「白い巨塔」が崩壊した夜ーー銀座・風俗接待の泥沼 暴かれた“東大の腐敗”

「白い巨塔」が崩壊した夜ーー銀座・風俗接待の泥沼 暴かれた“東大の腐敗”
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 「知の頂点」と「研究資金」は、なぜ夜の街で結びついたのか。東京大学大学院の共同研究を巡る贈収賄事件の裁判では、研究者、スポンサー、大学組織の力関係が絡み合った生々しい実態が明らかになった。これまでの取材や法廷で語られた当事者たちの証言から、その構図を追う。(テレビ朝日社会部司法クラブ・西平大毅)

【画像まとめ】膨大に膨れ上がる接待の領収書、テキーラで乾杯する佐藤被告と引地被告

贈賄罪に問われた「日本化粧品協会」代表理事の引地功一被告(52)
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収賄罪に問われた元特任准教授の吉崎歩被告(47)
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 2026年4月23日、東京地方裁判所706号法廷。

 東京大学大学院医学系研究科の共同研究を巡る贈収賄事件の初公判が開かれた。

 贈賄罪に問われた一般社団法人「日本化粧品協会」代表理事の引地功一被告(52)と、収賄罪に問われた元特任准教授の吉崎歩被告(47)。

 被告となって現れた両者。法廷では、接待という形で歪んだ関係に陥った過程が次第に明らかになっていった。

■「圧倒的な権力の前で…」ーー贈賄側の証言

収賄罪で起訴された元教授の佐藤伸一被告 吉崎被告の師匠にあたる
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 引地被告は起訴事実について「おおむね間違いありません」と認めた。

 そのうえで、接待を続けることになった背景について次のように述べた。

「佐藤先生は大学の中で非常に大きな権限を持っている方だと感じました。研究を進めていくためには、先生の意向を無視することはできないと思っていました」。

 佐藤先生とは、「東大皮膚科の権威」「東大病院で5本の指に入る名医」とも言われてきた佐藤伸一(62)。東大大学院教授であったが、今回の事件により、懲戒解雇。そして「被告」なった。

 引地被告が、その佐藤被告がいる東京大学と共同研究を行おうと考えたきっかけは、CBD(カンナビジオール)の有効性を医学的に検証したいという思いだったという。

 CBDとは大麻草から抽出される成分の一種で、合法だが、消費者から安全性や効果についての問い合わせが多く寄せられる側面もあった。そのため引地被告は「最終的には医学的な根拠が必要だ」と考えた。

 その時を振り返り、引地被告は「社会的に広く認められるには、臨床研究が必要だと思いました。そこで東京大学にお願いしようと考えました」と述べた。

 東大と民間企業がタッグを組み、企業の資金を使って大学内で研究を行うものを「社会連携講座」と呼ぶ。こうした講座には、資金を得て研究を進められる大学にもメリットがある。

 しかし、この講座設置の過程で、引地被告は佐藤被告の強い権限を感じる出来事があったという。

 講座設置に向けた資料の不備を指摘する際、佐藤被告は強く叱責した。引地被告は、佐藤被告について「大学の中でかなり強い影響力を持っている方なのだろうと感じました」と振り返った。

 引地被告が佐藤被告の“強さ”を感じた矢先、研究の進め方について「腹を割って話したい」と誘われ、2023年2月に高級フレンチ店で会食が行われた。これが「知の頂点」と「研究資金」が歪な形で結びついてしまった最初の夜となった。

■「先生の機嫌は損ねてはいけない」

銀座の高級クラブで行われた佐藤被告の誕生日パーティー」
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 その席で佐藤被告は講座設置のために尽力したことを強調した上でこういった。

「いやあ大変だったよ。おたくぐらいの規模のところが普通は東大に社会連携講座なんか持てねえんだよ。僕が通してやったんだよ」

 引地被告は焦って述べた感謝が、2人の上下関係を決定付けた。

「先生の機嫌を損ねてはいけないと思い、その会食の代金を私が支払いました」

 それ以降、飲食接待が当たり前となり、接待の現場は銀座のクラブへと移っていった。

 引地被告「『クラブに行きたい』と言われ、お連れしなければならないと思いました。機嫌を損ねるのが怖かったのです」。

 接待は月に2回ほど行われるようになり、費用は一晩で数十万円に上ることもあったという。

■「手も握れないしキスもできない」過激化する欲望が行きついた先は「性風俗店」

テキーラで乾杯する佐藤被告(奥)と引地被告(手前)
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 2024年になると、佐藤被告の「クラブでは手も握れないしキスもできない」という発言を受け、接待は性風俗店にも及び、接待の舞台は東京・吉原に拡大した。

 「引地会」と呼ばれたいかがわしい会合。

 引地被告が代表を務める日本化粧品協会の建物で佐藤被告がシャワーを浴びた後、お気に入りの性風俗店に向かうこともあったという。

 佐藤被告をただひたすらに接待し続ける状態になぜ陥ってしまったのか、その理由を引地被告は法廷でこう述べた。

「研究を続けてもらわなければ講座を維持できないと思っていました。研究を止められてしまうのではないかという恐怖がありました」

(接待費用総額は数千万円に達したとして、2025年5月に引地被告は佐藤被告、吉崎被告らを相手取り民事裁判も起こしている)

