
難しい判断を迫られる日米首脳会談となりそうです。ホルムズ海峡への艦船派遣について、トランプ大統領の発言が変化する中、高市総理は「できないことはできないと伝える」としています。トランプ大統領の理解は得られるのでしょうか。
【画像】高市総理「できないことはできないと」“自衛隊派遣”日米首脳会談を前に
「会談の中身予断はしない」
高市総理大臣は18日夜、アメリカへ発つ前に、こう話しました。

高市早苗総理大臣
「何より重要なことは事態の早期沈静化。エネルギー安全保障を含む、中東地域の平和と安定に向けて取り組むことと考える。会談の中身について予断はしません。先方の仰ることも色々ありましょうから。我が国の立場・考えも踏まえ、しっかり議論したい。日本の国益はしっかりと最大化する。その上で同盟国ですから、トランプ大統領との間で安全保障・経済安保を含む経済について、幅広い分野で関係強化を確認したい」
「できないことはできない」
トップ会談で何を求められ、日本は何を伝えるのか。訪米前、最後の予算委員会は、それが焦点となりました。自衛隊のホルムズ海峡への派遣について。

立憲民主党 杉尾秀哉参院議員
「トランプ大統領から日米首脳会談で強硬に派遣を求められた場合、本当に予測不能ですから、高市総理は『ノー』と言えますか」

高市早苗総理大臣
「来たる日米首脳会談における個別の議論について、予断をすることは差し控えたい。自衛隊の派遣については何ら決まってないということは事実。法律の範囲内で必要な対応を検討していくという考え方です」
立憲民主党 杉尾秀哉参院議員
「現在、戦闘状態にあるペルシャ湾・ホルムズ海峡への派遣は困難じゃないかということですが、日本が法制度上、憲法9条を含めて制約がたくさんある中で『できることはできる』『できないことはできない』とはっきりと伝えるべき」

高市早苗総理大臣
「先ほど来、申し上げている通り、日本の法律に従って『できることはできるけど、できないことはできない』それをしっかりとお伝えするつもりですし、先方もこれまでの経緯から日本の法律をよくご承知のはずです」
「貢献できるのは停戦合意後」

このところ取り沙汰されていたのは、ホルムズ海峡には踏み入らず、その手前の海域に、自衛隊を調査・研究の名目で出す案です。2019年、タンカー攻撃が相次ぎ、シーレーンが不安定になった時に、安倍政権が取った対応でした。
立憲民主党 杉尾秀哉参院議員
「その日本独自の取り組みを、今回もするつもりはないですか」
高市早苗総理大臣
「先ほど来、申し上げている通り、自衛隊の派遣について何ら決まっていることはございません」

立憲民主党 杉尾秀哉参院議員
「決まっていなくても、検討はしていないんですか」

高市早苗総理大臣
「完全に停戦合意が履行された後、完全な停戦合意が行われた後ですね、貢献できることは皆無とは申し上げません。その時しっかりと考えさせていただきます」

立憲民主党 杉尾秀哉参院議員
「停戦合意が条件だということでよろしいですね」
高市早苗総理大臣
「2019年と同様の形の派遣でしたら、停戦が確立していることが条件であるということです」

高市総理は、調査・研究目的についても、停戦合意なくして自衛隊をホルムズ海峡周辺には送らない方針です。では、首脳会談で日本は何を示すのか。側近によると、高市総理はトランプ大統領に、ホルムズ海峡での安全な航行の重要性を伝えるほか、イラン攻撃が国際法違反かどうかへの言及は避けつつ、“アメリカが事態の沈静化に取り組んでいる”という趣旨で、支持を表明することも検討しているといいます。
アメリカ産原油日本で共同備蓄へ

そして、もう1つ。にわかに浮かび上がっているのが、アメリカでの原油増産の協力です。具体的には、アラスカ産の原油や、シェールオイルなどの増産に日本が投資を行い、増えた分の原油を日米共同で備蓄するというもの。
アメリカ トランプ大統領
「掘って掘って掘りまくれ」
就任当時、化石燃料の増産に意欲を見せた、トランプ大統領。現地を視察した閣僚もこんなことを話していました。

