
東京・清澄白河にある東京都現代美術館で企画展『(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO―新説/真説 コシノヒロコ―』が7月26日まで開催されています。日本ファッション界のパイオニアであるファッションデザイナーのコシノヒロコさんが、創作の原点やデザインへの思いを語りました。
【画像】日本ファッション界のパイオニア ファッションデザイナーのコシノヒロコさん
50年前の衝撃 ローマで広がったジャポネスク
1960年代からデザイナーとして活動してきたコシノヒロコさん。70年代には既製服ブランドを展開し、働く女性の支持を集めました。2012年からは体操日本代表の公式ウェアのデザインを担当するなど、精力的な活動を続けています。コシノさんが世界に名をとどろかせたのは、1978年にイタリアで開催したファッションショーです。ここで発表した作品が、世界にジャポネスクブームを巻き起こすきっかけとなりました。
ファッションデザイナー コシノヒロコさん
「これは今から50年前の作品なんです。世界に出ていった初めてのショーなんです。それがローマでやるオートクチュールのショーですね。ヴァレンティノとかミラ・ショーンとか、そういった人たちがやっている中に一人だけ初めて東洋人として入りました」
このジャケットは、着物から発想を得たものです。縫製を最小限にし、着付けによって洋服のシルエットになるように仕立てられています。柄は中央アジアのテイストを入れ、単純な和だけではないデザインになっています。
「(Q.イタリアでの反響は?)これが信じられないぐらいウケたんですよ。もう全員スタンディングオベーションで拍手が鳴りやまなかったの。私の方がもうびっくりしちゃって、本当に本当?って自分では夢のようだったの。っていうのはね、世界の人たちが見たこともないようなファッションを持ち込んだっていうことですよ。ショーやったんですけど、まぁとにかくひどいことが当日になってからイタリアのホテルが突然ストライキだっていうの。スタッフが全然いないんですよ。だから日本から行った人達がみんなで働くとか。うちのお母ちゃんなんか訪問着を着ていい場所に座っていたのに『そんな場合やあらへんで。中入って裏方やって』みたいな、そんな感じでした」
ジャポネスクとは、日本の伝統美と西洋文化である洋服を融合させたデザインです。唯一無二の表現は、世界のファッション界に衝撃を与えました。
幼少期に育まれた原点
コシノさんの感性を育んだ原点は幼少期にあります。
「私に本当の美意識を与えてくれたのがおじいちゃんなんですよ。3歳か4歳ぐらいの時から歌舞伎や文楽に常に連れていってもらって。本当に美しいものをたくさん見せてもらって、何かそういったものが自然に体の中に入っていて好きなものをめいっぱい体の中に吸収しているんですよね。ですから、本当に自分のデザインとして表出する時に自然に出てくるものなんです」
幼いころから培われてきた日本の美しさ。それを表現した洋服も展示されています。
「この辺はジャポネスクの最たる作品なんですけれど。この赤いドレスは京都の友禅染ですね。その後ろにあるのがシルクを柿渋で染めたもの。いろいろな柄が入っていまして、漆で表現しているんですね」
昔からある柄や色の美しさを現代の服に表現していく。その手法を、80年代に日本のデザイナーが世界にはやらせ、ジャポネスクブームを作ったといいます。80年代から90年代にかけてのDCブランドブームを盛り上げた三宅一生さんや高田賢三さん、松田光弘さんらは、コシノさんがデザイナーを始めたころからの仲だったそうです。
「私が先輩で、あとはみんな後輩なんだけど、(コシノ)ジュンコちゃんのお姉ちゃんっていって、一緒になってよく遊びましたね。学生の時から。『こっとう品屋でスゴいお皿を見つけたんだよ』『見てみたい!』『じゃあ集まろう!』みたいなこととかね。香水をもらって『あんな匂い嗅いだことなかったけど嗅いでみる?』って聞くと次々に『嗅ぎたい!嗅ぎたい!』って集まるとか。もうみんな興味津々なので。その時代って何を見ても感動することばかり。同じ洋服を作るんだったら、今まで見たこともないものをやっていかなきゃいけない。これをみんなが楽しんで着てもらえるような時代を作っていくのが私たちの役目だって思う。そういう時代があったんですね」
三宅さんや高田さんが海外へ拠点を移して活躍するなか、コシノさんは四季折々の自然が生み出す美しさこそ創作の原点だと考え、日本を拠点に選び続けました。オリンピック体操日本代表のユニフォームには、日本古来の幾何学模様をあしらい、ジャポネスクを極めたデザインで日本らしさを盛り込みました。
“触れる展示”込めた思い
デザインをする時に大切にしていることについて、コシノさんはこう話します。
「一番自分が着たい服作ることよね。洋服っていうのはね、自分を表現する一つの大きなツールです。ですから、私は、この人を一番美しくして、そして今までの考え方をより前向きに持っていけるような、そういう服作りをしたいと思って、ずっと仕事してきました」
これまでに2500着以上の作品を生み出してきたコシノさんの歴代コレクションの中から、会場には厳選したおよそ100着が集められています。衣装部屋ともいうべきこの空間では、展示されているすべての作品に触ることができます。
「洋服というのは見ているだけではなくて、触ってひっくり返して、どうやってこれが作られてるんだろうって感じる、これからのデザイナーになりたい子たちがとても興味を持てる世界なんですよ。若い人達の教育のために全部触っていいですよ。そういう感覚の部屋なんです」
展示のなかには、手織りのツイードにジーンズのショートパンツを合わせた作品や、リボンのように見える部分にスポンジを使った作品もあります。触ってみることで、ポケットの裏地や素材の質感、構造まで感じることができる特別な展示です。今後の活動のなかで大切にしたいことについて、コシノさんは次世代の育成を挙げました。
「私がもうこの世にいなくなって、もう何年か先になった時に、私がいろいろなことを伝えてきた若い子達が大きくなって、素晴らしいクリエーターとして日本の文化を支えていく。そういう人達を生み出すための仕掛けを我々がやっていかなきゃいけないって常に思っています」
