RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特な発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。

この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?

◼︎第1回目の反響

ーー第1回目、女性から好評だったみたいです。

Mummy-D そうなの?

編集O ええ。主に女性を中心に反応がありましたね。今後は女性から質問を募集したり、参加型の女性限定イベントとかを開催しても面白いと思いました。

Mummy-D いいんじゃない? 「なんでも話すよ」って言っちゃったし(笑)。

ーー今までそういうのやったことあるんですか?

マネージャーT ないですね。

Mummy-D RHYMESTERとして握手会をやったくらいかな。

ーーヒップホップってロックやレゲエに比べて女性ファンが少ない気がします。イケメンのラッパーだって多いのに。

Mummy-D それはアーティスト側に「イケメンとかそういうことで売り出されたくない」って思いがあるからだと思う。俺らも若い頃はそういう気持ちがあったし。ライブとかでもアーティスト側がそういう姿勢だと、お客さんは構えちゃうんだよね。しかもイケメンが好きな人は無条件で「キャー!」って言える状態になりたいわけで。そしたら「キャー!」って状況が用意されてる場所に行っちゃうよね。

ーーでも例えばASIAN KUNG-FU GENERATIONとかはアーティスト性を維持しながら女性ファンも多いですよね? 最近だとSuchmosとか。

Mummy-D SuchmosのYONCEくんだっけ? 彼とか超イケメンじゃん。だいたい売れてるバンドには必ずイケメンがいるんだよ。アジカンだってそう。ゴッチ、超イケメンじゃん。

ーーそうですか?

Mummy-D いやイケメンだよ。

ーーDさんもイケメンじゃないですか?

Mummy-D 俺にはメロディがない。メロディってのはリスナーにフレンドリーだし、イケメンを増強させる力もあるんだよ(笑)。ヒップホップが日本に根付き難い理由に「日本人にはリズム感がない」って言う人がいるけど、それは全然違う。俺は日本人にだってグルーヴを感じる耳があると思ってるよ。でもやっぱり多くの日本人はメロディや叙情を味わうためにライブに行くんだよ。ヒップホップはリズムの音楽だから、その点でも難しいと思ってる。

◼︎素敵な夏の過ごし方

ーー今年の夏の話題といえばオリンピック一色でしたが、Dさんは観てました?

Mummy-D 観てないね。というか、今年は人生最悪の夏だったと言っても過言ではない。

ーー何かあったんですか?

Mummy-D 何もないんだよ。ただひたすら歌詞書いてただけ。しかも今スランプだから「う~ん、う~ん、暑い……」って煮詰まってたら夏が終わってた。

ーーアルバムを制作中なんですよね。ちなみに例年はどんな夏を過ごしてるんですか?

Mummy-D 大体1回は家族で旅行に行くよ。しかも今年は8月にフェス出演がなくてさ。フェスはどっか行った気になれたり、夏を満喫した気になれるの(笑)。なのに今年は7月と9月に集中してて。

ーー僕は毎年いい夏が過ごせません。

Mummy-D 夏好き?

ーー大嫌いですね。

Mummy-D 宇多丸派だね。あの人は「夏死ね」って思ってるから(笑)。

ーー夏というだけでノッてる人が嫌で。「お前らは自分が思ってる以上にイケてない」と教えてやりたくなるんです。

マネージャーT 今すごい猟奇的な目をしましたね(笑)。

Mummy-D 冬は好きなの?

ーー好きですね。寒いとちょっと映画やPVの登場人物のような気持ちになれるんで。

Mummy-D 何言ってんの? 大丈夫?(笑) 

ーーとはいえ、僕も本当はいい夏を過ごしたいんですよ。今年のオリンピックはリオだけにサンバとかカッコいい音楽が競技の合間にすごく鳴ってて、僕的にはすごくアガる内容だったんですよ。リオのカーニバルに行ってみたくなりましたし。でも自分がフェスに行ってノリノリのノリ男やノリ子に絡まれるのは絶対に嫌で。なのでDさんにどうしたらいい夏を過ごせるのか教えてほしいんです。

Mummy-D 僕が君と違うのは、基本的に人はどうでもいいという点。君は結果的に人の目を気にしすぎ(笑)。自分1人で勝手にいい夏を過ごせばいいじゃん。

ーー真理すぎてぐうの音も出ません。

Mummy-D 俺は夏が大好きなんだよ。10年前くらいは夏までめちゃめちゃ根詰めてレコーディングして、終わった瞬間にほとんど無人島みたいなとこ行ってボケーっとしてたんだよ。密室作業から真逆のシチュエーションに行くっていう、自分へのご褒美だね。俺はチャラチャラしたとこは嫌いだからさ。同じ理由で山も好き。バカがいないじゃん。そもそも君の「夏といえば湘南の海」みたいな前提がおかしいんだって(笑)。

