
東海大学では絶滅の恐れがある海産物の養殖に取り組んでいます。そんな中、今成功すれば世界初となる身近な食材・タコの陸上養殖にも挑戦。快挙達成が間近に迫る最新研究を調査しました。
研究を始め15年…成功目前
静岡県・駿河湾。富士山がはっきりと見える三保松原の近くにある東海大学の研究所で、驚きの養殖研究が行われています。
それは日本人にとっておなじみの食材でありながら、生態は謎。育てるのが最も難しいとも言われるタコです。立ち上がったのは、東海大学海洋学部・秋山信彦教授。アオリイカに、サーモン。さらに“意外な”生物も。そのノウハウをタコにぶつけます。
佐藤ちひろアナウンサー
「水槽がたくさんありますね」
秋山教授
「このつぼの中に」
佐藤アナ
「本当だ。タコ!つぼに入っていますね」
秋山教授
「卵を産んで、親が守っている。すぐ、卵を親が隠すんですよ」
東海大学が研究を始めてから15年。養殖で最も重要な技術の一つ、タコを複数飼育するための安定した環境を確立させるなど、世界初、タコの“陸上完全養殖”成功に迫っています。
完全養殖とは、人工的に孵化(ふか)させた親ダコから、次世代の赤ちゃんを誕生させるサイクルのこと。卵は約1カ月で孵化。その瞬間、小さな生き物が水中に飛び出します。
これまで多くの企業がチャレンジしてきたタコの養殖。東海大学は国の研究機関とともに世界をリード。様々な課題を乗り越えてきました。
秋山教授
「タコの大きさによって大分違うが数十万匹」
佐藤アナ
「どのくらい生き残れるのですか」
秋山教授
「自然界で育つのは1匹、2匹。他に食べられたり、餌(えさ)が食べられなくて死んだりするのが多い」
タコの幼生にまず立ちはだかったのが、餌の問題です。DNA解析などで好物は分かっていました。
秋山教授
「カニの幼生をすごく好んで食べる」
カニの幼生がこちらです。大きさは1ミリほどです。
秋山教授
「でもタコの孵化に合わせてカニの幼生を孵化させるのは大変。産業的には採算がとれないので、人工飼料を研究している」
「人工飼料は沈む。タコの幼生は沈んだものは絶対食べない」
カニを食べさせれば費用がかさみ、人工飼料にすると餌が沈んで食べてくれない。そこで水槽を工夫しました。
秋山教授
「解消したのがこれ。ノズルから水が出ると、中で水が回るので、下に落ちた餌も上に上がる」
水流で餌を浮かせることで、浮遊する幼生に人工飼料を与えるという独自の設備を開発。餌の配合は秘密ですが、そのめどがつきました。
秋山教授
「ある程度腕が伸びてきて、物にくっつけるようになると、下に降りてきてくっつく。それを着底(ちゃくてい)といいます」
“脱走癖”があるタコ
吸盤がはっきりするなど、タコらしい姿になってきたこの時期が、養殖最大の難関です。
秋山教授
「カニの幼生を餌にすれば9割ぐらいが着底までいくが、その後どんどん死んで、結局生き残るのが数匹に。多分餌だと思う。どれなら育つか、一つ一つ潰していく」
タコの生存率が低くなる原因について、水質や酸素量など様々な研究が行われてきましたが、まだ不明だといいます。さらに成長したタコにも、クリアしなければならない問題があります。
秋山教授
「大学の施設で飼っている時はひどくて。ある朝、壁にタコ。脱走して、どうしようもない」
ということで厳重に管理。“脱走癖”があるタコは、この下にいます。
佐藤アナ
「ちっちゃい。これでも脱走する?タコって力持ちなんですね」
秋山教授
「触ってみます?」
佐藤アナ
「いいんですか」
佐藤アナは恐る恐る触ろうとしますが、やっぱり脱走。
佐藤アナ
「おいでおいで。タコさん。すごい嫌がる。この水の中でですもんね。すごい、かなり吸いつく」
ようやく発見 食べる餌
やんちゃなタコの性格で、さらに手を焼いたのが排他的行動です。
秋山教授
「1つの水槽にたくさん入れると、排他的行動をとる。けんかをする」
親ダコ同士のけんかが続くため、秋山教授らは試しに仕切り板を設置。するとこれが不思議!ピタリとけんかが止んだのです。
佐藤アナ
「なんでですか?」
秋山教授
「それが本当に分からないです」
まだまだ難題は続きます。それは低コストのうえ、タコが気に入る人工飼料の開発です。
野生のタコはこの段階になると、カニや二枚貝などを好んで食べます。共通点は殻。「殻が重要なのでは?」と考え、新たな餌を独自開発しました。
秋山教授
「魚肉ソーセージをイメージ。共同研究者の先生から『コラーゲンケーシングがある』と言われて、ちゃんと食べる」
タコの習性からたどり着いた新しい餌。コラーゲンでできた膜が殻と同じ効果をもたらしたのです。
卵から孵化、着底。そして親になったタコが産卵。タコの成長過程のうち、着底した後の生存率が最も大きな課題となっています。また、人工飼料で採算がとれるようになれば養殖成功です。
不漁時代の切り札に
そんなタコの養殖を、秋山教授が続けている理由は?
築地銀だこを展開するホットランドホールディングス。タコが手に入らなくなるかもしれない、そんな危惧があり、陸上養殖の知見のある秋山教授にも依頼が回ってきたのです。
タコを巡る状況は厳しく、兵庫県明石など国内生産地からは不漁のニュースが続々届きますが…。
秋山教授
「養殖というのは海でとれるとれないに関係なく、一定の価格でずっと推移できるので、安定供給ができるようになる」
東海大学では、他にも資源保護が必要な珍しい魚を養殖しています。
秋山教授
「これはタツノオトシゴの仲間で、クロウミウマ」
佐藤アナ
「浮いていたり、くっついたりしている」
秋山教授
「基本的にはくっついているんです」
ワシントン条約で商取引が制限されているクロウミウマです。
秋山教授
「オスの袋の入り口から。メスが卵を入れる。卵をオスが育てる」
これがクロウミウマの幼生です。餌の密度を濃くしたり栄養分を変えたりすることで、生存率が大幅にアップしました。こちらも謎多き生物ですが、一つだけ分かったことがあります。
秋山教授
「どうも相性があって、オス1匹メス1匹で水槽の中で飼っていると、そのパートナーと気が合うと産む」
佐藤アナ
「恋愛しているんですか?」
秋山教授
「恋愛か…。そういう感情なのかどうかは分からないですけど…」
(2026年5月12日放送分より)
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