
アメリカのベッセント財務長官が、日本にリフレ政策からの転換を求めた発言が波紋を広げている。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」について、市場でも懸念を示すかのような動きが見られた。
「金利を今上げるのはアホ」利上げには消極的な姿勢だった高市首相
円高傾向 背景に“ベッセント砲”
ベッセント長官の発言で円相場が大きく動いた。円安傾向から一転、円高に大きく振れた。
円相場の推移を見ると、7月末には日米協調の円買い介入があり、円高が進んだが、その後、じわじわ円安方向に戻っていた。
しかし、今月2日の東京市場の終値は1ドル159円台後半だったのが、4日の終値は156円台前半まで円高が進んだ。さらに8日には、約半年ぶりに一時152円台を付けるなど、円高傾向が続いている。
そのきっかけと見られるのが、日本時間2日、G20=主要20カ国の財務相・中央銀行総裁会議の会見でのベッセント財務長官の発言だ。ベッセント長官は「日本側にリフレ政策はやめるべきだと伝えた」と述べ、財政支出の拡大や低金利を重視するリフレ政策からの転換を日本に求めた。
こうした発言や、円安是正に向かう円買い協調など、トランプ政権の狙いについて「ピクテ・ジャパン」シニア・フェローの大槻奈那氏はこのように指摘する。
「トランプ政権は貿易赤字の解消を目指している。円高に向かわせることでアメリカ製品の日本での価格が下がり、日本に売りやすくなりアメリカの利益になる」
「アベノミクス」は効果あったか
ベッセント長官の発言は、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」にどう影響するのか。
日本にリフレ政策からの転換を求めたベッセント長官。発言の内容をさらに詳しく見ると、「アベノミクスで彼らは多大な成功を収めた」と日本をたたえたうえで、「リフレ政策はやめるべき」と述べたという。
そもそも「リフレ政策」とは何か。物価が下がり続けるデフレから脱却するため、金融緩和によって市場に資金を供給し、低金利でお金を借りやすくするなどして、緩やかなインフレに誘導するというもの。
その典型例が、第二次安倍政権が2013年に打ち出した「アベノミクス」だ。デフレ脱却、成長と分配の好循環を目指した。その柱がいわゆる「3本の矢」。その内容はマイナス金利を導入するなどの「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」。
さらに消費者物価上昇率を年率2%に引き上げるインフレ目標を掲げた。
では最近、消費者物価指数はどうなっているのか。2017年以降はデフレが続いていたが、2021年あたりは、コロナ禍後の経済活動の再開や原油高で上昇傾向が続き、一時は4%を超える水準だった。ただ直近の今年7月は1.8%。7カ月連続でインフレ目標の2%を下回っている状況だ。
「タカイチノミクス」とは
では、今回のベッセント長官の発言は、高市政権の財政政策にどう影響するのか。
ベッセント長官は先月31日、リフレ政策を止めて次のステージに進むべきだとして、「タカイチノミクスの時代が来た」とも発言している。
この「タカイチノミクス」とは何か。アベノミクスは3本の矢を掲げていたが、高市政権は「責任ある積極財政」を掲げ、「危機管理投資、成長投資」として「2040年度までに官民で370兆円規模の投資」を打ち出した。これは「アベノミクス」の2本目、3本目の矢を踏襲したように見える。
では、1本目の矢にあたる「金融政策」についてはどうなのか。高市総理は、自民党総裁選中の2024年9月、「金利を今上げるのはアホ」と発言するなど、利上げには消極的な姿勢と見られてきた。
ただ、日銀としては去年12月、今年6月と政策金利を引き上げた。さらに来週17、18日の金融政策決定会合で、現在の1.0%程度から1.25%程度に引き上げることが有力視されている。
財政への懸念反映した金利上昇
アメリカからリフレ政策の転換を求められた高市政権だが、一方で市場で見られた動きが、長期金利の上昇だ。
今月1日、長期金利の指標となる10年物国債の利回りが、一時3.005%まで上昇した。これは、実に約30年ぶりの高水準になる。
大槻氏によると、「長期金利上昇の最大の要因は、政府の財政政策に対する懸念」だという。懸念の主な要因と見られるのが、来年度の予算編成に向けた各省庁からの概算要求だ。
長期金利が上昇する前日の先月31日、概算要求が締め切られ、その総額が過去最大の140兆円前後の見通しと報じられた。ここまで規模が膨らんだ理由の一つが、高市総理の肝煎り(きもいり)で新設された「強く豊かな日本投資枠」。要求上限が設けられておらず、要求額は12兆円を超えた。
もう一つが、国が発行した国債の返済などに必要な費用である国債費。満期を迎えた国債の元本を返済する費用と利払費などで、36兆6000億円を超えた。これは、今年度の当初予算に比べ5兆円以上多く、過去最大規模となる。こうしたことから、財政悪化が懸念され、金融市場で国債が売られて金利が上昇した。
飛び火恐れるトランプ政権
そしてアメリカは、日本の金利上昇が自国に飛び火することを懸念しているとの見方がある。
日米の長期金利の推移を見ると、アメリカ国債の利回りが上回っているが、日本とほぼ連動する形で上昇している。
今年1月のダボス会議でベッセント財務長官は、「日本の状況と切り離して考えるのは非常に難しい」と発言。日本の金利上昇が波及したことも一因だと主張していた。
アメリカの長期金利が上昇すれば、住宅ローンや企業の借入金利が上がる可能性がある。さらに政府の財政運営にも影響が出る可能性がある。
こうしたことからトランプ大統領は、11月に迫った中間選挙に影響を与えることを懸念しているとの見方がある。
(2026年9月11日放送分より)
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