「日本は僕のふるさとだから…。」

 日本にいたい一番の理由は?との質問にそう返したのは、強制退去処分の取り消しを求め、訴えを起こしていたウォン・ウティナンくん(16)。

 東京高裁は6日、その訴えを退ける判決を言い渡した。

 ウティナンくんの母親は不法滞在中の2000年、山梨県でタイ人男性との間にウティナンくんを授かったが、男性とは別れ、母子二人で生活してきた。

 2014年、母親の不法滞在を理由にウティナンくんに日本からの強制退去処分が言い渡されたことから、それを不服とし、処分の取り消しを求めて裁判を起こしていた。

 東京地裁は今年6月、母子の訴えを退けたが、判決文には、「不法滞在を続けてきた母親がタイに帰国後、親代わりの人物が見つかれば在留特別許可の再検討の可能性がある」との趣旨が含まれていた。

 母子はその可能性にかけ、母親はタイに帰国、ウティナンくんは一人、日本で裁判を闘い続けてきた。

 しかし、東京高裁(小林昭彦裁判長)の判決は「退去強制処分は適法」とし、「控訴棄却」。在留特別許可再検討の可能性も、まったく考慮されなかった。

 暁法律事務所の指宿昭一弁護士は「一審で『親代わりが見つかれば再検討の余地がある』と言っておきながら、今回そこにはまったく触れていない」と、今回の判決に疑問を呈する。

 判決文で東京高裁はウティナンくんについて「必ずしも地域社会に根付いて強固な関係を築いていたとまでは言い難い」と記したほか、母親が帰国したタイの生活環境については「控訴人(ウティナンくん)を受け入れる環境がまったくないわけではない」との考えを示している。

 これに対し指宿弁護士は「すべての不法滞在者を日本に残せと言っているわけではない」と前置きした上で、「実は法務省は、人道的な面を考慮し子どもだけだったら日本の在留資格をあげると言っている。実際に入国管理局に出頭し在留許可がでたケースも多くある。今回のケースで在留許可が出ないというのはおかしい」と指摘した。

 ウティナンくんはこれからも裁判を闘うのだろうか。

 「闘う以外ない。ウティナンくんにとっては日本がすべてなのだから。」支援者である山崎俊二さんは語る。

 上告するのか、再審情願という形で入国管理局に再び申請するか、あるいは併用するのか。山崎さんはウティナンくんに情報を提供しつつ、決断は尊重するという。

 「勝った時用と負けた時用。負けた時用の作文は使いたくない」。判決後の記者会見で話す内容を、前もって2種類用意していというウティナンくんだが、判決後の記者会見ではショックのあまりほとんど発言することができなかった。

 最後に絞り出した言葉は「待っている期間が長かったのに、判決が出るのが早くて、こんなに簡単に決まってしまうのかと悔しかったし、悲しかった」。

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