南シナ海でベトナムが急拡張 人工島造成は中国に迫る勢い その狙いと目指すところは

南シナ海でベトナムが急拡張 人工島造成は中国に迫る勢い その狙いと目指すところは
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南シナ海の南沙諸島で、ベトナムによる人工島建設が加速している。

ベトナムが造成を進める南シナ海の島々

南シナ海は、中国が独自に主張する境界線「九段線」の内側をほぼ丸ごと自国の海域とみなし、ベトナム、フィリピン、マレーシアなど周辺国と主権を争ってきた海域だ。人工島建設と言えば、中国が実効支配の手段として進めていることが広く知られるが、今、領有権を争うベトナムも、急ピッチで造成を進めているというのだ。中国ほど知られていないその実態と、狙いを探る。

(テレビ朝日外報部 三浦綺里)
 

南沙諸島で急拡張するベトナム

米シンクタンクCSIS傘下のアジア海洋透明性イニシアチブ(AMTI)が5月に公表した分析によると、ベトナムが南沙諸島に造成した人工陸地は約2,771エーカー(約11.2平方キロ)に達し、この1年間だけで約534エーカー(約2.2平方キロ)を新たに造成した。

人工島の建設だけでなく、ベトナムは南沙諸島だけでも計15カ所の港湾を整備しており、うち11カ所は2021年以降の新設だ。AMTIの衛星画像分析によれば、約4年前は実効支配する21の岩礁のうち11カ所が小規模な構造物にすぎなかったが、現在は21カ所すべてで埋め立てが進められている。最大拠点バルク・カナダ礁では2025年春に主要な埋め立てが完了し、新たな航法用ビーコン(DVOR)の設置も衛星画像で確認された。2025年3月時点で、南沙諸島における中国の造成総面積(約4,650エーカー、約18.8平方キロ)と比べても、ベトナムの造成面積はその約7割の規模に達しており、AMTIは「今後、中国の規模を上回る可能性が高い」と分析している。

ピアソン礁(Google Mapsから)
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注目すべきは、拡張が土地の面積だけにとどまらないことだ。AMTIによると、ベトナムの造成のうち約1081エーカー(約4.4平方キロ)は8カ所の港湾整備に充てられており、海上物流能力の向上が拡張の主要な目的の一つとみられている。ベトナムの国営系メディアも、南沙諸島では漁船の係留、給油、修理、避難に使える施設や漁業後方支援施設が整備され、最大2000t積載可能な(DWT)の船舶を受け入れられると報じている。さらに、驚くことに島では本土から物資や農業資材を運びながら、野菜の70~80%を自給できる体制も整えられているという。こうした動きは、ベトナムが南沙諸島を単に「占有する」だけでなく、人員の生活や船舶の活動を継続的に支えられる拠点へと変えつつあることを示している。

サウスウエスト島(Google Mapsから)
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なぜベトナムはここまで海に力を注ぐのか

南北に細長く、約3260キロの海岸線を持つベトナムにとって、海は経済発展の生命線だ。世界銀行によると、財・サービスの輸出額は2025年、GDPの98.2%に相当する。主要港と世界市場を結ぶ海上交通路は、製造業を中心とする輸出経済を支える基盤だ。

同時に、水産業も外貨を稼ぐ基幹産業の一つだ。ベトナム水産物輸出加工協会(VASEP)によると、2025年の水産物輸出額は113億ドル(約1兆8090億円)で、総輸出額の9~10%を占め、水産業はGDPの4~5%を占める。つまり海の安全は、漁民の生活や食料安全保障だけでなく、外貨を稼ぐ輸出産業そのものにも関わる。
 

漁業活動への脅威 中国の“取締り”

このような経済構造を脅かす要因の一つが、中国の南シナ海での活動だ。中国は南シナ海で毎年、夏季の休漁措置を設定しており、中国船・外国船を問わず、係争海域も含めて適用される。ベトナムはこれを「主権侵害」だとして繰り返し抗議してきた。中国側による被害を網羅的に示す統計はないものの、中部の離島リーソンの地元漁業協会の集計では、2014年以降だけで少なくとも98隻の漁船が中国船に破壊されたとされる。さらに、2021年に施行された中国海警法は、中国が主張する管轄海域内で外国船に武器使用を含む「必要な措置」を取る権限を海警局に与えており、ベトナムの漁船と中国の公船の衝突のリスクは今も続いている。

こうした漁船をめぐる衝突に加え、南シナ海での中国の拡張そのものが、ベトナム国内の反中感情を年々高めてきた。ベトナムでは、13世紀の元寇や1979年の中越戦争など、中国の侵攻を幾度も撃退してきたという歴史認識が根強く、反中感情は地域を問わず根深い。ベトナム語の単語として中国人の“蔑称”が存在するほどだ。

