【レーダー照射問題】中国は第二列島線にも進出「旧日本軍の太平洋進出を参考に」
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日本への強硬姿勢を緩めない中国。中国軍機によるレーダー照射など一連の動きは、単なる挑発行為ではないという見方がある。専門家は、米中関係の枠組みの中で、日本への対応を捉えるべきと指摘。さらに、中国の海洋戦略が第一列島線にとどまらず、第二列島線の周辺にまで及んでいることを踏まえ、「旧日本軍の太平洋進出を参考にしている」と分析する。

【画像】地図で見る 空母『遼寧』の動き

1)空母『遼寧』の航跡から見える中国の海洋戦略

ポイントは空母『遼寧』の動きだ。『遼寧』は、中国が海洋上で主張する防衛ラインの1つ「第一列島線」を宮古島・沖縄本島の間から抜けた後、沖縄本島南東でレーダー照射問題が発生。『遼寧』はその後も航行を続け、北大東島などを囲むように移動した後、東シナ海に戻ったとされる。

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12月6日から12日にかけ、『遼寧』の艦載戦闘機・ヘリの発着は計およそ260回。100回以上も戦闘機などが発着艦するのは初めてとされている。第一列島線を超えた海域で、訓練の情報を十分に知らせないまま行った中国側について、峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所上席研究員)は複合的な狙いを指摘する。

2000年代の初めから、中国軍は目標として「第一列島線」突破をずっと掲げており、「突破した」という既成事実を作りたい。発着艦訓練、レーダー照射を行った場所から見ても、「突破」の既成事実作りが目的だろう。空母も同じような動きをしているので、沖縄を取り囲むという狙いもある。
もう一つ重要なのは、その後、第一列島線と第二列島線の間で頻繁に発艦をすることで、日本側はスクランブル発進という形で、警戒をしなければならなくなる。ところが、いずれの航空自衛隊基地からも遠く、パイロットの数も戦闘機の数も限られる中、これを何度も繰り返されると日本側は疲弊する。いわゆる“コスト強要戦略”というやり方で、日本側に負荷をかけることも一つの目的だ。さらに、空母が1隻だけではなく、2隻、3隻、4隻と出てきた場合に、どう対応するのかということを見るための揺さぶりと見ていい。

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小原凡司氏(笹川平和財団上席フェロー)は、中国が米国とのディールも念頭に訓練を展開していると分析する。

中国のアメリカに対する戦略的コミュニケーションの一環として、東アジア海域、西太平洋のどこでも軍事力を展開できることを示したかったと考えられる。12月初旬に中国が東アジアの海域に展開したと報じられている百隻以上の艦船のうち、多くはすでに帰還しているが、一部の艦隊、『遼寧』を護衛するための駆逐艦やフリゲート、そして補給艦、相互補給艦のようなものはまだいて、限定的ではあっても空母打撃群のような形をとっている。アメリカの同盟国が「中国の軍事力が…」と騒げば、アメリカの耳により強く届きやすい。来年に向けて習近平氏が求めている米中ディールの“核心”に向けて、まずはアメリカに対してマウントを取るという大きな目的があった。そこに最近の日中関係の問題があって、『遼寧』の艦隊には、「より強く日本に対して圧力をかけろ」と指示があった可能性はある。中国側は「爆撃機も遼寧も沖縄を取り囲んだ」という論調だ。
実は中国には前科があり、今年2月にはオーストラリア周辺で同様のことを行った。その際は、空母はいなかったが、タスマニア海まで艦隊が行っている。この時は突然、実弾射撃を行い、民航機のパイロットに対して「この海域で実弾射撃をやるので入ってくるな」と言ったとされる。オーストラリアとニュージーランドを結ぶ定期航空便のスケジュールに大きな影響が出た。この時の目的も、オーストラリアを刺激し、強く反応させることだった。

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杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、今回の中国側の行動は2つのメッセージを含んでいると分析。

まず、このあたりの海域で中国は3隻体制、近々には4隻体制を組み、空母をいつでも派遣して発着艦訓練を行うことも可能という体制が出来上がったという事実。これが2026年の中国軍の動きを見る上で決定的に重要だ。この地域の安全保障秩序が明らかに変わりつつあることを如実に示す。
2つ目は、NOTAM(Notice To Airmen/航空従事者への通知)を示さず訓練をする、レーダー照射もやるという既成事実ができたこと。日中で発表の中身が異なり、日本側からすると「これは国際常識、国際防衛軍事常識からあり得ない」と言っても、中国は意に介さずに行動している。これは、日本だけではなく世界に対して、「これが今の中国のやり方であり、これからは、この海域においては、こういうやりかたをする」というメッセージだ。
今回のことは、一つ一つの地歩固めだ。単に孤立した出来事として扱うのではなく、日米でどう対応するのかを本格的に検討しなければいけない時期がきている。