膨大に膨れ上がる接待の領収書
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 接待費用が増大し続ける一方で、研究成果による収益は上がらず、両者の関係は次第に悪化していく。

 そして2024年8月、飲食店での席での佐藤被告の発言で関係は破綻した。

 引地被告によると、佐藤被告はその席で「利益を出せなければ講座は続けられない」「1500万円持ってこい」と迫り、さらには「殺すぞ」と言い放ったという。

 引地被告は耐え切れず警察に相談。事件が発覚した。

 最終陳述で引地被告はこう語った。

「贈賄という罪は、決して行ってはいけないことです。夢を人質に取られたからといって断る勇気を持つべきでした。研究を続けるためとはいえ、このような形になったことを深く反省しています」

■「教授の意向は絶対だった」ーー収賄側の証言

吉崎被告の初公判
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 引地被告の初公判が行われた日、佐藤被告とともに収賄罪に問われた元特任准教授・吉崎被告の初公判も開かれた。

 吉崎被告は起訴内容について「間違いありません」と認めた。

 接待を受けるようになった経緯については、師匠だった佐藤被告との関係を背景に挙げた。

「医学部の組織では教授の権限が非常に強く、私自身も長年その下で働いてきました。強く断ることができませんでした。意向は絶対でした」

 検察官から接待を求めた理由を問われると、次のように述べた。

「私が接待を要求したのは事実です。ただ、引地さんから『どこか飲みに行きませんか』『性風俗に行きませんか』と言われたこともありました」

■「引地さんはスポンサーだからね」心の重しとなった佐藤被告の言葉

 葛藤を抱えた吉崎被告に佐藤被告からの言葉が重くのしかかる。

「引地さんはスポンサーだからね。応じないのもねえ。これも仕事のうちだよ」

 この言葉が、断りづらい雰囲気につながったと説明した。

 その後、クラブや性風俗店での接待を受けるようになり、その回数は30回にも及んだ。

 「問題であるという認識はありましたが、自分に都合のいい解釈をしてしまいました」と明かす。大学の調査に備え、性風俗店に行った理由を「性病検査のため」と説明する書類作成にも関与したことを認めた。

 吉崎被告は、現在は東京大学を退職し、勤めていた病院も起訴後に辞職している。

 法廷では「若い医師に見せてはいけない背中を見せてしまいました」と後悔した。

■狙った商品化とその先 すがる“東大ブランド”

シャンパングラスを持つ(左から)引地被告、佐藤被告、吉崎被告
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 一方、贈賄側は異常かつ過剰な接待の先に何を見据えていたのか。引地被告は初公判前に私の取材にこう答えた。

「日本で1番の優秀な皮膚科医が集まっているのが東大。そんな優秀な先生たちが行う有効性の検証は『ぐうの音』も出ない。最高の結果が出ると思った」

 そして、「共同研究後は証明できた『根拠』を基に、商品の作り方を開発する。その後、作り方を買ってもらえる化粧品会社に譲り、その化粧品会社が商品化する予定だった」と明かした。

 その上で、 「商品化したときに、1つ商品が売れるたびに、その商品の4%を戻すつもりだった」とし、営業先については、「我々が営業しに行くか、佐藤先生が知っている化粧品会社に対し、私が代わりに営業するかだった」 と語りました。

■歪んだ力関係の中で

白衣を着た(左から)吉崎被告、引地被告、佐藤被告
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 これまでの取材や法廷での証言から浮かび上がったのは、日本の最高学府・東京大学の教授という強い権限を頂点に、スポンサー企業、研究者がそれぞれの思惑を持ちながら複雑に絡み合った構図だった。

 研究資金を求める大学側、研究成果を求めるスポンサー側。

 その利害の接点が、銀座のクラブや性風俗店という場で歪んだ形で結びついた。

 検察側は論告で2人に対し、「東大の信頼を失墜させた」と指摘し、それぞれ懲役1年2カ月を求刑した。

 弁護側は、教授の強い影響力や研究継続への恐怖を指摘し、執行猶予付き判決など寛大な判断を求めた。

東京地裁での吉崎被告の判決
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 迎えた判決の日。5月22日東京地裁は吉崎被告に対し、「職務の廉潔性を害したことは明らか」として懲役1年・執行猶予2年の判決を言い渡した。

 また、「東京大学の看板を営利目的で利用しようと画策する企業の思惑に悪用されかねないシステムという側面がある」とし、「担当教授のモラルに大きく依存する構造にあった」と、「社会連携講座」の仕組みの危うさにも言及した。

 引地被告についても東京地裁は5月26日に「接待の内容は性的志向の強いもので、東京大学における職務の公正さや廉潔性を強く害した」として懲役1年・執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。

■「東大皮膚科の権威の存在」

「東大皮膚科の権威」佐藤被告(中央)
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 この事件後、東大が全教職員を対象に行った学内調査では、利害関係者からの飲食の提供や物品の供与など、倫理規程違反に当たると判断された事案が26件あったことが判明している。

 大学を所管する松本文部科学大臣は、「実効性のある再発防止策の具体化を進めることが、(東大の)信頼回復を図るために重要だ」と述べた。

 いびつな関係はなぜ生まれ、どう東大を蝕んでいったのか。その中心にいた佐藤伸一被告の裁判の日程はまだ決まっていない。今後の裁判でどのような証拠が出て、何を語るのか、注目していきたい。

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