アメリカ バーガム内務長官
「米国の分を確保した後、友好国や同盟国に売れば、敵対勢力から買わずに済む。世界はより平和な場所になる」

油の質が違ったり、寒冷地に耐える設備が必要だったりはしますが、現状、9割以上を中東に頼る日本にとって、輸送の時間も短いアラスカの原油の増産は、うまくいけば調達先の多角化にもつながるかもしれません。日本政府内には、関税交渉で背負った5500億ドルの対米投資のメニューを埋めるうえでも、一石二鳥だという見方があります。
トランプ氏が求めていること
ただ、思惑通りに行く保証がないのが、今のアメリカです。オバマ政権で、NSC(国家安全保障会議)の東アジア担当部長だったジョンストン氏は、こう分析します。

ジョンストン氏
「トランプ政権は、安全保障全般で同盟国の役割と貢献を拡大したい。日本が重視すべきは、海峡の再開に何らかの貢献を示す姿勢です。日本にとって海峡交通の維持は安保・経済の両面で必須だからです」
トランプ氏 ホルムズめぐり投稿
トランプ大統領は自身のSNSに「もし、イランというテロ国家の残りを完全にたたき潰して、ホルムズ海峡の責任を我々ではなく、利用している国々に負わせたらどうなるだろうか。そうすれば反応の鈍い我々の同盟国もすぐに動き出すだろう」と投稿しました。
さらに「あの愚か者たちに言っておくが、イランは世界最大のテロ支援国家とみなされている。我々は今、イランを急速に追い詰めているところだ」と記しました。
トランプ大統領は18日、ホルムズ海峡への艦艇の派遣に消極的なNATO加盟国に対して「愚かな過ちを犯している」などと述べて、批判しています。
迫る『日米首脳会談』の焦点

アメリカの外交・安全保障政策が専門の明海大学・小谷哲男教授に話を聞きます。

(Q.トランプ大統領は同盟国に対して『愚か』と発言するなど、かなりフラストレーションのたまっている様子が伺えます。一連の発言について、どう受け止めていますか)
小谷哲男教授
「『一切、同盟国の支援が必要ない』という投稿もありましたが、かなり同盟国の反応にいらだち・不満を募らせていることは間違いないと思います。トランプ大統領の頭の中には、ホルムズ海峡に依存している国が本来、責任を負うべきだということなんですね。にもかかわらず、どの国も手を上げないと。これは今、同盟国をテストしているわけです。どのように反応するか、アメリカが今後も同盟国を守るべきなのかどうかを考えるためにも、テストをしている段階だと思います。『支援が必要ない』という言葉を額面通りに受けて、やらなくていいんだとなると、後で同盟関係が弱体化する方向に行きかねない危険な状態だと思います」
(Q.言葉を変えながら圧力をかけ続けている、テストしていることに変わりはないですか)
小谷哲男教授
「そうですね」

(Q.協力を名指しされた国の首脳として、初めてトランプ大統領と会談をするのが高市総理大臣になります。トランプ大統領はどんな要求を繰り出してくると考えますか)
小谷哲男教授
「これはまさにテストをしている段階なんですけれども、トランプ大統領の方から何か具体的に要請をするのではなくて、同盟国の方から何ができるのかをまず聞いて、それによって同盟国の貢献度をはかる立場になると思います。ただ、トランプ政権の関係者の話では『艦船の派遣を要請した上で、それにゼロ回答はあり得ない』ということですので、何らかの形で出すのは最低ラインになるだろうと」
(Q.自衛隊の艦船をホルムズ海峡の安定のために出すことが、トランプ大統領の前提になっているということですか)
小谷哲男教授
「それがホルムズ海峡に直接出して、しかも危険な護衛任務をやるかどうかは別として、少なくともホルムズ海峡の再開に貢献するような動きを同盟国がするかどうか。ここが問われると。日米首脳会談でもまさにそこが焦点になると思います」
(Q.ホルムズ海峡に出すのは危険だとしても、そこから離れた場所で協力するオプションもありますか)
小谷哲男教授
「そうですね。トランプ政権関係者ははっきりとは言いませんでしたが、少なくともアメリカ海軍に対する補給支援、これを日本に求めているように感じました。その場合、重要影響事態や、国際平和共同対処事態などを認定する必要はありますが、それを政治判断として、恐らく重要影響事態の方がやりやすいと思いますが、やることが求められる可能性はあると思います」

