
岩手県大槌町の山林火災で出されていた避難指示が、先月30日にすべて解除されました。現在も鎮圧に向けて消火活動は続いています。ただ、山林火災は消し止められたあとも長年にわたって影響が残ります。去年、大規模な火災が起きた岩手県の大船渡市の現場の現在の様子を取材しました。
専門家「この木はもう死んでいる状態」
住民
「家に帰ったら、とりあえずお風呂に入って寝たいです」
「(Q.安心して眠れそうですか?)そうですね、眠れます」
山火事発生から9日目の先月30日、岩手県大槌町のすべての避難指示が解除されました。
岩手県大槌町 平野公三町長
「避難指示は解除しましたけれども、まだ鎮圧にはなっておりませんし、これから鎮火に向けたさまざまな消防の活動がありますので、それを注視してほしい」
ようやく収束に向かい始めましたが、大規模な山火事は長年にわたって森林に大きなダメージを残します。
ここは、かつて山火事で激しい炎に包まれた場所。
去年2月に平成以降、国内最大の山火事に見舞われた大船渡市。延焼面積は市の10%にあたる約3370ヘクタール。東京ドーム約720個に相当する広さです。
火災発生から鎮火までは41日。炎は住宅にも燃え広がり、200棟以上の建物が被害を受けました。
あれから1年以上経ちますが、火災現場はどんな状況になっているのでしょうか。
山林火災に詳しい日本大学生物資源科学部の串田圭司教授とともに、出火地点にほど近い山林で山火事の影響を検証しました。
串田教授
「これも焼けた跡がありますし、こちらはもう全体が焼けている様子で。あっ、根も焼けていますね。根が焼けるともう真っ先に倒れますね」
さらに進むと。
「すごく焼けていますね。ここから見ると本当に、葉っぱも付いていない」
辺り一面に広がるのは、黒く焼けた「被害木」。中が焼けて傾いている木もあります。
「ここは非常に大規模な樹冠火(じゅかんか)が起きた場所ですね」
「これは杉ですね。杉は油分を多く含んで“燃えやすい”という特徴があります」
樹冠火とは、枝葉に火がついて樹木全体が燃え上がること。
「ここは比較的寒冷な地域になります。温度が低いと、杉の落ち葉や枝が分解されない。こういったものが土の上にどんどんたまっていきます。1年分たまっているわけではなく、何年分もたまっている」
杉や松などの針葉樹は油分を多く含み、こうした針葉樹林では山火事がとくに発生しやすく、大規模化しやすいといいます。
木の幹を近くで見てみると、全体が真っ黒に焼け焦げ、葉もすべてなくなっています。
「これは(焼損度)『激』の木になります。上まで炎が達したというもので、表面全体が強い火を受けていて、“水を吸い上げる機能”が失われている。この木はもう死んでいる状態です」
土壌に油分 水通さず
被害の深刻さを示す焼損度。木の延焼した規模によって「小」「中」「大」「激」に分類されます。
去年2月の山火事では、延焼面積のうち半分以上が焼損度「大」と「激」に判定されています。
串田教授によると、大槌町の山火事も大船渡市と同様に、焼損度「激」や「大」が大半を占めると予測しています。
「(焼損度)『激』以外にも焼損度『大』のものについては、『激』と同じように生きられない状態。今は立っていても、あと1~2年すれば倒れる。そういうリスクが非常に高いです」
「(Q.斜面と通ってきた道、草の生え方が違うように見える)(斜面の)針葉樹の下には落ち葉・枝があって、これが燃えました。これの油分が地面をコーティングした。これらの道は針葉樹がなかった。コーティングがされていない」
「灰や炭の成分と合わさって、松ヤニのような成分。そういったものが(土に)ついてコーティングされている状態」
串田教授によると、このヤニの成分でコーティングされた土壌が、今後別の大きな災害をもたらす可能性があるといいます。
「このコーティングすることによって雨水が土の中に染み込みにくくなります。それで何が起きるかというと、表面を流れ落ちる。そうすると土も一緒に流れて、土砂災害を引き起こす場合もあります」
本来、山林の土壌は雨水を蓄えますが、ヤニの成分で土の表面がコーティングされると水はすべて地表を流れ、土砂災害などのリスクが高まってしまうのです。
実際にアメリカ・カリフォルニア州では、2017年12月に大規模な山火事が発生し、大量の樹木が焼失。その1カ月後に豪雨に見舞われ土砂崩れが発生、住宅6棟が土台から流される被害が出ました。
「良い木は燃えた」
このような災害リスクを防ぐにためにはどうすればよいのでしょうか。
「この立っている木を伐採する必要があります。このまま放置すると倒れてきます。まず伐採して土をかき起こし、整える。そして植林をしていかなければいけません」
しかし、串田教授によると、山林が元に戻るには20~50年と長い年月がかかるといいます。
山林の再生には他にも大きなハードルがあります。
出火場所から山を越えて2キロほどに住む千田耕基さん(79)。近くに所有する山の大半が火事の被害に遭いました。
「燃えた範囲はすべてです。45ヘクタールすべて」
「ここが(樹齢)40年くらい。奥にいくと80年。ちょうどいい時期の木がすべて火災にあった」
焼けてしまったことで、木材としての価値にも影響が出ます。
「木の状況により、良い木だったら木材になる。キズ物の木は木材にならず、(安い)チップ材料にしかならない」
杉の場合、木材であれば1トンあたり約1万~1万2000円で出荷されますが、火災の影響を受けたものはバイオマス燃料のチップとして出荷され、半分ほどの価格になってしまいます。
さらに、こんな所にも変化が。
「去年の11月にすごい川になりました」
去年11月に大雨が降った翌朝の映像を見ると、雨水が川のように流れています。火災が起こる前には見られなかったといいます。
「(火災前)多少の雨が降っても雨をため込むことができた。(今は)雨水が染み込まない。初めてです。ここが川になったのは」
伐採後も難題
一刻も早く山を元に戻したいという千田さんですが、難しさに直面しています。
これは千田さんが所有する土地の区分を示した地図。
「ここが未定です」
「(Q.曖昧(あいまい)な(土地の)境界になっている?)これだけで全体が筆界(土地の境目)未定になる」
親族に譲っていた土地との境界線が曖昧だったため、復興に関する伐採費用などの補助金申請が通らなかったといいます。
「今後の森林を管理するうえで計画が立てられない」
「個人の力ですべて解決は不可能」
「先祖から受け継いだ山林。次の世代に受け継いでいきたい。手放すことは考えていません」
大船渡市では去年10月から被害に遭った樹木の伐採が始まり、今年には植林を進めていく予定ですが、そこでもまた別の課題があるといいます。
大船渡市で山林再生事業に取り組む業者は…。
青葉組 石田郁也さん
「(Q.今これはどういう状況?)伐採後に枝葉が散らばったりしているので、それを片付ける作業をしました」
伐採後に出た枝を片付けるのも重労働。さらに苗木を植える前には。
「この辺、鹿が多いので。鹿がどうしても苗木の新芽とか、おいしいので食べに来てしまうので、植える前に鹿よけのネットを設置します」
こうした作業を行い、その後も草刈りなどのメンテナンスを10年続け、森になるまでには50年かかるといいます。
(2026年5月1日放送分より)
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