
世界で異常気象となっているなか、新たなコメの品種の開発が進んでいます。開発をしたのが、平均年齢78歳というコメ作りのプロではない集団です。
【画像】2019年に新品種として登録 強い雨風でも倒れない「清水1号」
倒れないコメ新品種を開発
清水農園 保母弘久さん(84)
「これが、私たちが作った清水1号です」
豊かな自然が広がる岐阜県中津川市。辺り一面、鮮やかな緑に染めるのは、この地域で開発されたコメ「清水1号」です。
清水農園 足立幸博さん(76)
「この間の大雨で、コシヒカリはひどいところ行くと倒れちゃって。この清水1号については、見ていただいた通りピンと立っている」
先日、中部地方を襲った大雨。その影響でコシヒカリは稲が倒れてしまっていたものの、清水1号はしっかりと立っていました。
一般のコシヒカリより背丈がおよそ20センチ低く、茎が丈夫なため、台風の激しい雨風でも倒れないといいます。
足立さん
「倒伏しますと品質も落ちますし、食味も落ちてきます。等級が下がりますので、価格も下がる。それを克服するために開発したのが、この清水1号」
平均78歳 コメ無縁の素人
米農家を悩ませる「倒伏」という問題を見事にクリアした、このおコメ。作り上げたのが、平均年齢78歳の6人のおじいちゃんたちです。
さらに、前職はバラバラ。ほとんどが元公務員という異色の経歴。コメの品種改良とは全く無縁の素人でした。
なぜ、専門外のコメの品種改良を始めたのでしょうか?
清水農園 鷹見直美さん(77)
「僕らの時は60歳が定年だったわけです。第二の人生が始まるんだなということで、自分も何かあった方が面白いかなと思って」
新しいことを始めたいと考えた時、周りにいる農家を悩ませる問題を克服したいと考えるように。それが…。
清水農園 安藤孝義さん(78)
「地域的に農家が稲の倒伏に大変苦労しておられたので。少しでも軽減できるような稲ができればいいかなと」
しかし、稲の品種改良は本来、専門の研究機関が行うもの。素人が行うことに対し、周囲の目は冷ややかでした。
鷹見さん
「『岐阜県でも二百何品種作ったけど、一つも使ってもらえない』と。『そんなもんやっても無駄やで』って」
実際に、この地域を担当するJA職員も…。
JAひがしみの
中津川アグリセンター
山田晃さん
「え?できるのっていうのが本音で」
成功率が極めて低いというコメの品種改良。やはり、現実は甘くありませんでした。
手探りで…型破りアイデア
鷹見さん
「(県の試験場に話を聞きに行って)言われることをパッパ、パッパ書きながら」
交配のやり方は、県の試験場で聞いた話やホームページの情報を頼りに手探りで進める日々。
交配は母親となる品種のめしべに父親となる別の品種のおしべの花粉を受粉させます。その際、母親の穂に元々ある花粉を除去するため、穂をお湯に浸す「温湯処理」が必要ですが、試験場で使うような立派な機械はもちろんありません。
鷹見さん
「水をこれくらい張りますね。規定の温度になるように、電熱線で温度を上げるわけです」
「(Q.(温湯処理を行う時は)温度計で測る人と?)かく拌しながら測る人と出せって言った時にパッと出す人と」
3人がかりでの慣れない作業は、加減が難しく…。
安藤さん
「温度が高すぎて、穂は普通青いんだけど、白くなっちゃった。煮えちゃった。それで交配できなかったってこと」
「(Q.そうすると、一個も種が取れなかった?)ダメダメ」
失敗もありながら、挑戦を続けたおじいちゃんたち。コメの品種改良の素人だからこそ、常識にとらわれませんでした。
鷹見さん
「(清水1号は)これコンバインで刈れるんやろうかっていうことで。(コメの背丈が)あまりにも短いんで。関係なく、そういうものを選んでたわけですけど」
注目したのは、稲の背丈。「背が低ければ倒れにくい」という発想です。収穫の難しさから、普通の農家はあまり選ばない背丈の低い稲をあえて選択しました。
背丈の低い稲を交配し、数年繰り返し栽培。コメの収量や味が安定するまで改良を重ねました。
品種改良を始めてから7年後、ついに強い雨風でも倒れない清水1号が完成。2019年には、農水省に新品種として登録されました。
猛暑適応 葉が天然日傘に
おととしには…。
足立さん
「これは清水2号です。清水2号の特徴としては、暑さに強いコメです」
おコメは高温障害が発生すると、白く濁る未熟米になってしまいます。この高温障害に対応したおコメも開発しました。
清水2号は、最後に出る止葉がピンと立ち、穂に当たる直射日光を遮ることで、これまで未熟米が出たことはないといいます。
愛知県農業総合試験場
中村充主任研究員
「一般の農家が品種の開発を行ったというのは聞いたことがないです。試験場の方で品種開発しようとすると、8年から10年ぐらいかかります」
専門機関では10年かけ、およそ1000通りを交配。育てやすくおいしいコメになるのは、その中で一つあるかないかだといいます。
清水1号、2号を育てる農家はこう話します。
Ando Farm 安藤充さん
「今まで一回も倒れたことがないです。育てやすいですね。暑さに強くておいしくて量も取れる、コシヒカリより。(今後)多分、1号と2号がメインになっていくんじゃないかと」
気候変動に適応したおコメは味の評価も抜群です。試食会でも…。
JAひがしみの職員
「やっぱりね、香りがいいし、粒がしっかりしていておいしいですよ」
中津川市職員
「甘みがあるというか、おいしいです」
清水1号・2号はすでに販売されていて、全国各地から注目が集まっています。
大阪から来たコメ販売店
米のきのした 木下聖史さん
「清水1号・2号ともにお客さんから喜ばれて、それだけを買いに来るお客さんが多いですね」
大阪から来た
中巳米穀商事 中谷勝典さん
「今、北海道の方にも清水1号の種を持って行って、去年から生産させてもらっています」
今年からは、JAのオンラインショップでも新米の販売を開始する予定です。
コメ完成まで「長生きを」
暑さにも台風にも強いおコメを作り上げたおじいちゃんたち。コメづくりへの情熱は尽きません。
安藤さん
「今はね、1粒まきした苗を植えておりますけど。その目的は、品種改良で選抜をするために、1粒まきの苗を植えているんです」
清水1号・2号を完成させるだけでは満足せず、新品種の開発に奔走していました。
鷹見さん
「(清水3号の)候補はあって」
安藤さん
「植えた中にある」
より暑さに強い新品種・清水3号はすでにできつつあるといいます。
鷹見さん
「(3号完成まで)もうちょっと時間かかる」
足立さん
「もうちょっと長生きをするそうですので」
(2026年9月30日放送分より)
この記事の画像一覧
