄があるといい、中にはこんなものも。
報告・仁科健吾アナウンサー(19日 渋谷サクラステージ)
「ネックピローもあるんですか?」
東急不動産株式会社 ビル運営事業部 鈴木悠太係長(19日 渋谷サクラステージ)
「エアマットの上にのせて使っていただく。どの時間帯で地震が発生したとしても最低限対応できるよう準備を整えています。そこがこの施設の役割だと思っています」
マンション在宅避難の対策と課題
そしてこの10年間で大きく変わった東京圏の状況に、高層マンションの増加があります。自宅が無事な場合、求められるのは在宅避難です。そのため高層マンションで進められている対策が。
防災区民組織役員 清水隆史さん(15日 中央区)
「非常時の発電機ですね。すべての電力をまかなえるわけではないんですが、居住者の方の最低限の移動を助ける形」
マンション内の廊下や自動ドア、エレベーターなど共用部分に限り2日程度は電力をまかなえるといいます。基本的な備蓄は揃えていますが、住民それぞれに準備をしてもらうことが課題です。
防災区民組織役員 清水隆史さん(15日 中央区)
「基本的に各ご家庭で1週間分備蓄していただいて、それでも足りない場合に対応する形での食料になっています」
いつどこで起こるかわからない地震。内閣府は東京圏で生活するおよそ3700万人に対し、「自分ごと」としてとらえ、地震への備えを進めるよう呼びかけています。
高島彩キャスター
「首都圏で最大840万人の帰宅困難者が出ると想定されていますが、都内には一時滞在施設はどれくらいあるのでしょうか?」
板倉朋希アナウンサー
「23区のホームページに掲載されている一時滞在施設の数は約700カ所です。役所や学校などの公共施設の他、商業ビルやホテル、歌舞伎座などの劇場や、増上寺などの神社仏閣なども登録されています」
高島彩キャスター
「地図で見るとオフィスや商業施設が集中する、新宿区、千代田区、中央区などに多いことがわかりますが、土地勘がない場所にいる時などは探すのが大変そうですね」
板倉朋希アナウンサー
「そこで活用して頂きたいのが、今年4月から東京都が運用を始めた帰宅困難者向けのデジタルプラットフォーム『キタコンDX』です。コードを読み込んでLINEの友達登録をするか、LINEのホーム画面で『帰宅困難』と検索すると、黄色いアイコンが出てくるので、それをタップして『友達登録』をしておくと、大きな災害が起きて一時滞在施設が開設されると、今いる場所から最寄りの施設を検索できて、そこまでのルートを地図で案内してくれるというものです」
高島彩キャスター
「確かに心強いサービスですが、災害時にはネット回線が混雑してつながらないことも考えられますよね」
板倉朋希アナウンサー
「そんな時に覚えておきたいのが、大規模災害が発生した時に無料で開放される公衆無線LAN『00000JAPAN(ファイブゼロ・ジャパン)』です。スマホのWi-Fi画面を開くと『00000JAPAN』が表示されるので、選択するだけネットに接続できます」
「また、一時避難施設の他にも、徒歩で帰宅をする人たちのために開放されるのが、ガソリンスタンドやコンビニ、ファミレスなどの外食チェーンです。目印になるステッカーが貼ってある店舗では、水やトイレ、災害情報の提供や、帰宅までの休憩場所として利用することができます」
高島彩キャスター
「こういったステッカーを貼ってあるお店が、どこにあるか事前にチェックしておく必要性も感じます。柳澤さんは、今回出された被害想定の中で注目している点はありますか?」
ジャーナリスト柳澤秀夫氏
「揺れを感知して自動的にブレーカーを遮断し、電気が復旧した時に起きる通電火災を防ぐことができる『感震ブレーカー』というものがあります。工事を伴うもので、かなり大がかりで設置が課題だったんですが、最近はコンセントに差し込むだけで使える小型のものが出てきています。これによって火災の発生を70%減らすことができるようなんです。自治体によっては『感震ブレーカー』の設置などに補助金を出していて、私の住んでいる街では上限2000円で支援してくれるということで、さっそく補助金の手続きを取ろうと思っています。自分の事として関心を持つと、災害に対する備えや意識が相当変わってくると思うんです」
高島彩キャスター
「いろいろある対策の中から、皆さんもまず『感震ブレーカー』の補助金が下りるかどうか。そういったところから調べるのもいいですね」
ジャーナリスト柳澤秀夫氏
「1万円前後から数千円と、値段も手ごろになってきているので、こういったものを調べてみるのもいいかもしれないです」
高島彩キャスター
「今回紹介した情報の受け取り方や、『感震ブレーカー』などの存在を知っているかどうかで、災害時の安全性が大きく変わってきます。“いざという時の知識”ではなく“日常の備え”として意識したいと思います」
