RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特な発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。
この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?
■「さんぴんCAMP」から20年
ーー先日「さんぴんCAMP20」が開催されました。あの「さんぴんCAMP」から20年が経過したんですね。
Mummy-D そうだね~、俺が当時26歳で宇多さんとMUROくんは27歳。石田さんは確か30代だったけど、基本的にはみんな20代だったよ。
ーー当事者としては、当時の「さんぴんCAMP」はどんな感じだったんですか?
Mummy-D そりゃすごかったよ。当時はみんなクラブをベースに地下で活動してて、お客さんも数十人単位でさ。一番デカいハコでもYELLOW(Space Lab YELLOW / 2008年6月に閉店)とかだったんだよ。そういう中での評判やプロップスを意識してみんな切磋琢磨してたんだよね。そんな俺らにとって野音を3000人のお客さんが埋め尽くしたことが本当に衝撃的でさ。「ヒップホップで熱くなってる奴らがあんなにいっぱいいる!」って(笑)。それで「やっべー!」って感動したんだよ。出演者はもちろんだけど、それはお客さんも同じ気持ちだったと思う。
ーーステージに立った時はどんな心境でした?
Mummy-D ……もちろん今まで頑張ってきたことが結実した瞬間だったからすごく嬉しかったけど、一言では言い表せないものがあった。
ーーというと?
Mummy-D 「さんぴん」に出られたか否かで日本のヒップホップシーンに初めてイケてる組とイケてない組が生まれたんだよ。それまではそういうの全然関係なくてさ。クラブでみんなでワイワイやってたの。だけど、出演者であるか否かですごく大きな差ができてしまった。イベントだから出演できない人が出てきてしまうのはある程度仕方ないんことなんだけど、一緒にがんばってきた仲間があの場に立てないなんて「こんなの違う」って思ってた。ある仲間は客席から、別の仲間は「くだらねえ」ってふてくされて帰っちゃった。その日の朝まで一緒にクラブで遊んでたような関係だったのに。だから、すごい感動してたし、うわっついてたけど、同時にあのステージに立てなかった奴らの分までがんばんなきゃって冷静になってる部分をすごくあった。
ーー20年経過して日本のヒップホップシーンはどうなったと思いますか。
Mummy-D 成熟したと思うよ。3000人のお客さんを観て感動してたあの頃の俺らは原始人みたいなもんだからね。ただ今回の「さんぴんCAMP20」だけでは日本のヒップホップシーンの総括はできるもんじゃないよ。そういえば、AbemaTIMESで「さんぴんCAMP20」を”今世紀最大のイベント”とか煽ってたよね? 俺ら”今世紀最大のイベント”に出てないんだけど(笑)。
編集O いろいろ社内事情がありまして(笑)。
Mummy-D 冗談、冗談(笑)。
■「若者の恋愛離れ」について
ーーネットニュースの見出しって煽られますよね。「若者の恋愛離れ」とか。僕なんかそういう見出しだけ読んでいちいち目くじら立ててます。
Mummy-D 若者代表としてマネージャーTはその辺はどうなの? 恋愛から離れてる?
マネージャーT えっ、私ですか!? ……確かに恋愛は面倒くさいですね。今は仕事もあるし、自分のこと以外でさらに考えることが増えるのが嫌です。
Mummy-D まあ確かに恋愛はどの世代にとっても確かに面倒くさい。間違いない。俺だって人を好きになんかなりたくないもん。
一同 え~。
Mummy-D なりたくないよ!
