スペイン飛び地セウタへの不法移民大量流入 背景に西サハラを巡る“3カ国の思惑”か

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「仕事中に人々が国境を越える映像を見たんだ。自分も運を試そうと思って来た。より良い未来を築けると思ったから――」

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そんな想いを胸に、若者を中心に7万人もの人々が、モロッコから国境フェンスを越え、あるいは海を泳いで向かった先はアフリカ北部の地中海沿岸にあるスペインの飛び地、セウタだった。

世界を驚かせたこの事態の原因は当初、「犯罪組織による誤った情報の拡散」だとされた。SNSでは、「泳いで渡れば追い返されない」「国境が開放される」などといったデマが広がり、それを信じた人々がセウタへ殺到したという見方だ。

しかし、スペイン国内ではこれを単なる犯罪組織の仕業と捉える声は少なく、「モロッコ政府による政治的な圧力」ではないかとの見方が広がっている。

その背景にはスペイン、モロッコ、そしてアルジェリアによる「西サハラ」という係争地域をめぐる長年の駆け引きの歴史があった。
(テレビ朝日外報部 畑山 綾)

飛び地に流入した“人の波” 少なくとも90人が死亡

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セウタは、アフリカ北部にあるジブラルタル海峡の南東側に突き出た地域だ。

陸側ではモロッコに接していて、アフリカ大陸から陸続きでEU(ヨーロッパ連合)の加盟国に入ることができる“ヨーロッパの玄関口”の一つだ。ただ、ヨーロッパ29カ国を出入国審査なしで往来できる『シェンゲン協定』の特例地域で、本土への移動には別途審査がある。

東京の品川区よりも小さい約18.5平方キロメートルの広さに、スペイン系と、モロッコ系のイスラム住民らを中心にさまざまな民族やコミュニティが古くから共生している。

約8万4千人が住むこの町に、7月30日をピークに7万人以上もの人がモロッコから押し寄せた。そして少なくとも90人が溺れるなどして命を落とした。

人口はわずか数日でほぼ倍に膨れ上がったセウタは、深刻な混乱に陥った。

疑問視される大規模越境の政府の見解

セウタについて会見するスペイン・サンチェス首相  2026年8月31日 
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7月31日、スペインのサンチェス首相はセウタで記者会見を開き、事態を「スペインの領土保全に対する侵害だ」と非難。背景には、2024年にセウタに泳いで渡ろうとしたアルジェリア人移民の送還手続きをめぐる裁判の判決が関わっているとした。

これまでセウタでは、国境フェンスなどの封鎖設備を乗り越えようとした不法移民に対して、「即時送還」が認められてきた。しかし、スペイン最高裁は封鎖設備が設置されていない海からの入境は対象にならないと結論づけた。

サンチェス首相は、この判決を“犯罪組織”が恣意的に解釈し、海から入境すれば追い返されず、国境も開放されているなどの誤情報が拡散されたと指摘した。

ただ、越境のきっかけとしてSNSでの誤情報の拡散があったとしても、これほど大規模な動きには、少なくとも一時的なモロッコ当局の黙認がなければ起こり得ないとの見方が専門家の間で出ている。

スペイン国営テレビは、専門家の話として「(セウタなどは)移民問題に関して常にモロッコからの脅迫の材料として利用され、その根底には西サハラの問題が存在する。」と報じた。

西サハラとは?いまも続く3カ国の駆け引き

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かつて「無敵艦隊」と呼ばれた海軍を持っていたスペインは、中南米を中心に広大な植民地帝国を築いた。アフリカでは、セウタや現在のモロッコ北部の一部、そして西サハラなどを統治下に置いていた。

1956年にモロッコがフランスから独立した際、スペインはモロッコ北部を返還したが、西サハラはスペイン領として残った。

しかし、1975年にモロッコが西サハラで「緑の行進」と呼ばれる民間人およそ35万人のデモンストレーションを行い、領有権を主張したことがきっかけで、1976年にスペインは西サハラから撤退した。

