
映画やドラマ、アニメのファンにとって、作中登場した舞台のモデルやロケ地を訪れるのも楽しみ方のひとつ。今年メガヒットした映画『君の名は。』『シン・ゴジラ』についても、関連スポットを訪れた人が次々とSNSで報告しており、“聖地巡礼“は一般化しつつあるようにも見える。
『聖地巡礼 - 世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)の著者、北海道大学の岡本亮輔准教授は「近年、舞台訪問の観光効果が特に認識されるようになっていて、各地にフィルム・コミッションが作られ、組織的な誘致活動も見られます」と話す。
9月には旅行業者「一般社団法人アニメツーリズム協会」が発足。理事長には「機動戦士ガンダム」を手がけた富野由悠季氏が就任、航空会社や大手旅行代理店幹部が理事に名を連ねており、“聖地巡礼“を通じた観光資源の掘り起こしを目指す各界の意気込みを感じさせる。
観光地化に成功した例として岡本准教授は「地元の商工会の熱心な活動などもあり、今では作品を知らなくても訪れるアニメ・ファンもいらっしゃいます。制作側、地元、そして訪問者の三者が共存する幸福なケースだと言えます」として、アニメ『らき☆すた』の舞台となった埼玉県の鷺宮神社を挙げる。
こうした成功事例を受けてか、“聖地巡礼“が可能な作品はとりわけアニメ作品で年々増加しているように見える。しかし、自治体や地元団体を巻き込んだ、はじめから観光客を見込んでの作品制作に落とし穴はないのだろうか。
岡本准教授によると、そもそもアニメの背景に実写の風景が取り込まれるようになったのは、制作プロセスの簡略化などの「かなり実際的な理由から」だったという。つまり、あくまでもモデルとしての位置づけだった実在の場所をファンたちが特定し、ネットを経由して多くの人が集まるようになったのが“聖地巡礼“の成り立ちなのだ。
「アニメ聖地巡礼は、そもそもファンの自発的な探索として始まりました。この自発性がポイントです。ファンが、数少ない情報から主体的に舞台を推理・発見するところに面白さがあったわけです。アニメ制作の裏側にアプローチするのが、そもそものアニメ聖地巡礼でした。したがって、あまりにあざとい町おこしが見え見えの舞台設定は、ファンからの反発を買うことがあります。経済効果が認識されて以降、各地を舞台に意図的にアニメが作られましたが、すべてが成功しているわけではありません」(岡本准教授)。
「ゆるキャラ」ブーム同様、全国の自治体や業界団体が町おこしの一環として飛びつきそう話ではあるものの、成功させるのはそう簡単な話では無いようだ。
「一番大きな問題は持続性です。宗教の聖地は一ヶ所から動くことはありませんが、アニメはシーズンが変われば、別の場所を舞台にした新しいアニメが始まります。極端に言えば、シーズンごとにアニメ聖地は変わる可能性があります。その点、観光振興において重要なリピーターを獲得しにくく、瞬間風速で終わってしまうかもしれません。」(同前)
さらに岡本准教授は続ける。
「重要なのは、ある作品の舞台として実在の場所が選ばれるとき、そこに社会的・文化的必然性があるかどうかです。ゴジラは1954年の時から東京に上陸しました。東京でとったルートにどのような意味があるのかが様々に考察されてきました。実在の場所を舞台にする場合、すぐれた作品では、どうして他ではなくそこが舞台なのかが示されているのではないでしょうか。観光客誘致ありきの舞台設定は危険ですし、作品を台無しにする可能性もあると思います」とも指摘。
初めから観光スポット化ありきではなく、作品が持つ意味やヒットの文脈をしっかりと読み込み、ファン心理を踏まえた上での施策が必要と言えるのではないだろうか。
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