
東京大学の次期総長の選考をめぐって、文部科学省が注文をつけました。先月開かれた選考会議で、次期総長の予定者として選ばれたのが、藤垣裕子教授です。女性初の総長誕生と話題になりましたが、教職員による投票に限って言えば、最多得票の教授に差を付けられた2位という結果でした。
【画像】決選投票で染谷氏が1位(1107票)藤垣氏が2位(553票) 選考会議が選んだのは…
文科省は「どのような事実に基づいて今回の判断に至ったのか、説明責任を果たしてほしい」と、異例の厳しい態度で東大側に報告を求めました。
次期総長に初の女性選出も
収賄に不正流用と不祥事が相次ぐ、日本最古の国立大学、東京大学。そのトップの総長は、初代から数えて31代目。

東京大学第26代総長 蓮實重彦氏(1998年)
「いわゆる東大生という概念からは思い切り遠ざかり、一人一人に恵まれた存在の多様性を、外界に向けて一斉に押し広げるべき」
東京大学第27代総長 佐々木毅氏(2001年)
「東京大学を卒業しようと、もはや一生の安定が保障される時代でないことは明らか」
来年4月に次期総長に就任する32代目・藤垣裕子氏。大学院の総合文化研究科教授で、女性初です。

東京大学次期総長(第32代)藤垣裕子氏
「藤井総長が現在リードされている改革を、私もしっかり受け継いで発展させていきたい」
ところが、その選び方について、総長を任命する国から異例の“物言い”が。
関芳弘文科大臣
「選考過程や選考理由について、明確な説明がなされていないとの声も多く、遺憾でございます。説明責任を果たすことは、東京大学のガバナンス改革の第一歩」
国が大学トップの選考に関して検証を求めるのは初めてです。
教職員ら投票と異なる結果に
そもそも、東大総長はどのように選ばれるのか。学内と学外から8人ずつ、合わせて16人からなる『総長選考・監察会議』によって選出されます。その選考過程の1つが、教職員らによって行われる意向投票です。5人で争われた1回目の投票で藤垣氏は2位(400票)。1位の元大学院工学系研究科長・染谷隆夫氏(818票)に、ダブルスコアをつけられました。その後、規定により上位3人による決選投票を実施。結果は、またも藤垣氏が2位(553票)、染谷氏が1位(1107票)。しかし、選考会議が選んだのは、1位ではなく2位の藤垣氏でした。

その会議の議長を務めているのが、元NHKキャスターの国谷裕子さんです。
東京大学総長選考・監察会議 国谷裕子議長
「藤垣氏を選んだ最大のポイントは文理融合、学外・学内コミュニケーションの充実を通じた多様な知の発展に向かい、幅広い国際的な経験をもとに、より開かれた大学に向けた変革を実現する十分な能力を持っている」
投票結果と異なる結論を出した選考会議。意向投票はあくまでも“判断材料”の1つという位置付けで、学内から「批判が全くないとは思わないが、大きな問題が生ずるとは思っていない」と説明しています。東大の教職員有志は、経緯の説明を求める要望書を選考会議に提出しましたが「最多数の支持を得た」などと回答するにとどめていました。

関芳弘文科大臣
「東京大学は今後、どのような客観的な事実に基づいて、どのように候補者間を比較検討し、今回の判断に至ったのか、判断の合理性について十分に説明責任を果たしていただきたい」
ポイントは「国際卓越大」認定?
なぜ2位の藤垣氏が次期総長に選ばれたのか。選考のポイントに、国が設けた10兆円規模のファンドの支援対象となる『国際卓越研究大学』の認定を勝ち取れる人物かどうかが重視されていたとの見方も。

大学ジャーナリスト 石渡嶺司さん
「東京大学の場合は、国際卓越研究大学に採択されるか今、崖っぷちの状況にある。東京大学はガバナンスが不十分だったとも言える不祥事が続けて起きている。そこに持ってきて、今回の総長選考で説明が不十分。だからこそガバナンスというキーワードを使っているわけで。1位候補がダメで2位の藤垣さんなのか。その点をもっと説明しない限りは、国立大学始まって以来の“選考やり直し”にもつながりかねない」
東大「検証し説明責任果たす」
東京大学
「文部科学省から検証を依頼する文書をすでに受け取りました。本学として速やかに検証に向けて整理を行った上、学内外へしっかりと説明責任を果たしていきたいと思います」

東大生の受け止めです。
東京大学大学院 修士1年
「どういう選考基準・システムで今の結果に決まったか知りたい」
東京大学 教養学部2年
「女性だから不当に選ばれたとかでなく、むしろ大学が今やろうとしていること、それに忠実な路線だから選ばれたんだろうと話題になっている」
東京大学大学院 修士1年
「投票で反映されていないところが評価されたんじゃないか。ただ人気になってしまうと、実力よりも人気勝負になってしまう。それなりの理由があったんじゃないか。自分は学業に集中しようと思う」

法人化で“経営能力”重視に
国立大学のトップは選考会議で選ばれ、文部科学大臣が任命します。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんによると、教職員らによる投票の結果は参考情報の扱いで、それを重視するかどうかは大学によって違うということです。投票で1位になった人がそのまま学長に選出される方式は、大半の大学が該当します。投票で2~3位でも学長に選ばれることがあるのが東京大学や京都大学など。選考会議のみで決める大学もあります。
転機は2004年に国立大学が法人化されたことだといいます。
大学ジャーナリスト 石渡嶺司さん
「2004年以前は、教職員へのメリットとなる“待遇改善”や“設備の新設”などを掲げる人が選ばれてきた。一方で“予算削減”“設備の廃止”といった痛みを伴う改革を訴える人は支持されにくかった面もあり、学長選考が“人気投票に過ぎない”という批判もあった。国立大学が法人化されて以降は、大学への交付金も年々減少傾向にあるため、現在の学長は、産学連携や株式・債券の運用といった経営マネジメント能力を持った人が選ばれやすい。今回の東大の総長選考では、なぜ2位の候補が選ばれたのか説明が尽くされたとは言えない。その点が疑念を呼び、文科省も問題視しているのでは」
