
9月1日は、103年前に起きた関東大震災に由来する防災の日。番組では、南海トラフで起こり得る最大クラスの地震で、最も大きな津波が来ると想定される高知県の町を取材した。
【画像】防災で町おこしも 循環備蓄を目指した「日常食(ひじょうしょく)」
互いに声かけ 夜間の避難訓練
先月30日午後7時、高知県黒潮町で行われた夜間の津波避難訓練。互いに避難を呼びかけながら、住民たちは暗闇の中、足元を照らして高台へと向かう。
100段以上の階段を高齢者も自分の足で1歩ずつ上がっていく。中には91歳という参加者もいた。
参加者(91)
「杖をついてきた、きょうは」
参加者(70代)
「頑張りましたけど、疲れました」
参加者(91)
「東北の地震でも平素訓練をした人は、みんな助かったそうです」
参加者
「訓練をかかさずして、自分のものにしたい」
熱心に取り組むきっかけとなったのは、東日本大震災の翌年の2012年、国が公表した南海トラフ巨大地震の被害想定だ。
黒潮町に示された数字は、全国で最も高い津波想定の最大34.4メートル。穏やかな町に激震が走った。
太平洋に面し、海沿いに集落が点在する黒潮町。人口およそ9500人で、高齢化率は47%。そんな町に突きつけられた衝撃の数字だ。
被害想定では、地震発生から8分ほどで津波が到達。市街地のほとんどが沈んでしまう。
町長室には当時、足の不自由な女性が詠んだ歌が飾られている。
「大津波 来たらば共に 死んでやる 今日も息が言う 足萎え吾に」
足の不自由な自分を置いて逃げてほしい。そう願うも、息子は一緒に死んでやると優しくも切ない言葉を返す歌だ。
「諦めない防災」へ
「どこへ逃げても助からない」地震が起きる前に町を離れたいという人もいた。このままでは町がなくなる。そこで役場主導で、諦めない防災が始まった。
町内に6基の津波避難タワーを建設。避難道を整え、役場も高台へ移した。
職員総出で浸水想定区域およそ3800世帯の避難計画を作り、2年間で1000回を超えるワークショップを開いた。
黒潮町 大西勝也町長
「(防災に取り組んでからは)否定的な発言や後ろ向きの発言が聞かれなくなって、いろんなところでちょっとずつ地域が実装を始めた」
地域での防災への取り組みや意識改革が進むにつれ、先ほどの歌の詠み手も前向きな歌を詠むように。
「この命 落としはせぬと 足萎えの 我は行きたり 避難訓練」
それでも、高齢の住民からはこんな声も聞かれた。
地域住人
「諦めている。(津波が)来たらそのまま」
「(Q.死んでもいい?)うん」
体力の衰えから、諦めを口にする住民もいる。そんな気持ちを前向きに変えているのが、地域の中学生だ。
中学生ができる防災
地域住民
「(避難訓練には)ずっと参加しています。まずは自分の命を守って」
「皆にも迷惑かけるし、自分も嫌だし、家族も心配する。訓練だけはちゃんと出席した方がいい」
避難訓練が根づく高知県黒潮町。高齢者の背中を押す存在の一つが中学生だ。
全校生徒30人の佐賀中学校では毎月、避難訓練を行い、独自の防災教育にも取り組んでいる。
さらに、学ぶだけではなく自分たちにできる防災を考え、実践しているという。
その一つが「防災高齢者訪問」。避難への不安を聞き、解決策を考え、一緒に逃げようと働きかける。
佐賀中学校 3年生
「半ば諦めの気持ちでいると思うんですけど、私たちとしては、生きてほしいという気持ちが強い」
「自分たちができることをして、周りの人を引っ張っていかないといけないと、日々の訓練で感じています」
他にも高齢者を避難訓練に誘い出す「お誘い訓練」という活動も実施。体に不自由な自分が行くと迷惑をかけるのではとためらう人が、参加するきっかけになっているという。
地域住民
「私たちが100回言うより、子どもたちが1回そばに寄ってくれるだけで変わる」
今や地域防災を支える担い手。先月30日に行われたシンポジウムでは、町の人たちにこれからの役割を宣言した。
佐賀中学校 3年生
「中学生にできることは限られていますが、私たちにはこれまで学んだことを多くの人に伝え、少しでも防災意識を高めることに貢献したいという願いがあります」
高齢者が多い町
中学生も一緒になって考える諦めないという町の人たちの思いが伝わってくるが、34メートルを超える津波が押し寄せる可能性があるとされる黒潮町は、高齢者が多い町だという。
高知県の西部に位置する黒潮町は、人口9561人の町。65歳以上の高齢者は4505人で、およそ47%と半数に迫る割合だ。
そもそも47都道府県で2番目に高齢者の割合が高い、高知県全体のおよそ36%をはるかに上回る数字となっている。
そんな高齢者の多い黒潮町だが、黒潮町ならではの避難訓練が他にもある。
それが玄関先までの避難訓練だ。これは2011年の東日本大震災で、避難を支援しに来た人が室内に探しに入っている間に津波に巻き込まれてしまった事例を受けて、高齢者が自宅の寝室や居間から玄関先まで自力で出ることで、助ける側も助けられる側も助かる可能性を高めるものだ。
内閣府の資料では「日本一短い避難訓練」と紹介されている。
町おこしの資源に
そんな黒潮町では、防災に欠かせない非常食や避難施設を町おこしの資源としても活用している。
非常食については、携帯性にも優れて非常時には容器にもなる「缶詰」に注目している。
災害時に不足しがちな栄養バランスや食べ慣れないものを食べることのストレスについても考慮した非常食を作ろうという思いから、町が民間と共同での缶詰製作の企業を2014年に設立した。
「おいしいから食べる」「食べるから日常的に購入する」「それが備えになる」という循環備蓄、ローリングストックを目指した商品を展開している。
こちらは日常食と書いて「ひじょうしょく」と読む。
非常食を町の産業にしようということで、町内の道の駅で販売している。
さらに町の防災への取り組みを体験できるプログラムも行っていて、現在5種類を展開している。
国内最大級の避難タワーを1人500円で45分程度でガイドしてくれるというものから、取材した夜間避難訓練に参加する宿泊型のものまである。
全国の自主防災組織や学生、海外からも申し込みがあり、年間およそ1000人が参加しているということだが、最近では家族単位など個人からの申し込みもあるそうだ。
(2026年9月1日放送分より)
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