(Q.重要影響事態は、そのまま放置をすれば日本に対する直接攻撃の恐れがある事態の場合、アメリカ軍などへの後方支援を行うことができるということですが、木原官房長官は今それにはあたらないと言っています。そこに踏み切るにはハードルが高過ぎないですか)
小谷哲男教授
「木原長官が現時点ではあたらないと言ってからもう数日経っていますし、状況はどんどん悪化していますので、重要影響事態と判断する余地は生まれ始めているのではないかと思います。これは何よりも政治判断ですので、アメリカとの同盟関係を維持するためには必要だということであれば、仮にイランを敵対視することになっても、また国内の世論の反発を受けても、総理として決断しなければならない局面に来ているのではないかと思います」
(Q.重要影響事態となると、国際法上、相手が明らかに反しているという前提が必要になると思います。今、そもそも攻撃したアメリカ側も国際法違反じゃないかと言われている中で、反撃してくるイランだけを国際法違反だと決めて、重要影響事態を適用するのは論理的に難しい気もしますがいかがですか)
小谷哲男教授
「アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃と、イランからの報復がイスラエル・アメリカ以外に及んでいる状況。アラブ諸国の石油関連施設を攻撃する。あるいはホルムズ海峡を事実上封鎖することを切り離して考えることもあり得ると思います。後者の方に注目をして、重要影響事態を認定して補給支援をするというのは、1つの考え方としてはあり得ると思います。しかし、ハードルは高いので、相当な政治的な決断が必要になると思います」
(Q.ブッシュ政権の時に、小泉政権は特別措置、そのケースに対応する支援・給油支援ということでテロ特措法を作りました。こうした特別措置法的なやり方は考えの内にあるでしょうか)
小谷哲男教授
「もちろん考え方の1つとしてあるとは思いますが、2015年の平和安全法制は、もう特措法はいらない、必要ないようにするために作ったものですので、現行法の中で知恵を絞るのが正攻法ではないかとは思います」
(Q.平和安全法制、安保法制の位置付けの中で生まれてきた重要影響事態といったことが初めて使われることになると、これは日本の安保政策の大転換になります。そこまで行かないうちに解決することが大前提であることは変わりないですね)
小谷哲男教授
「それは当然そうで、今の事態を鎮静化するための外交的な取り組みも日本単独で、及び同盟国・同志国と一緒にやることは必要ですし、その点についても日米首脳会談で話し合う必要があると思います」
日本の“交渉材料”効果は

(Q.高市総理が会談で提示しようとしているのが、日米共同でアメリカ産原油を増産し、その原油を日本の施設で共同備蓄するという計画です。これはトランプ大統領に響きますか)
小谷哲男教授
「もちろん、日本が投資を増やすと、アメリカのエネルギーを買うということ自体は歓迎するとは思いますが、これをやったからといって、ホルムズの安全に貢献しなくていいと判断してもらえるとは思えないので、やはりホルムズの話は別途しっかりと考える必要があると思います」

(Q.綱渡りのような首脳会談になりそうですが、どういったことを注目してみますか)
小谷哲男教授
「これまでも日米関係が非常に厳しい局面は何度もありましたが、ここまで難しい局面は恐らくなかったと思います。トランプ大統領はイランへの攻撃ということで、いわばパンドラの箱を開けてしまったと言えると思います。世界経済も大きな損害を受けているわけですから。その大統領に国際法上言いたいことはあるとは思いますけれども、何よりも日米の同盟関係の維持というのが日本の安全保障全体にとっては重要ですので、そこをどうバランスを取るのかというのが、今回の首脳会談の1番の焦点になると思います」
(Q.ゼレンスキー大統領とトランプ大統領の会談を思い出すと、かなり熾烈なやり取りがありました。そういったケースも想定しなければいけませんか)
小谷哲男教授
「トランプ政権は各国との首脳会談を、メディアを入れたオープンな場でやることを続けています。そこでは記者から不規則な質問なども出てくるので、相当な瞬発力を求められることになります。ゼレンスキー大統領の時は、まさに記者の質問を受けて口論につながっていますので、今回もそういう可能性は否定できません。トランプ大統領の攻撃を支持するのかとか、艦船を送るのかという質問が飛んできた時に、どのように対処するかも同時に求められるし、トランプ大統領が不満であれば『失望した』というような発言がカメラの前で出るかもしれませんので、相当緊張した状態で首脳会談を行うことになると思います」
