【報ステ解説】イラン攻撃“勝者”はイスラエルだけ?“共闘”続けるアメリカの思惑は
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アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃は連日行われています。2国の“先制攻撃”から始まった作戦の背景には、トランプ大統領、そしてネタニヤフ首相の思惑が隠されていました。

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アメリカ国内 攻撃支持せず54%

イランへの攻撃について
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トランプ大統領の思惑とは裏腹に、アメリカ軍に6人の犠牲者を出した後も、イランへの攻撃を支持しない人は54%。国民からは、こんな声が聞こえてきます。

アメリカ人
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アメリカ人
「私は共和党員ですが、先日の予備選挙は民主党に投票しました。私たちはあそこ(イラン)にいるべきでないし、彼らはアメリカに迷惑をかけているわけでもない」
「私たちは外部の影響によって誤った方向へ導かれてしまったように感じる」

トランプ大統領は、なぜ攻撃に踏み切ったのでしょうか。

アメリカ ルビオ国務長官
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アメリカ ルビオ国務長官
「イスラエルが行動を起こすことは分かっていた。イランの前に先制しなければ、より多くの負傷者と死者が出ていた」

イラン体制崩壊狙う 緻密外交

ただ、ニューヨークタイムズなどの取材で明らかになったのは、長年の悲願、イランの体制崩壊を成し遂げたい、そのためにはアメリカの協力が欲しい、というイスラエル側の緻密な外交戦略です。

ネタニヤフ首相
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事の始まりは去年末、フロリダ州マーアラゴでの会談。この時、ネタニヤフ首相からトランプ大統領に、イランのミサイル基地を攻撃する構想が伝えられたといいます。そして、イランで反体制デモが起こる中で、秘密裏に続けられていた軍事攻撃の計画策定。一方で、2月初旬からイランとアメリカの間では、核交渉を再開させようという動きが続いていました。イスラエルにとっては阻止したい流れ。迎えた、次の訪米。

ニューヨーク・タイムズ
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ニューヨーク・タイムズ
「ネタニヤフ首相は2月11日朝、トランプ氏に戦争への道を歩ませ続けるという決意を固めて、大統領執務室に足を踏み入れた」

3時間に及んだというトランプ大統領との会談で、ネタニヤフ氏は軍事計画が白紙になることへの懸念を示し「イランの最高指導部、核・ミサイル、革命防衛隊指導部を同時に攻撃する案」を提示したとされています。会談後には核交渉に関する疑いも口にしていました。

イスラエル ネタニヤフ首相
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イスラエル ネタニヤフ首相
「イランとのいかなる合意も疑わしい」

米メディア『Axios』
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Axiosによれば、去年末からの2カ月余りで、2人の直接の対話は2回。電話会談は15回。イスラエル側の徹底した交渉が実を結んだのは2月23日でした。諜報活動によって得た、ハメネイ師とその高官が28日に集まるという情報と共に、トランプ氏にこう伝えたといいます。

米メディア『Axios』
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米メディア『Axios』
「壊滅的な空爆の一発で全員を殺害できる」

その後、トランプ大統領は攻撃を承認。ハメネイ師殺害という、イスラエルにとっての悲願も達成されました。今年10月に行われる総選挙で、敗北が濃厚とされるネタニヤフ氏率いる与党。ネタニヤフ氏にとって、ユダヤ系イスラエル人の大半に支持される今回の作戦は、選挙を乗り切るための重要な一手でした。

イスラエル人
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イスラエル人
「この戦争が始まるのを皆が待っていました」
「ネタニヤフが大嫌いな人も、必要だから作戦を支持しています」

“共闘”続けるアメリカ なぜ

慶應義塾大学・田中浩一郎教授
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明海大学・小谷哲男教授
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イラン情勢に詳しい慶應義塾大学・田中浩一郎教授、アメリカの安全保障政策に詳しい明海大学・小谷哲男教授に聞きます。

(Q.アメリカ国内では今回のイラン攻撃に対して批判的な声が多い。それでも、トランプ政権がここまでイスラエルに付き合うのはなぜですか)

小谷哲男教授
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小谷哲男教授
「アメリカにおいて、ユダヤ系が政治・経済で重要なポジションを握っていて、彼らが“ユダヤロビー”と呼ばれて、時の政権にイスラエルに対する安全保障、これを確実なものにするようにと、特に選挙の時に働き掛けると。もう一つが、福音派と呼ばれる、聖書の教えを忠実に守らなければならないと考える人たちが、アメリカの人口の4分の1はいると言われていて、特に共和党支持者が多いです。この人たちも選挙の時に非常に大きな票田です。ガザ紛争でアメリカの中でもイスラエルに対する見方はかなり厳しいものがありましたが、それでもユダヤロビーと福音派の存在があって、アメリカ政府はイスラエル支持に回らざるを得ないという現実があります」

(Q.そんなアメリカの現実を、イランからはどう見えているのでしょうか)