ーー僕、鎌倉出身なんで夏というとバカが「ウェイウェイ」言ってるイメージが強くて。

Mummy-D 俺だってウェイウェイは嫌だよ。

マネージャーT 私もウェイウェイは嫌いですけど、クラブに行くのは夏の方が好きです。冬だと上着をクロークに預けたりしなきゃいけないけど、夏なら着の身着のままで遊びに行ってサッと帰れますよね。しかも朝方クラブを出たらもう明るくなってて。そういう感じは好きですね。

Mummy-D あと俺、日焼けも好きなんだよな。太陽がギンギンに照ってたら、焼かないと勿体無いと思っちゃうし。

ーー「夏のクラブ=セックス」「日焼け=セックス」みたいな感覚があったんですけど、そんなこともないんですね……。皆さんの話を聞いて、自分がいかに固定観念に囚われてるのかを気づかされました。

編集O 今頃気づいたんですか?(笑)

◼︎デリカシーのない人との距離感

ーー僕は世の中が譲り合いで成立してると思ってるんですが、最近デリカシーのない人が多いような気がしてるんです。譲られるのが当然と思ってる人が多いというか。

Mummy-D わかる。俺もどちらかと言うとお人好しなタイプで、何かコトが起こると「あっ、こっちが悪いのかな」って思いがちだし。でさ、そういう人がガマンの限界を迎えると残された道はキレるしかないじゃん。ナチュラルに図々しい人もいて、……そういう人にはもう敵わないよね。

ーーナチュラルな人はまだ許せるんですけど、あえてデリカシーがないふりをしてる人が耐え難い。

Mummy-D 何それ? どういうこと?

ーー「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の論理で、みんなやってるから自分もやっちゃう人。横入りしたり、足を踏んでも謝らなかったり。例えば、雨の日に混んでる電車の中で他人に傘が当たってしまうことがありますよね。そしたらDさんはきっと「すいません」って一言謝って傘が当たらないようにすると思うんです。

Mummy-D うん。

ーーでもしばしば傘が他人に当たってることを気づかないふりをして、謝るのを拒む人がいるんですよ。そういうのが理解しがたいし、許せない。

Mummy-D そういう時、君は「当たってますよ」って言わないの?

ーー言いませんね。

Mummy-D 言えばいいじゃん(笑)。

編集O 逆になんで言わないんですか? 電車の雰囲気を悪くしちゃうから?

ーーそうです。

Mummy-D みんなそんな感じなんじゃない? 俺も電車の中で常に「さーせん」って言ってるもん。ちょっと前電車に乗ってたら隣が女子高生だったんだよ。その子は両手でスマホいじってて、肩にかけた鞄が俺にガンガン当たってるの。それが終わったと思ったら今度は前髪をずーっといじってて、途中から柳原可奈子のモノマネを見てるような気持ちになってきたんだよね(笑)。

ーー「総武線の女子高生」というネタに出てくる女子高生ですかね?

Mummy-D そうそう、まさにあの感じ! 最初はすげーイラついてたんだけど途中から面白くなってきちゃってさ、そしたら曲になりそうって思えてきたんだよ。

ーー「話のネタができた」くらいの気持ちでいればいいんですね。ネガティブなことをポジティブにアウトプットするというか。嫌なことをいちいち突き詰めてるとキリがないし。

Mummy-D そうそう。俺も前に夜中の満員電車で変なことあってさ。俺が乗った時は最初扉の辺にいたの。でも本当に混んでたから、人が降りるタイミングでちょっとスペースに余裕があるつり革の方に移動したのね。その時サラリーマンのおじさんに俺の腕がちょっと当たっちゃって。俺は「すいません」って謝ってその後つり革に捕まって電車に揺られてたんだよ。その後3駅くらい乗ったのかな。ふと窓を観たらそのおじさんが暗い窓越しにずっと俺のこと睨んでて(笑)。

編集O うわ!

Mummy-D さっき「すいません」って言ったのに……。それで窓越しにまた謝って(笑)。その人もお疲れのご様子で、しかも一杯ひっかけた後みたいだったんだよ。でもそんなに睨まなくたっていいじゃん。もうがっくりきちゃって。その時の俺のモヤモヤは「It’s A New Day」って曲にして成仏させたんだ。

編集O でもそのおじさんよりDさんの方が絶対に忙しいと思いますけどね(笑)。