RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特な発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。

 この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?

■傍若無人な人たちの自意識

ーー#2の「デリカシーのない人との距離感」の原稿を書いている時、すごい発見があったんですよ。

Mummy-D おお、どうしたの?

ーーDさんが電車の中で「柳原可奈子のモノマネから出てきそうな女子高生」の話をしてましたよね。そこでYouTubeでそのネタを観てみたんです。そしたら自分が今まで何に対して怒っていたかが明確にわかったんですよ。

マネージャーT すごい!!

Mummy-D 聞こうか(笑)。

ーー僕は自意識がなさすぎる人間に対して激烈に怒っていたんですよ。柳原可奈子のネタって「本人は気づいてないけど客観的に見ると滑稽だよね」ってものが多いと思うんです。僕は自意識過剰すぎるから「なぜお前たちは他人の目を気にせずそんなに傍若無人になれるのか!?」と人よりも憤っていたわけです。

Mummy-D それは真理を突いている。自分が何者かを知らない人って最強なんだよ。自分がどう行動するかわかってないから、当然自分らしい話し方もできないわけ。しかもそこに付け入られたくないから、友達が使ってる言葉とか話しぶりをまんま真似するんだよね。そうして女子高生っぽい話し方っていうものが出来上がっていくんだよ。何もないから武装する。彼女たちにとってあの話し方や態度は甲冑なんじゃないかな。

ーーなるほど! でも本当にこの問題に気づけたことが大きかったですね。大人になった気分です。

編集M あなた、来年40でしょ?(笑)

Mummy-D 自己嫌悪に陥りがちな人っているじゃん。多分あなたもそうだし、俺もそうなんだよ。そういう人って自分が嫌いなんじゃなくて、実はもんのすごい自分のことが好きなんだよね。自分のことが好きだから、ダサい自分が許せない。

ーー自分のこと大好きです。

Mummy-D でも、一般的に言われている自分大好き野郎とは違うと思うんだ。

ーー本当に自分が好きだったらナルシストである滑稽さを詳らかにしないと思います。

Mummy-D そうそう。あれはダサいもんね。

■ちょっとだけ親切になろう

ーーおかげさまで最近自意識から解放されて毎日が気楽なんですよ。あんまり周りの目を気にしなくなったというか。

Mummy-D なによりです(笑)。

ーーでもまた1つ新たな悩みが生まれてしまいまして。

編集M めんどくさい人ですね……。

ーー人間ってどこまで利他的であるべきかというか。周りの目を気にしないと、おのずと自分勝手になっていくと思うんです。状況を把握できてないってことだから。「Bitter Sweet & Beautiful」でRHYMESTERが歌ってるのって、まさにそういうことじゃないですか?

Mummy-D ……いい加減、「Bitter Sweet~」に絡めて話するのやめてよ(笑)。利他的っていうのは考えすぎで、俺らがあのアルバムで言いたかったのはシンプルに「ダサいのは嫌だよね」ってことでさ。「自分が良ければ他人はどうでもいいって考え方はダサいじゃん」「そういうのはカッコ悪いからやめようよ」くらいのノリだよね。

マネージャーT たまに道で知らない人とすれ違いざまにぶつかった時に「この人とはもう二度と会わないだろうけど、だからこそ丁寧に接したいけど今はそれを気にしすぎなくてもいいかな…」と思っちゃう時もあります。

ーーその気持ちもわかります! でも僕はその時にこっちが「すいません」と言ったら、次にその人が他人とぶつかるような場面で「すいません」と言ってくれるかな?とか思っちゃうとこもあって。

Mummy-D その考え方はビューティフルだと思うよ。

ーーこっちが下手(したて)に出られないくらい不躾な人間に対しては「ファック」ってなりますけど。

編集M そのへんは相変わらずですね(笑)。

ーーあと中国人旅行者を「爆買い」とか揶揄する風潮があるけど、僕は自分が海外旅行に行った時みんなにすごく優しくしてもらったから、僕も日本に来てくれる外国人には基本的にできるだけフレンドリーに接するようにしてるんです。そしたら、そういう人がもしかしたら自分の国に来た旅行者に優しくしてくれるかも、とか。

Mummy-D それは日本人が持ってるいい面だよね。俺もコンビニとかで店員さんの顔とか見ないでお会計とかする方なんだけど、名札に外国人の名前が書いてあったりすると、なるべく丁寧に受け答えをしたりするもんね。気持ち良く国に帰ってもらいたい(笑)。ちょっとだけだけど。

ーーみんながほんのちょっとだけそういうことを意識すると、マジで世の中は良くなると考えてるんですよね。

Mummy-D ちょっとした親切はお金もかからないし、資源も必要ないからね。それでお互い気持ち良くなれちゃうんだから素晴らしい発明だと思うよ。

■Dさん、「渋谷系」を語る

ーーDさんは早稲田大学でソウルミュージック研究会に所属していましたよね? そこで質問なんですが、Dさんは「渋谷系」という音楽ムーブメントをどのように感じていたのですか?

Mummy-D なんでまた突然?

