「トランプ関税より怖い」日本企業を揺るがす USMCA見直し

「トランプ関税より怖い」日本企業を揺るがす USMCA見直し
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トランプ大統領が矢継ぎ早に打ち出す関税政策に、世界中の企業が翻弄されてきた。鉄鋼やアルミニウム、自動車など対象は次々と広がり、企業はそのたびに対応を迫られている。「トランプ関税」という言葉は、いまや経営リスクの代名詞とも言える存在となっている。

しかし、アメリカで日本企業の関係者らを取材すると、最近になって、こんな言葉を耳にする機会が増えた。

「実は、トランプ関税よりUSMCAの見直しの方が怖い」

25%もの追加関税より、さらに深刻な問題があるのだろうか。

話を聞いていくと、その意味が見えてきた。(ニューヨーク支局 親松 聖)

「コストの問題」で終わらない

関税は確かに企業の利益を圧迫する。しかし、それは基本的には「コスト」の問題だ。値上げをする、生産性を上げるなど、企業にはいくつかの対応策がある。

一方、USMCAの見直しは、コストの問題だけでは終わらない。企業が何年、何十年もかけて築いてきた北米の生産体制やサプライチェーンそのものを組み替える可能性があるからだ。

日本ではUSMCAという言葉自体、あまりなじみがないかもしれない。
USMCAは、アメリカ、メキシコ、カナダの3か国による自由貿易協定で、トランプ政権1期目にNAFTA=北米自由貿易協定を見直して誕生した。

トランプ政権1期目「USMCA」
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トランプ氏は当時、「NAFTAは史上最悪の貿易協定だ」などと繰り返し批判し、交渉の末にUSMCAへと作り替えた。一方、そのUSMCAには、発効から6年後に3か国が協定を共同で見直す「レビュー条項」が盛り込まれていた。

そして、6年目を迎えた今年、トランプ政権は16年間の更新を見送った。

USMCAそのものが直ちに失効するわけではなく、協定は2036年まで存続する。ただし、今後は毎年、3か国による見直し交渉が行われることになった。

つまり企業にとって、北米の貿易ルールが長期的に安定するという見通しが大きく後退したことになる。

トランプ大統領はUSMCAについて、「この協定はカナダとメキシコにとって重要だが、我々にとっては重要ではない」と主張している。

トランプ氏が、長期的な安定より、さらに有利な条件を引き出すための交渉材料として扱っていることがうかがえる。

これが、日本企業にとって大きな問題になる。

揺らぐ「国境をまたぐ分業」

日本企業は長年、北米3か国を一つの巨大な市場・生産拠点として活用してきた。

部品は何度も国境を越え、最終的に1つの製品になる。
こうした「国境をまたぐ分業」が成立しているのは、USMCAによって一定の条件を満たせば、関税が免除される仕組みがあるからだ。

日本企業を含む各国企業は、この仕組みを前提に、メキシコ、カナダ、アメリカに緊密なサプライチェーンを築いてきた。

しかし、そのルールが変わろうとしている。

アメリカ側は、自動車に使われる部品について、これまでの「北米産」という考え方だけでなく、「アメリカ産」の比率を高めることを求めている。
最近の交渉では、自動車の「アメリカ産」比率を少なくとも50%にする案が浮上している。

日本企業にとって、これまで「北米全体で最も効率的に作る」ことが合理的だった。

しかし、日本メーカーの関係者からは、こんな懸念が聞かれる。

「多少コストが高くても、アメリカで作ることを求められるようになれば、これまでの生産体制そのものを見直さなければならない」

ここに、今回のUSMCA見直しの本質がある。

影響は自動車メーカーだけにとどまらない。部品メーカーや素材メーカー、物流会社など、北米で事業を展開する幅広い日本企業に及ぶ可能性がある。

日本の企業関係者はこう話す。

「部品の調達先を変えれば、品質管理をやり直さなければならない。生産拠点を移せば、巨額の設備投資が必要になる。物流網やサプライヤーとの契約、人材配置まで見直さなければならない」

しかも企業にとって厄介なのは、ルール変更そのものだけではない。
今後、毎年のようにUSMCAの見直しが行われる可能性があることだ。

「不透明なルール」に不安の声

別のメーカー幹部からは、こんな切実な声も聞かれる。

「動きたくても動けない。今投資しても、数年後にルールが変われば、また対応を迫られることになる」

「企業経営で一番困るのは、不利なルールそのものより、不透明なルールだ」

このため、日本貿易振興機構(JETRO)や法律事務所などには、日本企業からUSMCA見直しについて問い合わせが相次いでいるという。

「これから北米で、どのようにモノを作り、どこから調達すればいいのか」

多くの企業から不安の声が上がっている。

そして今、日本企業の間では、アメリカ側への働きかけも活発になっている。

「トランプ関税よりUSMCAの方が怖い」

企業関係者のこの言葉は、決して大げさではない。

トランプ関税をめぐる数字の応酬に目を奪われがちだが、日本企業の将来を左右する北米の「ルール」そのものが、いま揺らいでいる。

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