
大西洋上を航行するクルーズ船で『ハンタウイルス』と呼ばれるウイルスによる感染が確認されました。これまでに3人が亡くなり、他4人が症状を訴えています。このウイルスは、ネズミからヒトへ感染することが知られていますが、WHO(世界保健機関)は今回、濃厚接触によるヒトからヒトへの感染が起きた可能性もあるとしています。
【画像】日本に拡大の可能性は?“ハンタウイルス”クルーズ船で集団感染か
日本人乗船 沖合で立ち往生
その訴えは沖合に停泊中の1隻のクルーズ船から投稿されました。

乗客 ジェイク・ロズマリンさん
「普段はこんな動画を投稿しないけど、何か言わないとと思って…。今、MVホンディウス号に乗船していますが、ここで起きていることは紛れもない現実です」
大西洋を航行中だったクルーズ船『MVホンディウス』で、ウイルスによる集団感染の疑いが出てきました。『ハンタウイルス』と呼ばれる感染症です。

WHO感染症対策・予防局 ケルクホーフェ局長代理
「大西洋カーボベルデ沖に停泊するクルーズ船で発生したハンタウイルスについて最新情報をお伝えします。日本時間5日の時点で乗客・乗員147人中、7人が不調を訴え、残念ながら3人が死亡しています」
クルーズ船は現在旅の寄港地であるカーボベルデに着いていますが、乗客乗員の上陸は許されていません。乗客の中には感染は確認されていないものの、日本人1人が含まれていることが分かっています。

外務省
「邦人保護の観点から、すべきことがあれば対応する。厚労省・内閣官房の感染症の部局とも連携して対応する」
ネズミが媒介 高い“致死率”

ハンタウイルスはネズミが媒介するウイルスです。乾燥した排泄物などを吸ったり触ったりすると感染します。風土病としてユーラシア大陸や南米では古くから存在が知られてきました。1940年代の満州、関東軍の間で大流行し、1万人が感染し、3000人が死亡しました。日本国内での感染例は多くありませんが、大阪で2人が亡くなったことがあり「梅田熱」と呼ばれました。

ヒトからヒトへの感染は稀で、汚染された閉鎖空間で、同じ感染源から複数の人が同時に感染するケースが多いといいます。毎年、世界で1万~10万件の感染が起きていると推定されているウイルスになります。ただ、発症すると発熱や肺障害・腎障害が起き、致死率が高いことが特徴です。
1993年にはアメリカで致死率が65%になる新種が発見されたこともありました。

カナダ公衆衛生庁 サフロネッツ主任研究員
「感染者を治療するワクチンはなく、対症療法が中心になります。感染を早期に突き止め、対応可能な施設に入ることが重要。この症例では呼吸困難への対応が極めて大切ですが、特定の治療法は今存在しません」
航海中次々体調崩す乗客

今回のクルーズ船のツアーは、大西洋を航行するというものでした。途中、南極に上陸し、ペンギンを見るというスケジュールもあります。行程を見てみると、先月1日にアルゼンチン南端の港を出発。大西洋の島々を巡りながら、約1カ月をかけてアフリカ大陸北西部の沖合にあるカナリア諸島を目指すというものです。



死亡が3人、重篤が1人を含む7件は、この航行中に確認されました。WHOなどによると、先月6日、乗客である70歳男性が発熱・頭痛・下痢の症状を訴えます。この男性は11日までに呼吸困難に陥り、死亡しました。同じくオランダ人である69歳の妻は、夫の死亡後に胃腸の症状により途中の島で下船します。帰国のためにヨハネスブルクに向かっていましたが、その機内で症状が悪化。病院に搬送後の先月26日に死亡しました。3人目は年齢は判明していませんが、ドイツ人の女性です。先月28日に発熱と倦怠感を訴え、その4日後に死亡しました。遺体はまだ船内に残されたままです。

乗客 カセム・ハトゥさん
「私は感染が広がって3人が亡くなった船上にいます。当初はアルゼンチン南部の港から南大西洋の島々に寄港し、素晴らしい自然を堪能し、カーボベルデに到着する予定でした。あそこがカーボベルデです。でも上陸は認められていません。35日目の今日、旅を終える予定でしたが、そうはならないでしょう」
艦船はなぜ起きたのか。WHOの見解は…。

WHO感染症対策・予防局 ケルクホーフェ局長代理
「7人はアルゼンチンで乗船しています。ハンタウイルスの潜伏期間が1~6週間とされるため、彼らは船外で感染したとみられます。ただし、夫婦間や相部屋で、濃厚接触による“ヒト・ヒト感染”が起きた可能性もある」
「ヒト・ヒト感染の可能性も」

コロナウイルスでクルーズ船のダイヤモンドプリンセス号が横浜港に停泊した時、最後まで船内に残っていた船長が上陸できたのは発生から1カ月後のことでした。下船ができない乗客が訴えるのは、一日も早い帰宅、それだけです。

乗客 ジェイク・ロズマリンさん
「私たちは話のネタでも、単なる見出しでもない。人間です。家族も暮らしもあり、私たちの帰りを待つ人たちがいます。不確かなことが多く、それが一番つらい。今はただ身の安全が第一。そして何事もなく家に帰りたい」
地域で違い“ヒト・ヒト”も
感染制御学が専門の、大阪大学医学部・忽那賢志教授に聞きました。
(Q.WHOは、ヒトからヒトへの感染の可能性に触れています。これをどう見ればいいですか)

大阪大学医学部 忽那賢志教授
「ごく稀ではあるが、過去に“南米型”のハンタウイルスで、ヒトからヒトへ感染した例がある。基本的な症状は発熱・頭痛・悪寒など、インフルエンザに似たものがでる。治療薬がないため、解熱剤・点滴など対処療法が中心になる」
ハンタウイルスはアジア型と南米型に分かれています。

【アジア型】
腎臓に障害が出る疾患で、潜伏期間は10~20日。腹痛や嘔吐(おうと)などの症状がみられ、重症化すると致死率は3~15%程度。
【南米型】
肺に障害が出る疾患で、潜伏期間は数週間。重症化すると肺に強い炎症が起こり、呼吸困難に陥ることも。致死率が高く、約40%に及ぶ
忽那教授によりますと、WHOが指摘するように、今回のクルーズ船での感染は“南米型”の可能性があるということです。
日本に拡大する可能性は
(Q.なぜ感染が広がってしまったのでしょうか)

大阪大学医学部 忽那賢志教授
「今回は、元々感染していた人が乗船した可能性もある。ヒトからヒトへ感染したとすれば飛沫感染が考えられ、クルーズ船という限られた空間の中での集団生活のため“まれに起こり得ることが起こってしまった”可能性がある。WHOは、濃厚接触者を特定し、今後発症しないか慎重に経過を観察すると思われる」
(Q.日本に感染が拡大してくる可能性はありますか)

大阪大学医学部 忽那賢志教授
「今回は調査中だが、基本的にはネズミからヒトへの感染なので、過度に心配する必要はないと思う。日本のネズミは、ハンタウイルスを持つ個体がほとんどいない。海外から入り込む可能性もあるが、検疫で定期的にネズミの検査をしていて、これまでに確認された事例はない。今回の症例から、日本で感染が拡大してくる可能性は低いが、今後の推移を見守る必要がある」