田中浩一郎教授
「自分たちが正論をいくら吐いても、アメリカの国民には届かない。もちろん1979年の大使館人質事件という、非常にネガティブなイメージが今でもつきまとっているのもあるんですが。ただ一方で、世論形成にイスラエルあるいはユダヤロビーが成功しているんだろうと思います。見ていると、理由はともかくとして、アメリカがイスラエルを支持するのは当たり前だという空気感もあります」

トランプ氏主導『アブラハム合意』

アブラハム合意
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アメリカとイスラエル、そしてアラブ諸国との関係を語る上で外せないのが『アブラハム合意』です。アブラハム合意とは、イスラエルと一部のアラブ諸国との間で締結された国交正常化の合意のことで、2020年、当時のトランプ政権が主導して始まったものです。この合意によって、イスラエルと一部のアラブ諸国が経済面での協力に踏み出すことになりました。

トランプ大統領
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(Q.トランプ大統領の頭の中には、イスラエルと共闘してイランをたたく上で、アブラハム合意を拡大させたい考えはあるのでしょうか)

小谷哲男教授
「イスラエルと共にイランをたたくことが、そのままアブラハム合意の拡大につながるわけではないと思います。これはイスラエルとアラブの間で国交正常化をするためには、パレスチナ問題を解決するという大きな課題があります。それが解決できれば、恐らくサウジなども含めて多くの国がアブラハム合意に参加することになるでしょう。ただ、トランプ大統領としては、去年5月にサウジアラビアに行った時の演説の中で『アブラハム合意を拡大することは、中東の平和と安定につながる。それはビジネスを拡大することにもつながる。そこにイランを呼ぶことも排除しない』ということを言っています。この先、パレスチナ問題が解決できて、サウジとイスラエルが国交を正常化することはいいんですけれども、そこにイランまで入ってくれれば、より中東が安定して経済的な利益を生み出すことができる。恐らくそこに、トランプファミリーのビジネスも絡んでくるということになると思います」

(Q.イランを体制転換させてということですね)

小谷哲男教授
「そうですね。体制転換させないことには、入れることができないので、そういう目的は恐らくあると思います」

“敵国”求め続け…次の狙いは

(Q.アメリカを攻撃に引きずり込むイスラエルの動きがありましたが、そもそものイスラエルの狙いというのは何ですか)

田中浩一郎教授
「もう明らかにイランの体制が邪魔。ただ、自分の力だけではできなかったし、自分だけでやれば被害も大きくなるので、どうしてもアメリカを引き込みたいと。アメリカを引き込むだけじゃなくて、アメリカにより積極的になってもらいたいという思いがあって、これが体制転換にこだわる1つの状態を作っていますね」

トルコ
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(Q.イスラエルからすると、イランを徹底的に弱体化させた後、その先にトルコを標的にする可能性もあると。そこまで行くものですか)

田中浩一郎教授
「これまでのパターンでいくと、それも捨てることはできないと思います。実際にイスラエルの政治家は『次はトルコだ』と去年の6月以降、声高に言っています。さらに、ネタニヤフ首相も含めて、かつてのイスラエルという国、あるいはユダヤ王国はこれだけ広かったということで、あたかももう1回取り返すというような領土的拡張主義すら隠さないような構想も口にしています。それでいくと当然、トルコとはぶつかることになる。これまではイランが最大の脅威と言ってきましたが、脅威が体制転換も含めて除去されれば、次はトルコという狙いなんだと思います」

米との“ずれ”中東の将来像は…

イラン
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(Q.イスラエルがに領土的なものも含めて野心を大きくしていくとなると、アメリカと思いの違いが出てきませんか)

小谷哲男教授
「思いの違いは、今回の軍事作戦を始める前後にも見られていますが、トランプ大統領としては今回、自分の利益も考えて、イスラエルと歩調を合わせているんだと思います。この先、もしイランとアメリカの間で停戦という話になった時に、イスラエルが妨害することになれば、トランプ大統領としては、例えばイスラエルの軍事支援を止めるなど圧力をかけて、イスラエルと違う道を選ぶことも出てくると思います」

(Q.イスラエルとアメリカのどこかで出てくるであろう温度の違い。これはどんな所に起因して、どういう所に向かうのでしょうか)

田中浩一郎教授
「そのあたり、アメリカはどういうグランドデザインを、トランプ大統領だけじゃないと思いますけれども、中東に描いているのかというと、それぞれの国家が共存しているという状態、そして過激主義もないし、みんな経済的に繁栄しているというのが、多分バラ色の世界だと思うんですけれども。イスラエルの思惑は、自分の周囲に強い国家や大きな国家を持ちたくない。それが弱くなってくれる、例えば内戦で疲弊するとか、お互いの紛争で潰し合いをするとか、そういう状態であって、唯一イスラエルだけが、核も持っていますけれども、その下で強い状態で覇権を握るというのがイスラエルの考え方であって、そこはちょっとアメリカとズレがあると思います」

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