CHICO CARLITOが1stアルバム『Carlito's Way』をリリースした。どうやら我々が「フリースタイルダンジョン」で目にしているスキルフルなモンスターは、CHICO CARLITOというラッパーのほんの一部分にすぎないようだ。“カリートの道”と題されたこのアルバムには、沖縄の複雑な現状、一緒に歩む仲間、そして現在のヒップホップシーンに対する彼の意見が刻まれている。「言いたいことはクソほどある」と語った彼の最初の一歩について話してもらった。 

「言いたいことはクソほどある」 

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ーー1stアルバム『Carlito's Way』が完成しましたね。 

CHICO CARLITO(以下CHICO):ようやくという感じですね。本当は今年3月にこのアルバムを出したかったんですよ。 

ーーすごくシリアスなアルバムで驚きました。 

CHICO:みんなは俺が明るいアルバムを作ると思ってたみたいだから、こういうのはびっくりしてもらえるかなと思って。ゲットーも、ドラッグも、サグも、俺には歌えるようなバックグラウンドがありません。でも言いたいことはクソほどある。すごくコンシャスな内容になったと思っています。 

ーーフリースタイルダンジョン」についてはほとんど歌ってませんね。 

CHICO:確かにバトルにはいろんなドラマがあります。でもバトルで名前を上げたラッパーが曲でもバトルのことを歌っちゃうと「それしかないの?」ってことになるでしょ(笑)。バトルには本当にいろんなドラマがあるし、負けたくないし、一生懸命やってる。けど、これからの俺にとってバトルの割合が少ないと思います。 

ーーそれはなぜ? 

CHICO:UMBに勝って100万円を手にした。俺、100万円ってもっと分厚い札束だと思ってたんですよ。でも、実際手にしてみたらそうじゃなかった。俺は仲間と一緒にやることやって、音源をいっぱい売って、デカい会場をパンパンにしてでっかい金を掴みたい。バトルも自分の名前を売るためにやってる。カッコイイなと思ってもらえるようにバトルで努力して、音源やライブの動員につなげたい。だからバトルを軽んじてるということは全くありません。  

「最初に作ったのはセットリスト」  

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ーー「フリースタイルダンジョン」でチコさんを知った多くの人にとってこの「Carlito's Way」は待望の1stアルバムとなります。制作中にプレッシャーはありましたか?  

CHICO:いや「早く作りたい」という思いのほうが強かったのですね。アルバムは6月からレコーディングし始めたんですが、その時点では2~3曲分しかリリックができてなくて。レコーディングは毎回2曲ずつ録っていったから、1回目が終わるともう曲がないんです。だからプレッシャーや雑念を感じる暇はなかったですね。レコーディングが終わって、歌詞書いて、またレコーディングしてって感じ。それを2ヶ月くらい続けました。  

ーーすごくよく練られたアルバムだと思いましたが、これを2ヶ月で作ったんですか!? 

CHICO:レコーディングは2カ月で終わりましたけど、アルバムを作ることが決まったのは去年の11月で。「Carlito's Way」の「2015年11月某日の午前4時寒空の下で」というリリックがそのこと。それでTK(da黒ぶち)くんのレーベル・Timeless Edition Rec.から出せることになって、アルバムのイメージとして最初に今回の収録曲とほぼ同じ最初にセットリストを作ったんですよ。 

ーー最初にセットリストを決めたんですか? 

CHICO:はい。リリックのテーマとトラックメーカーと曲順を最初に考えました。 

ーーちょっと変わった作り方ですね。 

CHICO:俺はこれが普通だと思ってたんですけどね(笑)。今回のアルバムは俺と同じkuragaly所属のトラックメーカーのOsurek Bertopが大活躍してくれてます。Sweet Williamはココ、Olive Oilさんはココっていうのだけ決めたセットリストがあるけど、実際はどんなトラックが来るのかわからない。そこでいろんなタイプのトラックが作れるオシュレックが、アルバムとしての統一感が出るように音でバランスをとってくれました。 

ーー離れ業をやってのけてくれましたね。 

CHICO:本当にそう思います。音の面に関しては全部オシュレックに相談してましたから。オシュレック的には、今回のアルバムに提供してくれた曲は一番好きな感じのトラックではないかもしれないですね(笑)。抜群にすごいやつですよ。

「沖縄が44年前までアメリカだったこと、みんな覚えてますか?」

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ーー今回のアルバムでまず印象的だったのは、沖縄の現状を歌った「47」「Orion's belt feat. RITTO」の2曲です。 

CHICO:1~3曲目までは本当に俺らが遊んでいる感じです。陽気な。でも沖縄は遊びだけでは、言い表せないくらいの負の遺産を持った県。「47」は沖縄が47番目の県ということと、おばあが歩けなくなったのが確か47歳なんです。 

ーー「勉強しなさい」というラインは強烈でした。 

CHICO:俺、めっちゃ勉強しましたもん。本当にめちゃめちゃやった。早稲田に入りたかったけどあと3点で落ちてしまって、一浪して今の大学に入りました。もう一浪して早稲田を目指すこともできたけど、勉強に関しては現役で出し切りましたね。さすがにもう無理(笑)。ヒップホップを知ったのは浪人の頃です。 

ーー「47」で歌われるおばあさんの半生は本当に壮絶ですね。 

CHICO:沖縄って44年前までアメリカだったんですよね。日本になってからまだ半世紀も経ってない。おばあなんかは水のことを「ワーラー」って言う。ウォーターがなまって「ワーラー」。本当にみんな忘れがちだから、それを知っておいてほしくて歌いました。 

