毎週水曜1:00~3:00にAbemaTVで放送されている番組「水曜The NIGHT」のメインパーソナリティとして活躍しているRHYMESTERの宇多丸。2回目のインタビューとなる今回は、5月15日に東京・お台場野外特設会場で開催されるRHYMESTER主宰フェス『RHYMESTER Presents 野外音楽フェスティバル 人間交差点 2016』などについて話を聞いた。テキストから彼の人柄を感じ取ってもらいたい。
■「トイレの数が足りてた」と聞いて本当に嬉しかった
ーー昨年開催されたRHYMESTER主催フェス『人間交差点 2015』では、メンバーの皆さん八面六臂の大活躍でしたね。
去年がフェスの初年度だったからね。でもあんまり覚えてないんですよ、大変だったこと。僕の悪いとこでもあるんだけどね、本当に大変だったことはすぐに忘れちゃう。だから今年も「去年やれたんだからできるっしょ」みたいに考えちゃう(笑)。でも今年は「忙しくてもご飯はちゃんと食べなきゃダメ」とか、ペース配分とかもわかってるから、去年よりももっとうまくやれるんじゃないかな?
ーー去年の『人間交差点 2015』を今振り返ってみて、どんなところが良かったと思いますか?
まずはお客さんにも出演者にも事故なく終えられたことが一番です。あとPUNPEEとサイプレス上野が、自分たちの世代でこういうことをやるにはどうすればいいかってことを真剣に話し合ってるのを目撃したこと。「こういうことできるんだ!?」とか「今はできないけど自分たちが開催するにはどうしたらいいんだろう?」みたいな刺激を、僕らが直接的に与えられたのは本当に良かったことだと思います。
ーーパフォーマンスについてはどうでしょう?
みなさん『人間交差点』のコンセプトを理解してライブしてくれたのは本当に嬉しかったですね。10-FEETなんかは本来出演者でなかったサイプレス上野をバックヤードから無理やりステージに連れてきてフリースタイルをさせたり(笑)。僕らが電池切れになったということを除けば、みなさん本当に最高でした。
ーー僕も去年観客として『人間交差点 2015』に参加しましたが、気楽に楽しめるフェスだったという印象でした。
それは良かった。その感じでフェスとしてうまくいくなら一番いいですよね。僕らとしてもそんな大規模にしたいわけじゃないから。あと僕が聞いて嬉しかったのは、トイレの数が足りてたっぽいってこと。
ーートイレ問題はフェスの風物詩ですからね……。
だよね。僕らはどちらかというと、そういう部分を心配してたんですよ。トイレの数とか、キッズスペースは問題なく機能してたか、とかね。あと去年は天気良すぎたでしょ。当日に「日傘が足りなかったかな」とかすごく焦ったりもしました。でもあまり日傘が多いと開放感の妨げになるし。
ーーそういう意味では、近くにVenusFortがあったのは大きかったと思います。
いつでも避難できるからね。そういうのも含め、気軽に家族で来られるのが都市型フェスの利点だと思う。
ーー今年の『人間交差点 2016』はどんなフェスになりますか?
今はまだ「『人間交差点』とはこういうフェスですよ」っていうのを定着させなきゃいけない段階だから、コンセプト的な部分も去年と同様、わかりやすく“交差点”ですよね。今年も、合間のMCやらフィーチャリングやらで出ずっぱりの予定。あと、ホスピタリティ面も引き続き充実させていく予定。たとえば、メンバー3人のカラーをそれぞれ反映したフードやドリンクを販売したり。
■ベスト・オブ・RHYMESTERみたいなセットリストになる
ーー今回のラインナップではKOHHさんが意外でした。
日本のヒップホップシーンにはいい若手ラッパーがたくさんいるけど、フェス規模のステージを持たせられる人となるとまだそう多くはない気がする。でもKOHHには、僕らとはまったく違うやり方で観客をロックしてくれるだろうという信頼感があったんです。あと単純にKOHHはフェス映えすると思うんです。もっといろんなフェスに出ても良かろうにってのもあって。むしろロックフェスなんかに合いそう。彼ってロックスターみたいなんだよね。でもまあ、選んだ一番の理由は単純に僕らが観たいってとこですね。
ーー去年出演したアーティストは、今年は誰も出演しませんね。
本当は出てもらいたい人がもっといっぱいいるんだよね。けど、当然みんなに出てもらうわけにはいかないわけで。そんな状況なので、今年は僕ら以外はメンバーをすべて変えることにしました。
ーーRHYMESTERはどんなステージを予定していますか?
僕らはトリだし、絶対に盛り上がれるような内容にするつもりです。ベスト・オブ・RHYMESTERみたいなセットリストになるんじゃないかな。ただもちろん新曲はやりますよ。
ーーなるほど。
僕らもいろんな野外フェスに呼ばれるから、その度にセットリストとか仕掛けとかをいろいろ考えるんですよ。でも当日会場に着いてステージの袖からお客さんを観ると「ああ~、もっとシンプルにすれば良かった……」って後悔するんです(笑)。やっぱりお客さんはフェスを楽しみに来てるんだから、こっちは安心して盛り上がれるステージをすべきなんだなって。でも、逆にフェスらしいサービスはちょっと考えてます。
■みんなできることを全部やればいい
ーー宇多丸さんは最近の日本のヒップホップシーンについてどう思いますか?
ヒップホップでも一番コアな部分であるフリースタイルバトルがこんなに受けるとは思わなかったよ(笑)。ただ僕はあの即興のバトルは、日本でヒップホップがブレイクスルーするための一点突破になりうるとずっと思ってたんです。誰が観てもすごいし、なにより面白いから。しかもバトルって必ずしも強面が勝つわけじゃないじゃん? 「フリースタイルダンジョン」にも出てるR-指定なんてそうだよね。見た目は全然B-BOYっぽくも、不良っぽくもないのに、すごく強い。そこがいいよね。
ーーでもフリースタイルで成功したアーティストが作品的に成功できるかというと、必ずしもそうとは言えませんね。
それは日本に限らず、昔から言われてきたハードルではあるんだけど。でも、最近はそれも変わりつつあるんじゃない?
ーー今docomoのTVCMで流れている曲に5lackが参加しているんですよ。それを観て、結局良いものを作ればマスにも届くし、届かないんだったらそこまで良い作品じゃないのかな、と思ったんです。
そうそう。ホントそれ。作品には、内輪にウケるもの、マスにウケるもの、いろいろなフェーズがある。だから、そういうやり方をアーティストが各々で見出していくしかないんだよ。フリースタイルで成功した子もそうで、得たものを作品的キャリアにどうやって結びつけるかは、その人次第で。これはこっちがいくら憂慮しても仕方ないことだよね。
ーーそういう意味では『人間交差点 2015』でPUNPEEさんとサイプレス上野さんが「自分たちでこういうフェスをやるには?」って話し合ってたというのは、すごくいいことですよね。
うん。あとヒップホップシーンにはいろんな人がいるんだから、みんないろんな所に出て行って、できることを全部やればいいんですよ。演技できる人はそういうとこに行けばいいし。「こうでなきゃいけない」やり方なんてないんです。ヒップホップ界にはどの意味においても人材が豊富である、ということを各所で証明し続ければ、結果としてシーンは底上げされると思います。
取材・文 / 宮崎敬太https://abema.tv/