
熊本県八代市の市役所は2016年の熊本地震で被災し、2022年に新しい庁舎が完成しました。延べ床面積は旧庁舎の2倍以上。総事業費は大幅に膨らみ、建設当初から批判の声も上がっていましたが、市議会のドンと言われていた人物が7日、あっせん収賄の疑いで逮捕されました。
【画像】“復興のシンボル”のはずが…新庁舎建設で汚職“市議会のドン”逮捕 熊本・八代市
“復興のシンボル”のはずが…

人口約11万8000人。熊本県南部に位置する八代市。2016年の熊本地震では、市内でも4人が亡くなるなど、大きな被害を受けました。その復興のシンボルとして2022年に完成したのが新しい市庁舎。総工費は171億円。災害復旧事業債や合併特例債が使われました。
八代市 中村博生市長(2022年当時)
「国や県の皆様には、新庁舎の建設にあたり有利な財政措置を講じていただきました。改めまして感謝を申し上げます」

この新庁舎建設をめぐり、現職の市議に多額の現金が流れていた疑いが浮上しました。警察は7日、収賄あっせんの疑いで八代市議の成松由紀夫容疑者(54)を逮捕。さらに、元市議の松浦輝幸容疑者(84)らも共謀したとして逮捕されています。
警察によると、成松容疑者らは、新市庁舎を建設した前田建設工業から便宜を図る見返りに6000万円を受け取ったとされています。
複数職員 入札前から違和感
市役所内部で何が起きていたのか。この問題をめぐっては去年12月、八代市議会が百条委員会を設置。入札前の段階から複数の職員が違和感を抱いていたことが明らかになっています。
新市庁舎の建設は、一番安い価格を提示した会社が落札する『最低価格方式』か、実績など価格以外も考慮する『総合評価方式』を採用するかなど、詳細は決まっていなかったということです。しかし、当時の担当課長のもとに、市長から直接電話があったといいます。

新庁舎建設課課長(当時)
「市長の方から私の携帯に『新庁舎は総合の一括でよかか』という電話がありました。そこからは総合評価方式で協議を進めて参りました」
さらに、業者を評価する基準についても、職員が疑問を抱くやり取りがあったそうです。評価基準を作成し、市長や副市長のもとに持参すると…。

新庁舎建設課課長(当時)
「副市長の方から『2、3日預からせてもらいたい』ということでありましたので、その評価基準を預けました。数日後、当時、財務部の部長より『評価基準ができたので支所まで取りに来てくれ』と連絡がありました。『これで一切変更せずに進めてほしい』と言われ、評価基準を提示されました」
示された新しい基準。それは職員が作ったものとはかけ離れたものでした。
評価基準“天の声”で変更
入札を担当した職員
「上司から渡された際に『これは天の声によるものであり、一言一句変更することなく、この案に従って事務を行うように』と口頭で指示がございました」
その基準案が示す意味をすぐに理解したといいます。

入札を担当した職員
「これが何を示しているのかなと試算をして、特定の業者に有利に働いていると分かった時点で、何か公平な競争性の働かない入札案だなと認識しました」
職員は上司に異議を唱えたといいますが…。

入札を担当した職員
「『●●ちゃんはペーペーだから、責任は取らんでいいとよ』というような発言をされた」
警察は、この基準案について、採点される側であるはずの前田建設工業が作成し、成松容疑者に渡していたものだとしています。
建設業者 落札後に“利益”要望

こうした働き掛けは2019年6月ごろまで行われていたとみられます。その後、7月には入札が公告され、9月に前田建設工業などの共同企業体が129億8000万円(税込み)で落札。最終的に応札したのも、この共同企業体のみで、落札価格は予定価格に対し99.92%にあたる額でした。
しかし、落札後には前田建設工業側からさらなる工事費を求める趣旨の発言があったといいます。百条委員会で、音声が流されました。

前田建設工業の音声
「我々が応札する今回の市庁舎。ちょうどプラスマイナスゼロぐらいの話で、辞退しようかなということで考えていたところ、色んな関係の方で、それは察してほしいんですが、話がありまして。自分らとしては、ぶっちゃけますと10%ほど利益が必要だという話」
この発言の直前には、成松容疑者が市の幹部を呼び出したとする証言もあります。

新庁舎建設課課長(当時)
「これはもう忘れもしません。ちゃんこ屋、成松議員の実家です。『課長、明日の夜は時間が取れるかな。成松市議から話があるようだ』ということだったので、一応、分かりましたと伝えて、お店の方に行きました。そしたら、そこに成松市議は不在。その後、遅れること30分以上して店に入ってこられて、対面に座って開口一番『課長足らんぞ。受注額が足らない』と。試しにいくら足らないんですかと聞いたら『10億から11億』」
この時、それまでの経緯が全てつながったと感じたそうです。

新庁舎建設課課長(当時)
「最初の市長の総合一括の話。副市長から示されたのに、評定基準ということが、そこで初めてつながって。こんな内容が公になれば、市としてはひっくり返るのではと。大変なことになるということで恐ろしくなった」

八代市はその後、工事費を増額。さらに、外構工事などを随意契約することで前田建設工業側に合わせて13億円ほどを支払っています。
元力士 角界と政界に広い人脈
なぜ成松容疑者の意向に沿うかのような経緯をたどったのか。職員は成松容疑者の存在について、こう話します。

新庁舎建設課課長(当時)
「成松市議に連絡すると恫喝(どうかつ)されると思った」

成松容疑者を“市議会のドン”と呼ぶ人もいます。日本大学出身で、幕下力士の経験もあった成松容疑者。1994年の一月場所で初土俵を踏み、序ノ口優勝の経験もあります。引退後は、学生相撲の指導者を経て、政治の世界に。2005年、34歳で八代市議に初当選し、そこから6期連続で当選を重ねてきました。議会では副議長や議長を歴任。新庁舎の落成式にも議長として出席していました。
成松由紀夫容疑者(2022年)
「より市民の皆様に寄り添った、身近な開かれた議会を目指し、市議会としても取り組んでいます」
成松容疑者はどんな人物だったのでしょうか。

地元中学校の元教員
(Q.地元でも有名な人)
「顔は広いと思う。相撲界にも顔が広いし、自民党にも当然顔が広いだろう」
「私が知っている成松由紀夫は、本当に純粋に相撲を広めたいと。だから本当に熱血指導で厳しい指導。昔ながらの。とても厳しいが、子どもたちに本気で向かっているという。そういう熱血な男と思っている」
後援会関係者
「いい車に乗るわけでも、いい時計をするわけでもなく、派手な生活をしているようでもなかった。ただ、息子の学費や、去年完成した新築の住宅ローンもあるので、お金はかかっていたと思う」
成松容疑者は、これまで一貫して金銭の受け取りを否定してきました。先月の会見でも。

成松由紀夫容疑者
(Q.お金をもらったという疑惑は完全に否定する)
「当たり前じゃないですか。前回の記者会見で見せましたよね。フラット35でローンを組んでいる。警察も疑義があれば、私の通帳でも何でもめくると思う。だから捕まっている。はっきり言って。(金を)もらっているもらっていないは断固否定するし、フラット35で家を建てているので、お忘れなく」
警察は、逮捕された3人の認否を明らかにしていません。また、現時点で共犯者はいないとしていますが、今後、当時の市長や職員などからも話を聞く方針です。
