RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特な発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。

 この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?

■不良には独自のアンテナがある

ーーDさんは中学生の頃にブレイクダンスを始めたんですよね?

Mummy-D うん。でもきっかけはもう忘れちゃった。マイケル・ジャクソンとか、あと映画「フラッシュダンス」にもブレイクダンスが登場するから、そういうのをテレビで観たんじゃないかな~?

ーー#7ではブレイクダンスをしてた中学の先輩が暴走族だった(https://times.abema.tv/news-article/1715513)と話してくれました。個人的にはかなり衝撃的な組み合わせだったんですが……。

Mummy-D あぁ、確かにそうかも。でも不良には独自のアンテナがあってさ。とにかく理屈じゃないの。

ーーなるほど!

Mummy-D そうそう。ブレイクダンスはバトルだからさ。マイケル・ジャクソン「BAD」のPVの世界を思い出してくれればわかりやすいけど、ナイフを捨てて不良同士がダンスのスタイルを見せ合って戦うわけ。スタイルウォーズだよ。不良はそこにグッときて「俺もやってみてえ」ってなったんだと思うな。

ーー不良というキーワードにハメるとわかりやすいですね。

Mummy-D 結局、暴走族もブレイクダンスも不良文化だから、先輩たちは落差なんか感じず普通に「ヤバくね」って思ってたはず。当時は暴走族が全盛期だったから、ちょっとつっぱってる子にとって族の集会に行くことはステータスだった。同時にそういう人たちがアメリカの不良文化であるヒップホップを聴いてたとしても、実はそんなに違和感はなかったんだよ。

ーー当時はどっちも流行の最先端だった、と。

Mummy-D ブレイクダンスチームが日本各地で結成され始めたのが俺のちょい上の世代でさ。当時の不良はローラーディスコとかスケート場に集まってて、そういうところでは割とヒップホップがかかってたらしいんだよ。不良たちは、新しい音楽であるヒップホップやブレイクダンスの変な動きをそこで知って面白いと感じたんだと思うよ。

ーーDさんはブレイクダンスチームには入らず、我流で練習してたんですか?

Mummy-D 俺のはただの遊び。段ボールを敷いて、その上でクルクル回ったり。先輩方はチームとして原宿のホコ天とかで活動してたけど、それも後から知ったくらい。

ーー先輩たちは学校でも踊ってたんですか?

Mummy-D 学校でも踊ってたと思うけど、主に夜に地元のイトーヨーカドーの前に集まって踊ってた。今の若い子たちも全身が映るガラスがある前でダンスの練習をしてるじゃない? あれの走りみたいな。でもいわゆるダンスやってる雰囲気ではなく、ただのヤンキーが集まってうんこ座りでタバコ吸いながら、集会の話もするしブレイクダンスもするしっていう。

ーーすごい世界観ですね(笑)。

Mummy-D 俺らは塾の帰りとかにそういうのを遠巻きに見てたわけ(笑)。

■宇多さんはいっつもパブリック・エネミーの2nd聴いてた

ーー先日突如発表されたア・トライブ・コールド・クエストの最新アルバム「We Got It From Here…Thank You 4 Your Service」は聴きましたか?

Mummy-D いやまだ聴いてないよ。CDがあんまり売ってなくて。

ーー海外ではCDがデジタルより売れてるみたいですよ。

Mummy-D トライブはおじさんたちが聴くからね。

ーーちなみにDさんはトライブがシーンに登場した時、どう思いましたか?

Mummy-D トライブのデビューって確か90年だよね。俺は当時まだ二十歳で多感な時期だったから彼らが出てきた時のことはハッキリと覚えてる。デ・ラ・ソウル周辺のネイティヴタンという集団はいわゆるマッチョな黒人ではなかったんだよね。彼らはいわゆるヒップホップ初のナード枠だったけど、当時の俺はもっと悪そうな人たちのほうがすきだった。もちろん音源は買ってたけど、ネイティヴタンは俺にはおしゃれすぎて、どちらかというとサブカルな人たちが聴いてる感じだったんだよ。俺は輩チックな人たちとライブをやってたし(笑)。

ーー具体的に誰とライブをしてたんですか?

Mummy-D そこはホレ、察しなさいよ(笑)。とにかく俺はネイティヴタンのジャジーな感じが当時はあまりシックリきてなくて。でも2枚目の「The Low End Theory」はすごいと認めざるを得ないアルバムだったんだよね。とにかくサンプリングセンスがすごかった。あの作品を聴いてから俺もレコードをディグする日々が始まったんだよ。

https://youtu.be/1QWEPdgS3As

ーー宇多丸さんやDJ JINさんも最初の頃のトライブはそこまで好きじゃなかったんですか?

