
歌川広重の「月に雁(かり)」に、葛飾北斎の「露草に鶏」など、花鳥風月を切り取った江戸の名作が、極上のコンディションで見られる展覧会が千葉市美術館で開催されました。(現在、掲載の展示は終了しています)
花鳥風月を切り取った浮世絵が一堂に
作品を収集したのは、ニューヨーク近代美術館MoMAの設立者の一人で、アメリカの大富豪ロックフェラーJr.の妻、アビー夫人です。彼女が魅了されたのは「花鳥版画」というジャンルの浮世絵でした。
千葉市美術館 学芸員 田部井栞里さん
「文字通り、花と鳥を描いた作品。浮世絵というのはメジャーなもので言いますと、役者絵ですとか美人画ですとか、風景をワイドな画面で描くものが多いですけれど、これは花と鳥を一緒にフォーカスした形で描いた作品になっていまして、アビーさんは非常に花鳥版画に特化してというか、こだわりを持って集めていたことが特徴です」
「若冲の鶏」初来日の版画
今回は展示されている花鳥版画の中から、特に貴重な作品を紹介します。まずは国宝・動植綵絵(どうしょくさいえ)で有名な伊藤若冲の変わった1枚。なんと日本初公開の作品です。
田部井さん
「これは、伊藤若冲の鶏の2羽を描いた作品でして、実は今のところ世界で1点と言われています。今回初来日になっているので、初公開になります」
荒井理咲子アナウンサー
「初公開だそうです!」
現在確認されているのは世界でこれ1枚という作品です。実は若冲は、このような愛嬌のあるタッチのニワトリも描いていたことが分かる貴重な資料なんです。
田部井さん
「これの珍しい点というのが、すりの部分なんですけれども、かっぱずりと見られる技法を使っています。そのかっぱずりというのは、当時関東、江戸の辺りでは淘汰(とうた)されてなくなってしまっている技法なんですけれども、若冲がいた京都の辺りでは唯一残っていた技法。若冲の地域性、そういったものを物語るうえでも非常に大事な作品」
荒井アナ
「若冲ファンの中でも見たことがないほうが?」
田部井さん
「いらっしゃると思います、たくさん」
他にも珍しい作品として、こちらは同じ構図なのに背景だけが違う2枚の花鳥版画。さらにこちらは、うちわにするため作られた花鳥版画が切り取られず、そのままの状態で保管された貴重な作品です。当時、封筒の包みとして売られていた広重作品などもあったんです。
荒井アナ
「こうやって(広重が)その時の人が使うようなものも手掛けていたんだというのを、改めてアビーさんに教えてもらいました」
田部井さん
「広重がいかに人気で、広い層から支持を得ていたというのが、やっぱりアビーさんの作品から私たちも学ぶことができますよね」
“あの波”と同じ構図
田部井さん
「この特徴として、芥子(けし)が描かれているんですけれども、グワーッという構図になっていますよね。お気づきですか?」
荒井アナ
「しかもこれ、葛飾北斎ですよね。ちょっと今、鳥肌立ちました。まさにあの沖浪裏の浪の作品と同じ構図ですよね?すごい」
北斎が「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」と同じ構図で描いた花鳥版画。これまでとは違う北斎のイメージがうかがえる作品です。
田部井さん
「まさに同じ版元から出版された同じ時期の作品なんですね。葛飾北斎のあの作品が非常に人気になりましたので、そういったことを意識して制作したものだと考えられます。やっぱり今思われたように、アビーさんもご覧になった時に、『あっ!』と思ったのかなと想像しますけれども」
落札額は?驚きの結果
他にも北斎作品では、当時の流行りだったベロ藍という青い色を使った作品を集めるなど、流行にも敏感だったみたいですね。アビーさんは10数年かけ、約700点の花鳥版画を収集。でもなぜ日本の浮世絵を、アメリカにいたアビーさんが、そんなに集めることができたのでしょうか。
荒井アナ
「その700はどうやって集めることができたんでしょうか?」
田部井さん
「山中商会という、ロックフェラー家と深い関係にあった美術商ですとか、あとは実際にオークションに参加してコレクションをしていたということがあります」
荒井アナ
「すごい。本当に自分から集めに行っていたんですね」
田部井さん
「はい。しっかりと自分で選んでいいものを…」
そのオークションで使われた出品リストがこちら。中にはどんな作品がいくらで落札されたのかまで書いてあるものもあるんです。
荒井アナ
「いくらくらいで買われたのでしょうか?」
田部井さん
「花鳥版画はだいたい10ドルから高いもので80ドルぐらい。現代の日本円で換算しますと、5万円から39万円ぐらいと言われています。そんなにすごく高いものではなくて、やっぱりコレクターたちが集めて誇るというものとはまた別のものということがお分かりいただけるかと思うんですけれども、それにもかかわらず、やっぱりこだわって集めたというのは、 アビーさんがいかに花鳥版画が好きだったかということがお分かりいただけるのではないかなと思っています」
資料によると、これらの花鳥版画と同じデザインの作品を、このような価格で競り落としたことが分かりました。
歌川広重の貴重な下絵
「月に雁」や「紫陽花に翡翠」など、広重の人気作品も展示されていますが、そんな広重の肉筆画ともいえる作品がありました。
荒井アナ
「こちらは?」
田部井さん
「こちらは色がついていないものですけれども、広重の下書きになるんですね。下絵と申しますけれども、色をつける前にここに藍ぼかしとあるんですけれども、藍色を入れてぼかしますよということですね。そういった指示を作るんですね。それの実際の広重が作った下絵になります」
荒井アナ
「ということは肉筆ということですか?」
田部井さん
「そうです」
荒井アナ
「それをアビーさんが持っていた」
歌川広重の肉筆が分かる貴重な下絵。入手経路は定かではありませんが、きれいな状態で保管されていて、こちらも貴重な資料として価値が高いんです。
田部井さん
「やっぱり下絵というのは1点のものなので、しかも完成形ではない、広重のせきららな筆がご覧いただけるということで、非常に貴重な作品だと思いますね」
(2026年2月16日放送分より)
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