編集O Dさんはモテるから説得力ないすね。
Mummy-D 違う違う、そういうことじゃなくて(笑)。いくらいろんな相手から求められても、自分がその人を好きになるとは限らないでしょ。しかも自分に全然興味ない人に惚れちゃうことだってある。で、惚れちゃうと大変じゃん。冷静に考えれば逆効果と思えるような手紙を書いちゃったり、訳わかんない行動をする。結果として周りの人から嫌われるようなことをしたりさ。恋は盲目でしょ? だから超面倒くさいんだよ。体力も使うし。だもんだから、俺は常に人を好きにならないよう生きてきたの。友達と会って、適当な話して、自分のやりたい趣味を追求してたほうが楽だもん。でも人は誰かを好きになっちゃうものなんだよ。
ーー恋愛は“しちゃう”ものだから、恋愛を“しない”っていうのは頭でっかちな意見で、それを真に受けても仕方ないと。
Mummy-D うん。だって結局いずれ“しちゃう”と思うもん。セックス離れとかも言われてるけど、そういうのも「セックス興味ないです」っていうスタンスを押し出してるだけだと思うんだよなー。みんな誰かのことを好きになっちゃうし、やっぱりセックスしちゃうしさ。そうしないと人類滅亡じゃん。
ーー断片的な知識と浅はかな思考で分かった気になってました。俺、ネットニュースに煽られすぎですね。
Mummy-D 知った気になっちゃってることは昔より増えたかもね。あと時間があるとすぐスマホ見るから、考える題材というか手がかりは増えた一方で、考える時間は減ったし。でもまあスホマなんてただのツールだから。それに今は過渡期かもしんないし。あんまり無理に意味を見出そうとしないほうがいいよ。
■「ネット社会」について
ーーちょっと前ですけど舛添元都知事が辞任しましたよね。本人に多分に原因はあるんですが、週刊文春をはじめネット、地上波、ラジオが連携して、ちょっとバッシングが度を超してましたよね。途中からほぼいじめというか。正直自分も遠巻きにそのいじめに加担してた感覚があって。最近ふとそのことに気がついて、怖くなったんですよ。
編集M まあ舛添氏は単純にいろいろ嫌でしたけど(笑)、マジョリティ側に立ってマイノリティを攻撃してると自分が正義だって安心感が得られるから、あそこまで炎上していったじゃないですかね? 小学生のいじめと本質は一緒かなって思いました。マジョリティ側にいないと、いつ自分に矛先が向けられるかわからないし。
ーー同調圧力的な。
Mummy-D 舛添の件は置いといても、芸能人を上げたり下げたりするのは週刊誌しかなかった頃からあった感情なんだよね。けど、今はTwitterとかの発達でそれがすごくわかりやすく見えてくるようになった。意見表明しないといけない空気感があるじゃん。それこそ同調圧力でさ。でも俺はぼんやりした部分を作っておいたほうがいいと思うんだよ。自分の知らないところは知らないままぼんやりしておくっていうか、「知らない」と言える勇気というか。今って、大人は「その件はまだ考え中です」って言いづらいんだよね。
ーー確かに言いづらいです。しかも炎上とかしてると余計立場を表明しなきゃって強迫観念にかられるというか。表面では平静を装ってるんだけど、内心焦ってるというか煽られてる。でもほとんどの炎上って、実はすごく少ない人の連投だったっていうのがデータで立証されましたよね。バカほど声がデカいという。でも僕みたいのは煽られちゃうんですよね。
Mummy-D みんな、リテラシーは昔よりだいぶ上がってきたと思うけどね。ちゃんとした人はそういう炎上を放置するんだよ。そういう対処の仕方。でもさ、放置って声を上げないことじゃん。その戦い方は見えにくいんだよね。SNSは声の上げ方が進化したものだから、ネットというプラットフォームでは広がりにくいんだよ。
編集M あとわかんないことに対する攻撃もすごくないですか?
Mummy-D ggrks(ググれカス)ってね(笑)。
編集M ネット上に情報はあるから勉強はできるだろっていう。そういう息苦しさはありますよね。
編集O 自分はそういうの感じないなあ。そもそもネット見ないし。
ーー僕もあまりネットは見ないんですけど、それでも同調圧力は感じますね。「猫がかわいいです」くらいならいいけど、ドヤ顔の意見表明とか、自分のエゴを遠回しに伝えようとするSNSの投稿とかは本当に見るのが嫌ですね。
Mummy-D それは震災以降みんなが感じ始めたことなんじゃない? エネルギー問題に関する考え方とかを表明したりするのを読んで辟易とする感じ。
編集O 同調圧力で言えば、LINEの既読スルーも結構いじめの温床になってるみたいですね。でも自分はLINEやってないんで、その辺がよくわかんないんですけど。なんでそんなに他人のペースに合わせなきゃいけないんだろう?
Mummy-D 大人はまだしも10代の子とかにとっては切実な問題だよね。LINEのグループとかあるんでしょ?ハブにされちゃったとかさ。
ーーそれも同調圧力なんですかね? 僕はいつも他人に嫌われたくないとか考えてますよ。
一同 えー(笑)。
マネージャーT そもそも生きてたら誰かに嫌われて当たり前じゃないですか!
ーー理屈としてはわかるんですけど、自分に自信がないせいか、他人の評価がいつも気になっちゃうんですよ。
編集M 大小あれど、みんなそう思ってる部分はあるんじゃない?