ーー「Orion's belt」は沖縄のラッパー・RITTOさんが参加しています。 

CHICO:沖縄の方言でオリオン座の三ツ星を黄金三星(くがにみちぶし)と呼ぶんです。神様が住む場所という意味。本当に色々言いたいことがあって、今それを曲に込めたんだけどそれをうまく言葉で話せない(笑)。直接影響を受けたわけじゃないけど、RITTOさんのアルバム『AKEBONO』に入ってる「ミライニナイ~島和の祈り~」「Relaxした後は島の愛に従え」って歌ってる。サビの「いつの時代も困難 王朝からゲットー 今はリゾート」ってラインにはすごい食らいました。俺は地元にいないけど、そういうことを歌えるラッパーだと思っています。

「アルバムには俺に関係ある人しか参加してない」 

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ーーこの後の「Skit」は軽妙ですごく見事に場面転換してますね。 

CHICO:J-TAROさんのトラックは、アルバムの流れを変えるタイミングに映えるんですよ。だから意図的に「Intro」「Skit」を作ってもらいました。Jさんは借金してレコードを買いまくっちゃうような人(笑)。アルバムに提供してくれた曲も貴重なレコードからサンプリングして作ってるんだけど、「お金はいらない。お前に歌ってほしい」って言ってくれて。「47」や崇勲の「逃走中」とかも作ってますね。 

ーー7曲目からはヒップホップシーンに歌っています。仲間が認められない悔しさややるせなさが印象的でした。 

CHICO:それはヒップホップやってるやつはみんなそうだと思いますよ。今回のアルバムには俺に関係ある人しか参加してないんです。制作費は100万円あったから、俺が好きなNORIKIYOさんBRON-Kさんに客演で参加してくださいとオファーすることもできたけど、1stアルバムでそれをやるのは違うかなって。今まで一緒にやってきた連中とアルバムを作ることが一番大事でした。ちなみに5曲目の「Orion's belt」は、RITTOさんでヴァースが終わるじゃないですか。で、「Skit」を挟んで「Champ Roots」は、D.D.Sさんのヴァースから始まりますよね。俺の中ではこの流れがすごく意味がある。 

ーーどういうことでしょう? 

CHICO:つまりこのアルバムでRITTOさんからD.D.Sさんにマイクパスを実現させたんですよ。この2人は仲悪いから(笑)。「一陽来復」の唾奇から「RH-」の俺にマイクパスするっていうのすごく意味がある。 

ーー唾奇さんはどんなラッパーですか? 

CHICO:俺の2こ上の先輩ですごくかっこいい人です。あの人がいなかったらラップなんてやってないと思います。唾奇が働いてるバーで俺の小中学校の同級生がよく遊んでたんですよ。そこであいつがかけた鬼の「小名浜」を聴いて、ヒップホップにハマりました。それがパラバルってもう無くちゃったお店なんです。 

ーー「Intro」に出てくるお店ですね。 

CHICO:そうそう。で、13曲目に「パラバル to the Hula hoop Forever」って歌ってるから、また1曲目に戻る仕掛けになってるという。 

「もっとがんばらないといけない」 

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ーーこうして話を伺っていると、やはりすごくテクニカルに話題が整理されたアルバムだと思います。浮ついてないというか、冷静に作られた作品というか。 

CHICO:浮かれてはいないですね。俺が沖縄にずっといて東京の流れを知らなくて、この状況に置かれたらうわっついちゃうかもしれない。けど、DOTAMAさんは9月に20本以上もライブやってて。一番恥ずかしかったのは、R(-指定)くんに「俺、8月に4連ちゃんでライブ入ったんで忙しくなりそうです」って言ったら、「俺も明日から10月の半ばくらいまで休みないわ~」って(笑)。俺ももっとがんばらないといけない。 

ーーその心構えがアルバムに出ていると。 

CHICO:今もそこでLick-Gがレコーディングしてるけど、下からはバンバン新しいやつが出てきてる。別に場所を取られるからとか思う必要はないけど、ダラダラしてる必要も一切ない。今は曲が作れる状況だし、それを無駄にしたくないです。もうすでに次のアルバムについて考えてますし。  

ーー今後はどんな活動をしていく予定ですか? 

CHICO:まだ全然わからないけど、とりあえず3月くらいまではライブでいろんな場所に行けそうなんで、日本をいろいろ見てきたいですね。今んとこ、俺の最北端は仙台なんで。再来週には秋田に行くから更新されますよ(笑)。 

TEXT:宮崎敬太

PHOTO:小原弘樹

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ARTIST : CHICO CARLITO (チコ カリート) 

TITLE : Carlito's Way (カリートズ・ウェイ) 

LABEL : Timeless Edition Rec. 

発売日 : 2016年12月07日(水) 

税抜価格 : 2,000円 

収録曲 

01. Intro [Track by J-TARO] 

02. C.H.I.C.O (Album Edit) [Track by Osurek Bertop] 

03. 那覇のクラブ [Track by Osurek Bertop] 

04. 47 [Track by J-TARO] 

05. Orion's belt feat. RITTO [Track by Olive Oil] 

06. Skit [Track by J-TARO] 

07. Champ Roots feat. D.D.S [Track by Osurek Bertop] 

08. Rainy blue [Track by Osurek Bertop] 

09. Sons of Kuragaly feat. TENGG, ARISTO [Track by Osurek Bertop] 

10. secret garden [Track by WATMAN BEGINZ] 

11. Carlito's Way [Track by Osurek Bertop] 

12. 一陽来復 feat. CHOUJI, 唾奇 [Track by Sweet William] 

13. RH- [Track by Osurek Bertop] 

Orion's belt ft. RITTO/CHICO CARLITO Beats by Olive Oil 

CHICO CARLITO/一陽来復 ft.CHOUJI,唾奇 Beats by Sweet William 

C.H.I.C.O./ CHICO CARLITO 

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