ベトナムの首都 ハノイでの反中デモ(2015年5月)
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その感情は2014年、中国が係争海域に石油掘削施設を設置したことをきっかけに、一気に噴出した。ベトナムは一党独裁の社会主義国で、無許可のデモは通常厳しく規制されているが、この時は異例にも大規模な反中デモが容認された。南部ビンズン省やドンナイ省では一部が暴徒化し、工場への襲撃・放火にまで発展。ただ標的とされた351社のうち中国資本はわずか14社で、大半は台湾や韓国など無関係の外資系企業だった。反中感情の激しさが、無関係な国の工場まで巻き込むほどだったことを物語る。

こうした国内の反中世論の高まりに加え、また漁船同士の衝突をこれ以上増やさないという実利的な狙いから、近年ベトナムは海洋安全保障を極めて重視している。

日本、フィリピン、アメリカと相次ぎ連携強化

7月の日越防衛相会談(防衛相のXから)
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物理的な陸地の拡張と並行して、ベトナムは地域外交も強化している。7月の日越防衛相会談では、南シナ海情勢を念頭に航行・上空飛行の自由や国連海洋法条約(UNCLOS)など国際法の遵守を確認し、高速揚陸艇の共同開発・生産に向けた協議開始や、防衛装備・技術協力の強化でも一致した。2023年の包括的戦略パートナーシップへの格上げが土台となっている。

6月には、南シナ海でやはり中国と対立するフィリピンとの関係を「強化された戦略的パートナーシップ」に格上げし、防衛・海上協力や沿岸警備隊間の連携強化で合意した。

米ベトナム合同軍事演習(アメリカ太平洋艦隊)
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さらに、アメリカとも2023年に包括的戦略パートナーシップへ格上げして以降、安全保障協力を深めている。米国務省が2025年1月に公表した文書によると、対外軍事融資(FMF)はベトナムの海洋安全保障や海洋状況把握能力の構築、国際海洋法上の権利・自由を維持する取り組みを主な目的としている。両国は安全保障協力をさらに拡大していく方針だ。また、2025年12月には南シナ海で米海軍と合同訓練を実施するなど、安全保障面での連携を積み重ねている。

一見すると、こうした地域連携の強化は中国を念頭に置いたものに映る。だがベトナムの真の狙いは「対中国」だけでなく、その先を見据えた「自国の利益」のために南シナ海での存在感を確固たるものにすることにある。

大国に依存しない「バンブー外交」の具現化

バイデン前米大統領と故グエン書記長(2023年9月 ホワイトハウスから)
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ベトナムには、特定の大国と軍事同盟を結ばない伝統がある。2019年の国防白書は「軍事同盟を結ばない」「一国と組んで他国に対抗しない」「外国軍に基地を提供しない」「武力行使・威嚇をしない」という「4つのノー」を明文化した。

最高指導者だった共産党の故グエン・フー・チョン書記長は、自国の外交を竹にたとえ、「深く張った根、太い幹、しなやかな枝」と表現した。「バンブー外交」として知られる方針で、特定の大国に依存せず、複数の国との関係を使い分ける外交姿勢を示したものだ。現在のトー・ラム書記長もこの「バンブー外交」を継承しており、2024年11月から2025年5月までの半年間だけでマレーシア、インドネシア、シンガポール、タイの4カ国と包括的戦略パートナーシップを相次いで締結した。

高市総理大臣とラム共産党書記長(5月 外務省のXから)
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その先にあるのが、「海洋強国」への国家戦略だ。ベトナムは2018年、2030年までの海洋経済発展戦略と2045年までの長期ビジョンを策定。今年1月の第14回党大会では、2045年までに「先進国・高所得国」となる国家目標を改めて掲げた。
トー・ラム氏は7月28日、この戦略をさらに発展させる形で、ベトナムを「強い海洋国家」として建設・発展させるとする党中央委員会決議に署名・公布した。造船業をはじめ、港湾・物流、海洋統治、国防・安全保障まで含めて国家の海洋力を高める方針が打ち出されている。

日本、フィリピン、アメリカとの連携拡大も、単純な「対中包囲網」と見るだけでは十分ではない。中国への警戒を強めながらも、ベトナムが築こうとしているのは特定の陣営に加わるための軍事基盤ではなく、自国の経済と海洋安全保障を支えるための選択肢と遂行能力だ。実際ベトナムは、中国とも是々非々で対話を進めていて、4 月には共同声明もまとめている。

「海洋強国」を目指すベトナムにとって、日本との協力もその一つの手段となる。高速揚陸艇の共同開発や防衛装備・技術協力まで踏み込む中、日本がこの「戦略的自律」を掲げる国とどこまで関係を深めるのか。南シナ海で伸びる竹の枝先は、今、日本にも向けられている。

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