ーー先日ソウルに詳しい友人が「90年代初頭の『渋谷系』って、実はすごくマイナーなソウルをまんまパクってる曲が結構あるんだ」と教えてくれたんです。でも渋谷系の音楽はいわゆるソウルとは全然違いますよね。いい意味でも悪い意味でも泥臭さがない。でも結果的に「渋谷系」は現在の日本のポップミュージックの基盤になっていると思います。つまりこれって、ソウルやファンクを日本流にローカライズできたということなのかな、と。RHYMESTERは活動初期からずっとヒップホップをローカライズする作業をしてるので、Dさんは「渋谷系」をどんな風に捉えていたのかな?と思いまして。

Mummy-D 「渋谷系」が流行ってた時の俺は大学生だね。あの頃はクラブとかレコード屋さんとか、とにかくしょっちゅう渋谷にいたな。昔はHMVがマルハンパチンコタワーってとこにあったんだよ。というか、そもそも今はマルハンパチンコタワーが閉店しちゃってるんだけど……。で、そこの1階にサテライトスタジオみたくなってる一角があって、その側のコーナーで紹介されている音楽が「渋谷系」だったんだよね。俺らはその「渋谷系」として紹介されていたCOOL SPOONってグループをリリースしているFILE RECORDSってとこに半分お世話になってるような状態だったから、俺自身はど真ん中ではなかったけど“裏”「渋谷系」みたいな気分ではいたかな。

ーーDさんたちはヒップホップどっぷりですよね?

Mummy-D うん。当時は21とかでヒップホップも始めたばかりだったし、とにかく黒人っぽくやりたくて仕方がない時期だったね。しかもあの頃はヒップホップのエッセンスを薄めて、つまりラップだけちょっと取り入れたような音楽がたくさんあったから、俺らにとってはリアルにやることが命題だった。「DA.YO.NE」も「今夜はブギーバック」もまだ出てない、ヒップホップ自体が全然認められてなかった頃だよ。

ーー「渋谷系」はブラックミュージックの影響を受けてますけど、ヒップホップというよりはソウルとかファンクですよね。

Mummy-D ちなみに渋谷系って具体的にどの辺のアーティストになるの?

ーーオリジナル・ラブ、小沢健二、Cornelius、Love Tambourinesとか。

Mummy-D MONDO GROSSOとかもか。そうなると割と身近に感じてたかも。レアグルーヴとかジャズファンクなノリで、すごくカッコいいことをやってるなって思ってたよ。あの頃はそういった音楽をやってる人も、俺らもBrand New Heaviesとかが好きだったんだよ。彼らがラップアルバムを出したりしてたし、実はヒップホップと「渋谷系」の親和性は高かったのかもしれないね。

ーーでは「渋谷系」が現在の日本のポップミュージックの基盤になりえたのはなぜだと思いますか?

Mummy-D やっぱり当時のプレイヤーたちが、自分たちのフィルターを通して音楽をやってたからじゃないかな? 彼らは自分たちが好きなソウルをまんまやるんじゃなくて、日本人に無理のない形で表現したんだよ。ちょっとジャズの要素を入れたりして、歌謡曲の下世話さを中和して。でも繊細な部分はあるっていう。そういう形に変換して表現できた人たちが成功したと思う。その一方で、90年代のいわゆる一般的なチャートではTKサウンドが全盛なわけ。

つまり俺らのヒップホップっていうのは、そのどちらにも属せず、狭間にいた男たちのハートに火を点けた音楽なんだよね(笑)。

■新しい音楽はもはや生まれないのか?

ーーちなみにDさんって新しい音楽についてどう思いますか?

Mummy-D また抽象的な質問を……。

ーー僕は一時期まで音楽を聴く上で最も重視してたのが新しさだったんです。テクノもハウスも、さらに細分化したビートミュージックもいろいろ聴いて、ビートのちょっとした違いに新しさを見出していたんですよ。その実験に胸をわくわくさせてたというか。でもある時から、そこに法則性があるような気がしてきて「これはあれの焼き直しか」とか「これもあれの解釈を変えたものか」とか思うようになっちゃったんです。

Mummy-D 大人は新しいとされているものが出てきた時に、割と「過去のアレが出てきた時と似てる」と言いがちだよね。そうやって自分を無理やり納得させるの。いや納得したつもりになってやり過ごすというか。でもさ、本当にはやり過ごすより新しいものにくらっちゃう方が楽しいわけよ。若者は無知だから、それが素直にできちゃう。

ーーああ~。僕は自分が音楽玄人になったつもりでいたけど、単に保守的なおっさん化してただけだったんですね……。

Mummy-D 大人になるにつれてパッションは減っていくものだから、みんなあまりくらいたがならない(笑)。金がないとか労力がないとか言って誤魔化すんだよ。

編集M あと大人になるとライブに行かなくなったりしてシーンから離れちゃうから、前後関係がわからなくて入りづらいという部分はあるかもしれないですね。

ーーそんな僕でもnever young beachには衝撃を受けましたね。

Mummy-D 現代のはっぴいえんどみたいなバンドだよね? 俺も音源もらって気になってたとこなんだ。

ーーサウンドはハッピーなんだけど、歌詞にSEEDAみたいな殺伐として雰囲気があるんです。彼らはヤバいと思います。ちょっと調べたらすでに5lackと一緒にイベント出たりしてるみたいです。

Mummy-D な~に~?(笑) PUNPEEにしてもそうだけど、あの兄弟は俺がカッコいいと思ってる人たちとすぐに一緒にやっちゃう。俺もRADWIMPS超好きなんだぜ!

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ライムスターMummy-Dの、POP LIFEの手帖「おう。なんでも話すよ!」#2
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