「落ちたのは8割が岩盤」ネパール大規模土石流 見えてきたメカニズム 地元研究者「予測も想定も出来ず」

「落ちたのは8割が岩盤」ネパール大規模土石流 見えてきたメカニズム 地元研究者「予測も想定も出来ず」
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高さ20m(6階建て相当)以上の建物を丸ごと飲み込む強力な土石流がなぜ起きたのか。山から何が落ちてきて、なぜあれほどの速さと規模で下流を襲ったのか。専門家の取材を進めていくと、徐々にその発生メカニズムが見えてきた。いっぽう、親族や親しい友人が行方不明になった現地ネパールの研究者は、「これほど大規模な洪水が発生するとは予測も想定もしていなかった」と苦悶する。
(カトマンズ 金井誠一郎   ロンドン 山野孝之)

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「1辺が1キロの30~40階建てビルが落下したのと同じ」 

どこから何が落ちたのか。
崩落が起きたのは、ヒマラヤ山脈のランタン・リルン山(7234m)の北側斜面だ。中国当局の発表によると中腹の5200m地点にあった氷河と岩盤が約1000m下まで一気に崩落したとみられる。

岩盤と氷河の落下地点近くにみえる湖
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崩落した岩盤や氷河の量はどの程度だったのか。マンチェスター・メトロポリタン大学のトム・クルタード教授(専門は環境システムモデリング)は、衛星画像などから、崩落したのは2億m³の岩盤と4000万m³の氷河だったと試算した。つまり崩落した物体の8割は岩盤だったということになる。クルタード教授によると、岩盤と氷河の合計体積は、一辺が1kmある30階から40階建てのビルと同じだという。

右下の赤い部分が崩落した場所 幅1km以上 奥行が500m以上あるとみられる
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大きさをイメージするのが難しいが、その落下の衝撃はすさまじかった。USGS・米地質調査所によると、崩落した時間(ネパール時間8月26日午前8時37分)にマグニチュード5.2規模の揺れが観測されている。

なぜ崩落?「原因は隆起と気候変動」

オックスフォード大 マイク・サール教授 ヒマラヤは研究対象のひとつ
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オックスフォード大学で地球科学を教えるマイク・サール教授(専門は地質学)は2つの原因が重なって崩落が発生したとみている。1つ目は「山体の隆起」だ。

「ヒマラヤ山脈の山々は年に2cmから4cmの非常に早い速度で隆起している。そして川もハイペースで谷を掘り下げる。つまり、斜面が常に急こう配になって崩れやすくなっている」

2つ目は「気候変動」だという。

「ヒマラヤのあらゆる場所で気温が上昇していることが分かっている。高地で岩と岩をくっつけているのは永久凍土つまり氷だ。これが解けると接着剤が無くなるのと同じ。しかも氷がいったん解け岩の隙間に入って再び凍結すると体積が増して隙間を押し広げてしまう」

この2つの要因でまず巨大な岩盤が割れ、その上に載っていた氷河も一緒に落下したとみている。

ニューヨークタイムズは、岩盤を崖の下から支えていた氷河も気候変動で消滅したとする専門家の意見を紹介している。1990年代に撮影された写真をみると、崩落した斜面は全面的に氷河に覆われ、下の氷河とつながっていた。

土石流で破壊された中国の国境施設 2025年7月8日
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では落下した巨大な岩盤と氷河がそのまま大規模な土石流になったのだろうか。サール教授は岩盤と氷河が衝突するエネルギーで1000m下の別の氷河を一瞬で溶かしたとみているが、大量の水がどこから来たのかの説明にはならず、まだ謎が残っていると指摘する。この疑問に対し、「そもそも大量の水はなかった」という分析もある。

「岩も氷も細かく砕けまるで液体のように移動」

クルタード教授が作成したシミュレーションCG 左上が崩落発生
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マンチェスター・メトロポリタン大学のクルタード教授は、今回の土石流発生後にシミュレーションモデルを作成し、崩落した岩盤と氷河がどう動いたかを分析した。その結果、大量の水がなくてもまるで液体のように高速で移動することが分かったという。

「岩も氷もすぐ細かく砕け空気を巻き込んでまるで液体のように移動した。下流20kmあたりまでは時速120キロほどの速さで流れ下り、そして下流に進むにしたがって川の水を巻き込んでいったとみられる。場所によっては川の流れに逆らって400mも遡上することも分かった」

マンチェスター・メトロポリタン大学のトム・教授
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川を逆流したという指摘は、中国の国境施設付近のカメラがとらえていた土石流の動きとも一致する。施設は後ろから土石流に襲われその上流側の駐車場なども破壊される様子が映っていた。

中国の国境施設があった場所 2026年9月3日
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「予測も想定も出来なかった」

アラビンダさん
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ネパール・トリブバン大学の氷河研究者アラビンダさんは、被害が大きいヌワコット郡の出身で、いとこや親しい友人らが行方不明になっている。

「このような大規模な洪水が起きるとは予測も想定もしていなかった。まだ現地に行くこともできず、行けないかもしれない状況で、深く心を痛めています。自分の県で大きな被害が出ており友人や兄弟同然の人々が多く行方不明になっていることが、とてもつらい」

兄弟のように仲がよかった従兄弟の行方が分かっていない
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ネパールには4000の氷河があり、氷河が溶ける速度は2倍になっているという。アラビンダさんは早期警報システムと気候変動への対策の必要性を強調する。

「今回の出来事は、気候変動が引き金となり、下流まで大きな被害をもたらした災害だ。早期警戒システムの導入には資金など国によって準備状況に差が出る。特に排出量が多い国は開発途上国がこうした災害から身を守るためにどのような支援ができるか考えてほしい」

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