Mummy-D JINはもっとファンキーなのが好きだったと思うけど、宇多さんは割と最初の頃から好きだったはず。だけどあの人は当時とにかくパブリック・エネミーばっかり聴いてた印象があるな。Fineとかでアルバムのレビューとかもしてたし、もともとチェック魔だから本当にいろんな音楽を聴いてるはずなんだけど、ウォークマンにはいっつもパブリックエナミーの2nd「It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back」が入ってた。「また聴いてんのっ!?」って(笑)。

ーーそれは超いい話ですね(笑)。

Mummy-D そう?(笑) 話をトライブに戻すと「The Low End Theory」以降は3人ともすごくハマったな。当時の俺たちは黒人っぽいフィーリングにも憧れたんだけど、ザ・日本人だったから全然できてなくて。あと不良っぽくやることに難しさも感じてた。そんなタイミングであのアルバムを聴いて、「音楽性を高めればナード枠の俺らでも戦える」って思うようになった。俺らの理想とするヒップホップは等身大の日本語ラップだったから。

ーーいろんな試行錯誤があったんですね。

Mummy-D うん。その後にJINが加入して、俺たちはライブパフォーマンスを向上させたかったから、あえて当時すでにオールドスクールだったランDMCみたいなスタイルを取り入れたんだよ。そしたら評価されるようになってきて。当時は「デ・ラ・ソウルとビースティボーイズを足して2で割ったような感じ」とか言われたりもしたんだよ(笑)。そうしていくうちに、「面白いことも歌うけどメッセージ性がある」みたいな、いわゆるRHYMESTER的立ち位置を見つけたんだよね。

■トランプの息子はかわいくない。見た目に騙されちゃダメ

ーートランプが勝っちゃいましたね。

Mummy-D 結果が出た日はさすが凹んだよ。あんなクソ金持ちで醜い差別主義者のツラをこれから4年も見なくちゃいけないのかって。

ーー確かに僕もトランプは嫌いなんですが、就任演説の時に後ろにいた子供はかわいいと思っちゃいました。

Mummy-D いやいやあいつも悪いやつだよ、多分(笑)。だってあんな世界中が注目してるあんな場で寝れんだぜ。どういう神経してんだよって話じゃん。怖いものなんて何もない。大金持ちの息子なんだよ。

ーー見た目のかわいさに騙されちゃダメですね(笑)。

Mummy-D 絶対ダメだよ。

ーー世界はどうなっちゃうんでしょう? 日本の国会もトランプに振り回されてる感じがバンバン出ちゃってますよね。

Mummy-D 「普通、国はアメリカ大統領選の情報を事前に仕入れてるんじゃないの?」っていうね(笑)。選挙結果が出た翌日にリハーサルがあったからRHYMESTERの3人が集まったんだけど「どうするよ、これから」って話し合ったもん。でも結局今はいろんな意見がありすぎて、まだどうなるのか全然わらかないよね。

ーートランプも然りですが、今年はイギリスのEU離脱が国民投票で決まったり、フィリピンでドゥテルテが大統領になったり、極端な変化を求める方向に世の中が動き出した1年でした。

Mummy-D 何でもいいから変わってくれってことなんだろうね。それだけ格差が広がってるってことだよ。

ーーその格差が個人では如何ともしがたいほど拡大しているというのは重々承知しているんですが、とは言え、その変化を他人任せてしまうのは危険だと思うんですよね。

Mummy-D 格差の下のほうにいる人たちはもう他人のことを考える余裕がなくなってきてる。トランプという政治家は格差の下にいる人たちのフラストレーションを刺激する、実現できもしないような人気取り政策ばかり打ち出して、みんなそれに飛びついたわけじゃん。そういうのをポピュリズムっていうんだよ。俺らは最近のアルバムで多様性について歌ってきたわけ。生物界だっていろんな種がいっぱいいることで成り立っているから、人間だっていろんな人がいていいんだっていうさ。だけど、世界がそれとは逆に方向に向かい始めてるってことは、俺たちが綺麗事しか言ってなかったってことかもしれない。そこは今後検証する必要がある。

ーーRHYMESTERとしてもトランプの当選はかなり大きなトピックスだったんですね。

Mummy-D そうだね。次のアルバムはそんなにポリティカルな内容にする予定じゃないけど、俺らにとって大きな話題であったことは間違いないね。だって差別とか嫌じゃん。そういうのがないほうが気持ちいいじゃん。そんなの考えなくてもいいぐらいわかりきったことでしょ。でも世界がそうじゃなくなっていくっていうのは、ポリシーが右だろうが左だろうが、普通は嫌だと思うんだ。俺らはそういう世界に対してどんな言葉を出していけるかっていうが、今後重要になってくると思う。

「ヒップホップは頭が良くないとできない」ライムスターMummy-Dの、POP LIFE手帳 #7
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