編集O というか、そこは「B-BOYイズム」でしょ! 自分が自分であることを誇りましょうよ(笑)。
Mummy-D そうだね、「B-BOYイズム」は何かを乗り越えようとする自分を鼓舞する曲だから。
■「日本の政治意識」について
ーーDさんがさっき言ってた「ぼんやりした部分を作っておく」って今の時代にはすごく大切かも。
Mummy-D そうなんだよね。ぼんやりとした遊びの部分を用意しておかないと、他人との違いを突き詰めすぎちゃうじゃん。そうすると相手を認められなくなっちゃうんだよね。イスラム過激派みたいにさ。他人を許容できない。昔は黙ってればよかったことが、今は何かを言わなくていけない空気になりつつあるんだよね。
ーーそういう同調圧力は確実にありますね。僕は自分がぼんやり肯定派のつもりだったけど、実は全然肯定してないと今気づきました。
Mummy-D 「俺はあんまりわかってないぜ!」とか言いにくいじゃん(笑)。よく「日本人は政治の話をしたがらない」って怒る人がいるじゃない? 「欧米では~」みたいなさ。でもね、俺は思うんだよ。日本人が何人かで集まった時に政治の話をしないのは、そこで己の政治論を戦わせたところでどうにもならないからなんだよ。良いことないっていうか。そういうのを経験として知ってるから、あえて政治の話をしてないだけなんだよ。
ーーそれって「付和Ride On」の歌詞のことですね。そういえば僕も「3人集まったら政治と宗教の話はするな」って両親から教わりました。
Mummy-D 自分の信条があれば、それはいざ選挙の時に投票で自分の表現をすればいい。なんでもかんでも無理やり白黒二階調っていうか、0か1かにはっきりさせる必要はないんだよ。ぼんやりしたものやファジーなものって否定されてきたじゃん。日本人のよくないところみたいみたいな感じで。だけど俺はそのぼんやりこそが割と日本人のいいところだと思うんだよな。
■「選挙」について
ーーそう考えると、InstagramとかFacebookで自分のリア充感をアピールしたがる割に、選挙とかでは自己表現しないのって不思議というか、滑稽というか、本末転倒というか。
Mummy-D 子供はニュースが嫌いだけど、大人はニュースが好きじゃん。それはなぜかっていうと、ニュースでやってることは自分のコミュニティの範囲には関係ない話だからなんだよね。だから選挙も家族を持ったり、経営者になったりすると自然と行くようになるよ。
ーーでも参院選とかは投票率低かったですよね。20代はともかく、30代は4割強、40代でも5割くらい。
Mummy-D 参院選の前に「来週って何の選挙だったっけ?」って宇多さんにうっかり聞いちゃったら、呆れた顔で深いため息つかれたからね(笑)。俺もそんな程度よ。最近こそ選挙には行くけど、20代の頃なんてヒップホップのことしか考えてなかったから政見放送なんか全然見なかったし、選挙広報も字ばっかりで全然読む気しなかった。しかも読んだところで全員同じこと言ってるように思えるし。だから俺は「俺みたいなわかってないやつは行かないほうがいいや」とか、よくわかってる人が責任持って票を入れればいいとすら思ってた。
ーーそういう人多そうですね。僕も選挙は行きますけど、その気持ちわかります。
Mummy-D でもさ、選挙なんて楽しんじゃえばいいんだよ。トンデモな政見放送を笑ったりさ。政治って右にしろ、左にしろ、中庸な人に「どっちかはっきりしろ!」って迫って、自分の陣営に引き入れようとするじゃん。そうするとぼんやりしてる中間層の人たちは「なんとなくやってたらいけないの?」って萎縮しちゃうんだよね。でもさ、ぼんやりしててもいいんだよ。自分の肌感覚で説得力あると思う人に投票するっていう。
ーーとはいえ肌感覚っていうのは有名人候補に入れちゃうとか、そういうことではない(笑)。
Mummy-D そうそう。みんなが選挙に行かないのって、生活がそこそこ回ってるからなんだよね。自分が選挙に行かなくても、とんでもない人が政治家になっちゃっても、世の中は回ってる。あの号泣県議しかりだけど、議員って名乗ってるやつはほとんどバカだってことに世の中は気付いちゃったでしょ。優秀な人は企業とか官僚に流れてる。都知事が誰だろうがいきなりそんなひどいことになんないから、みんなそこまで切実じゃないんだよ。でもさ、切実ってのは結構やばいんだよ。選挙に行って声をあげなきゃならない状況ってのはさ。
ーー確かに参院選の沖縄選挙区は、無所属の伊波洋一氏が自民党の現職で沖縄担当大臣の島尻安伊子氏を破っちゃいましたからね。沖縄の人にとって政治が動かないとのっぴきならないほど切実だから、そういうことが起こったんですよね。
Mummy-D うん。まさに彼らの肌感覚がそういう結果を生んだんだと思うよ。今の世の中って一箇所だけに焦点を当てると、いろんな考え方に納得できるんだよ。「戦争の足音が近づいてきてる!」……そうなのかな~。「強い国にならないと!」……そうだよね~。みたいな。どっちの言ってることも一理あるんだけど、同時に俺はどっちも疑ってる。全体をぼんやり見てないと自分の意見がわかんなくなっちゃうんだよ。だから、俺はぼんやりしていたい。「割と最近まで選挙に興味なくて」とか「俺はノンポリですから」とか言いづらいことを言ってたいよ(笑)。