杉田さん
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2)中国の影響力は第2列島線でも…旧日本軍の太平洋進出と重なる戦略

中国の主張する「第一列島線」のさらに東に「第二列島線」があり、この「第二列島線」上にはグアムがある。そのおよそ660km南、第二列島線の東側にあるウォレアイ島で、中国の動きが指摘されている。12月11日、ニューズウィークは「中国主導による第2次世界大戦時代の滑走路の復旧作業がほぼ完了していることを確認」と報道した。

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ニューズウィークによると、ウォレアイ民間飛行場は中国国営の企業が再開発を行っており、中国がミクロネシア連邦とインフラや気候変動で協力し、教育などの民間交流を強化しているという。「第二列島線」の東側での、中国の影響力強化について、峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所上席研究員)は「旧日本軍の太平洋進出と重なる」と指摘する。

中国は、第一列島線の次は第二列島線を2020年頃に超えるという、内部で定めた目標がある。それを着々と進めているのだろう。ウォレアイ島は、米軍基地があるグアムににらみを利かせることができる、戦略的に重要な場所だ。滑走路は今年末にはほぼ完成するのではと言われている。今は民生用と言っているが、有事の際、戦略爆撃機やミサイルを配備すると、グアムをある意味、後ろから狙うことができる。
もうひとつ私は10年ほど前、米軍の研究者と共同研究した際、中国による太平洋の進出は、かつて日本が第二次大戦中に行った作戦を参考にしていることを突き止めた。旧日本軍が使っていたウォレアイ島や、ソロモン諸島のガナルカナルのあたりに色々拠点を作ろうとしているのも、日本軍の勢力圏とぴったり重なっていることからも説明がつく。

滑走路
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番組アンカーの杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、トランプ政権が発表した国家安全保障戦略を踏まえ、警鐘を鳴らす。

トランプ政権によって出された国家安全保障戦略は、一貫性がない部分もあるが、メッセージとしては「西半球を中心にやりたい」ということ。今、アメリカはベネズエラに大きな軍事的圧力をかけていて、次はキューバという話も出ている。台湾および中国、日本の存在は非常に重要だということは盛り込んではいるが、国家安全保障戦略の書きぶりは、日本など地域の国々で防衛費を増額して、各国で頑張ってほしいとしていて、力強さに欠けるのは否めない。かつて、バイデン大統領が「台湾は、軍事力を使ってでも守る」と発言した時からすれば、この地域に対する意識は明らかに後退している。そういった米国の動きが今の習近平氏の強引な動きにつながっている側面があり、日本としては非常に懸念すべき事態だ。

NSS
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小原凡司氏(笹川平和財団上席フェロー)は、中国が米国の国家安全保障戦略をどう見ているか、注視する。

中国は、必ずしもアメリカが中国に対して融和的だとは思っていない。アメリカの国家安全保障戦略も、南北アメリカ大陸を中心にした内容ではあるが、これは中国の今の動きを阻止しようとするもので、中国にとっては非常に嫌な内容だったはずだ。中国は2018年頃からラテンアメリカ各国に影響力を強めてきた。ウォレアイ島と同じようにデュアルユースの港や飛行場建設を支援し、投資している。キューバにはアメリカの情報を取るための情報施設を作って、まだ拡張している。さらにパナマ運河も香港の企業に押さえさせて、中国が自由に通れるようにしたいということになると、中国の真の目的は、アメリカに対して通常兵力でもいつでも打撃できる能力をつけるということだ。これをアメリカは阻止しようとしている。アメリカの軍事介入の可能性を中国は非常に警戒しており、台湾の扱いも同様だ。

(「BS朝日 日曜スクープ」2025年12月14日放送より)

小原凡司(笹川平和財団上席フェロー。元海上自衛官。3年任期で駐中国防衛駐在官。一般社団法人 DEEP DIVE代表理事。著書に「世界を威嚇する軍事大国・中国の正体」(徳間書店))

峯村健司(キヤノングローバル戦略研究所上席研究員。北海道大学公共政策大学院客員教授。米中両国に多彩な情報網を持つ。近著に『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)。『中国「軍事強国」への夢』(文春新書)も監訳。中国の安全保障政策に関する報道でボーン上田記念国際記者賞受賞)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)

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