新入社員の女性が過労により自殺した電通について、複数の社員に違法な長時間労働の疑いがあるとして、厚生労働省が11月8日、強制捜査に乗り出した。長時間労働の問題の解決は、現在「働き方改革」に取り組んでいる政府、ブラック企業撲滅を目指す厚生労働省にとっても正念場を迎えている。

 一方、そんな政府・霞が関で働く人々の労働環境はどうなっているのだろうか。かつて経済産業省に勤務していた元キャリア官僚の宇佐美典也氏(35)に話を聞いた。

■月の残業時間が300時間超えも…

 「私は2005年から2010年までの5年間、経済産業省の本省で働いていた身なのですが、確かに中央官庁の労働環境はブラックもいいところで、“真っ黒“といった感じでした。私が最も残業したのは2007年12月のことで、『企業立地促進法』という法律を作成するチームのメンバーだったのですが、連日職場に泊まり込み、主食は甘利大臣(当時)から差し入れられたカップラーメンという状況でした。月の残業時間が300時間を超えていました。他に国会の対策をする職員や、財務省と予算折衝する部局もまた連日泊まり込みの日々を過ごしていました。」と若手官僚時代を振り返る宇佐美氏。

 この間、日中は省内の意見を集約、法律の条文案・説明資料の作成、夜は条文案と資料を取りまとめて冊子にして印刷。早朝に審査部局に持ち込みレビュー、という日々を送っていたという。

 「省庁ごとに事情はあると思いますが、国家公務員の仕事というのは、法律を作って、運用して、改善して、ということの繰り返しですから、やっている仕事の基礎はどの省庁も変わりません。みんなそれなりにやりがいを持って一生懸命働いていたと思います。」(同氏)

■「国会待機」問題は本質ではない

 法案の作成と並んで、職員たちを明け方まで拘束しているのが、答弁の作成のため国会議員からの質問案を待つ「国会待機」。長時間労働の元凶だと指摘されてきた。

 宇佐美氏の古巣・経済産業省の世耕弘成大臣も8日の会見で政府が現在進める「働き方改革」に触れている。世耕大臣は「職員が自宅で作業ができるような環境を整えたい」と述べるとともに、「(今の作業量を)自宅にそのまま持って帰ったら同じこと」として、答弁作成のあり方そのものを見直す必要があるとの認識を示した。

 宇佐美氏は「国会待機」そのものを問題視することについて「本質ではありません。問題は、政局で混乱する中、いい加減に作られた質問に対してまでも“ミスのない完璧な国会答弁“を求める“日本的な完璧主義“の方ではないか」と指摘する。

 「中央官庁は、特に野党から“ミスがなくて完璧“であることを求められます。条文が少しでも間違っていたり、答弁が少しでも整合性が取れていなかったりしたら、野党だけでなく、メディアも国民も大騒ぎです。結果として品質を過剰に追い求め、瑣末な点に対しても入念な議論を行っているのです。

 私が経験した中で最も馬鹿らしかったのが、法律上に複数の産業を書き並べる時に“林業が先か、水産業が先か“ということを巡って一晩中議論した事です。“ある法律では水産業→林業の順なのに、今回の法律では林業→水産業の順になっている、これはなぜか?“と審査部局に聞かれ、私ともう一人の若手職員が大慌てで理屈を考え、徹夜で説明資料を作りました。そんなことを議論したところで国民生活や法的安定性には何ら関係なく、今振り返ってもこれほどバカバカしい仕事はありません。」(同氏)

■霞が関に“人間らしさ・いい加減さ“を

 職員たちの残業によって発生する莫大な超過勤務手当やタクシー代は、もちろん国民の税金で賄われている。ところが、各省に割り当てられた予算の関係上、満額 が支払われないケースがあることもしばしば報じられている。また、国家公務員は労働基準法の適用外ということも、民間企業との大きな違いだ。

 「たとえ深夜1時に国会質問を提出されようが、官僚は国会議員を待って、一生懸命徹夜して”完璧な”国会答弁を作ります。そしてそのために膨大な税金が残業代とタクシー代として消えていきます。いいえ、実態は残業代が出ずにサービス残業になることがほとんどです…」(同氏)

 このような慣習を改めるために必要なことは「”完璧主義”の放棄」だと宇佐美氏はいう。

 「例えば深夜1時に提出される質問に対しては政府側が“こんな非常識な時間に提出された質問は答えるに値しません。職員にも家庭と生活があります。“と一刀両断に切り捨てて、全員家に帰してしまえばいいのです。そういう“人間らしさ・いい加減さ“を中央官庁に持ち込むことが本当に必要なのだと思います」(同氏)

 このような実態が続けば、優秀な人材が公務員に集まらなくなってしまう懸念もある。政治家はもちろん、メディアも国民も、とかく批判しがちな霞が関の実態について理解を深めていく必要があるのではないだろうか。また、宇佐美氏の指摘は民間企業にとっても耳の痛い問題といえるかもしれない。

(C)AbemaTV

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