その後、西サハラの領有権を主張するモロッコと、アルジェリアの支援を受けて独立を目指す「ポリサリオ戦線(西サハラ民族解放戦線)」が対立し、現在も緊張状態が続いている。

こうした経緯から、国連は西サハラを脱植民地化が完了していない「非自治地域」に位置づけている。

モロッコとアルジェリアの対立の間で難しい対応を迫られているのがスペインだ。

アルジェリアの「エネルギー資源」とモロッコの「移民管理」で揺さぶられるスペイン

アルジェリアの石油精製施設 アルジェ郊外 2022年4月30日
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アルジェリアはスペインにとって重要な天然ガス供給国であり、2022年ごろまでは輸入量のおよそ4割を占めていた。

しかしスペインが、モロッコの主権下で西サハラに自治権を認める自治案への支持を表明すると、アルジェリアはスペインとの友好協力条約を停止し、安定的な天然ガスの供給が危ぶまれる事態となってしまった。

片や、モロッコはスペインにとって不法移民流入を防ぐ“国境管理”でも重要な役目を担う。モロッコ側の警備は、セウタへの不法移民流入を抑える最前線となっている。

そのため、EUやスペインは、モロッコがアフリカにおける“国境の番人”としての役割を果たすため、数億ユーロ規模の継続的な資金提供を行っている。

アルジェリアとの関係改善が影響か

アルジェリアを訪問したスペイン・サンチェス首相 2026年7月20日
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注目すべきは、大量流入の約10日前の7月20日、スペインのサンチェス首相はアルジェリアを公式訪問していたことだ。

2022年以降、両国の関係は悪化したものの、スペインは現在もアルジェリアとのエネルギー関係を維持している。特に今年2月以降、ホルムズ海峡の封鎖によってカタールからの天然ガスの供給が困難になる中、スペインはアルジェリアからの天然ガスの安定供給を一層重視している。

この訪問でスペインのサンチェス首相とアルジェリアのテブン大統領は両国関係を「新たな段階」へ移行させる方針に合意。政治と経済両面での協力関係を再開することを確認した。

そんな矢先にセウタでの事態が発生した。両国の関係改善を妨げるための「モロッコによる政治的圧力なのではないか」との見方が浮上した。

5年前にも大規模越境が

実は今回と似たような事案は5年前にも起きている。

2021年にスペインが、アルジェリアが支援する「ポリサリオ戦線」の指導者を病気療養のため受け入れたことにモロッコが強く反発。その直後、セウタには8000人から1万人規模が流入し、スペインやEUでは、モロッコが国境管理を意図的に緩めたのではないかとの疑念が強まった。これに対してモロッコ側は、「問題は移民ではなく外交関係の危機だ」と主張し、意図的に国境を開放したとの見方を否定した。

国境管理の緩和が意図的だったかどうかは別として、この一件は、セウタがモロッコ側の国境管理に大きく左右されることを浮き彫りにした。

スペインのエル・パイス紙は、今回の大規模な越境も「モロッコによる政治的な目的を達成するための市民操作の一例である」と論説で主張している。

海を泳いで越境した人たちは今…

セウタのシェルターに集められた移民
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セウタでは、流入した人の大部分はモロッコ側に戻ったものの、今なお約5000人が留まり続けている。スペイン政府は、1800人を収容できるシェルターを設置するなどの対応を進めている。しかし、スペイン側に残っている半数近く(18日時点で2168人)は、送還に複雑な法的手続きが必要となる未成年者で、セウタでは長期的な受け入れ負担への懸念が強まっている。

政治的な思惑が交錯する国境。

突如として人口規模に迫る人々を受け入れることになったセウタの住民たちは、日常を揺さぶられ、十分な対応が行き届かないスペイン政府への不満を募らせている。

一方、SNSの情報を信じ、実際に海を泳いで国境を越えた多くの人々が求めていたものは「より良い未来」、ただそれだけだったのだが。

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