RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特な発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。
この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?
■ラッパーの言葉遊び
ーーちょっと前にリリースされたAKLOのアルバム「Outside the Frame」がすごく良いので、今いろんな人にオススメしてるんですよ。そしたら友人に「McLaren」をどういう気持ちで聴いてかわかんないって言われて。
Mummy-D どういうこと?(笑)
ーー彼は「AKLOがラッパーとしてトップランナーである」という意味で「McLaren」と歌ってるのはわかるんだけど、それをシャレと捉えていいのかわからんと言うんです。僕はヒップホップや日本語ラップが好きだからそんなこと考えたこともなかったんだけど、音楽好きの中でもそういったモヤモヤを感じている人は少なからずいるのではないかとも思ったんです。
Mummy-D 確かにそのモヤモヤを感じてる人はいるかもね。俺だってなんでAKLOが急にマクラーレンって言い出したのかわかんなかったもん(笑)。
ーー「マクラーレン」と「捲(ま)くられん」がかかってるんですよね。
Mummy-D AKLOってそんなに冗談言うタイプに見えないじゃない? その友達はAKLOが打ち出しているクールなキャラと「マクラーレン」という言葉の面白さの差に困惑したんじゃないかな。「面白いって思っちゃっていいんですか?」みたいな。俺もちょっと感じたくらいだから。ラッパーは面白い言葉遊びをする人っていう予備知識がないと、AKLOが「McLaren」に込めたダブルミーニング、トリプルミーニングみたいな部分はモヤモヤしちゃうよね。
ーーAKLOはアメリカのヒップホップを日本に翻訳しているアーティストだと思うんです。「Outside the Frame」はすごくシリアスなメッセージをハイクオリティなラップとトラックで歌ったアルバムなんですが、同時にジョークも満載で。僕はそのギャップもヒップホップの面白さだと思うし、本当にスタイリッシュな部分だとも思うんですよ。これはRHYMESTERの活動にも通じることなんですが。
Mummy-D 海外だと歌詞に込められた意味を解説するサイト(http://rap.genius.com)があるんだよ。やっぱり一般の人は歌詞の中の単語にまで込められた意味はわかんないと思うから日本でもそういうのがあるといいんだけどね。メディア側も楽しみ方を教えていく必要がある。同時にアーティスト側も野暮なことをやっていくべきかも。
ーー野暮なことというと?
Mummy-D 自分で自分の歌詞を説明しちゃうとか。ラッパーにとって種明かしみたいなことにもなりがちだから、難しい部分でもあるんだけど、リスナーからしたら歌詞にどんな意味が込められてるかがわかると面白いかもね。
映画に付いてるメイキング映像に近い感覚のものだよね。そういうコンテンツは必要かもね。俺らもアルバムを出したら全曲解説みたいなことはやってるけど、さすがに歌詞の細かい部分まで解説はしないからさ。「こことここの韻がこうかかってます」みたいなことやってたらキリないし。取材の時もライターさんとかは歌詞の叙情的な部分ばかりを訊きがちじゃん。そうじゃなくてテクニック的な部分について訊くとラッパーたちもやる気になると思うんだよね。
編集O それ面白いですね!
ーーRHYMESTERって歌詞に二重三重の意味を込めたり、テーマと全然違う雰囲気のトラックであえて歌ったりという実験をすごくたくさんしてますよね。例えば、前回Dさんは「“付和雷同”とは余計な問題を回避するための知恵である」と話していました。それについて歌っている「付和 Ride On」は、テーマと似ても似つかない超アッパーなサンバトラック。その試みに気づいた時、「RHYMESTERはどこまで深く考えてるんだ」と驚いたんですよ。でもそういうのって、前回取材するまで僕は気づけなくて。僕が鈍いだけかもしれないけど、一般の人もなかなかそこまで気づけないだろうな、というところもあって。
Mummy-D そりゃそうだよ。歌詞のテクニカルな部分をアルバム通してってわけにはいかないから、せめて推し曲とかについてはメッセージだけじゃなくてテクニカルな部分まで解説するのは面白いと思うな。あとボツにしたアイデアとかね(笑)。
AKLOみたいにロジカルに歌詞を書く人はそういうのもいっぱい話せるはずだよ。だけど、ラッパーの中には脊髄反射で歌詞を書く人もいるから、全員に当てはまるわけではないだろうけど。
■ラップスキル「三連譜」を解説
ーーちなみにDさんは「Outside the Frame」をどう聴きましたか?
Mummy-D AKLOはアメリカのラッパーが何を面白いと思ってラップゲームをしているか、どんなフロウを使ってラップしているかってことをすごい研究してるんだよね。実は俺が参加してる「サーフィン」のリミックスバージョンがあるんだよ。それで一緒にレコーディングして、彼のフロウにすごく刺激を受けた。
ーーラップをしない人間にすると「フロウ」ってすごくフワッとしてるんですよね。もちろんわかるんだけど、言葉で明確に説明できない。
Mummy-D フロウは流れのことじゃん。基本的には歌の節(ふし)だよね。歌に節を付けること。上げ下げ。どこでアクセントを付けるかとか、ラッパー特有の喋り方、歌い方。それはメロディでもあるし、リズムでもある。でさ、歌みたいにドレミになってるわけじゃないから、ちょっとわかりづらいのかもしれない。
ーーあー、なるほど。アメリカのヒップホップシーンでは、その新しい節付け、新しい歌い方が次々と生まれて、流行り廃りがあるということなんですね。
Mummy-D そうそう。今は遅いビートにたくさんの言葉を詰め込む三連譜っていうのが流行ってるの。それはAKLOに言われて知ったんだけど(笑)。っていうか彼は今回の「Outside the Frame」は三連譜で割るやり方ばっかりやってるんだよ。だから俺もリミックスで「サーフィン」を三連譜で歌ってみたらスッゲー楽しかった。
ーー三連譜自体は昔からあるフロウなんですよね?
Mummy-D そうだね。
ーー「サーフィン」でいうとどの辺が三連譜になるんですか?
Mummy-D 全部。昔の三連譜は3つで割る最初の音にアクセントを持ってきたからすごくわかりやすかったんだよ。でもAKLOがやってる三連譜は、アクセントを3分の2でつけたり、3分の1でつけたり、3分の3でつけたりして、しかもそれを組み合わせるんだよ。だから普通に聴くと三連譜っぽくないの。ちょっと聴いてよう。
(「サーフィン」のリミックスを再生中)
Mummy-D わかった?
編集O 普通にカッコいいということはわかりました(笑)。
Mummy-D それでいいんだよ(笑)。俺らは複雑なことでも、普通にカッコいいと思ってもらえるためにやってるんだから。でも今回AKLOと一緒にやってみて、自分の手癖にはないフロウが出てきてすごく新鮮だったんだよね。次回は「サーフィン Remix」の俺のパートを解説しよう!