アメリカの大手メディアに疑問を抱くフリージャーナリストたちに迫ったドキュメンタリー映画『すべての政府は嘘をつく』。今月、NHK-BSで放送され、渋谷の映画館・アップリンクで緊急公開されている作品だ。題名はフリージャーナリスト・I.F.ストーンの信念を表した言葉に由来する。
I.F.ストーンはニューヨークポストなどで記者として活動した後、1953年から『週刊I.F.ジャーナル』紙を自費出版、多くのジャーナリストたちに影響を与えた人物として知られている。映画は、そんなI.F.ストーンの信念を受け継ぐジャーナリストたちが主人公だ。
なぜ今、この映画が注目され、日本で公開されたのか。きっかけはトランプ新政権の誕生だ。感情的な訴えが客観的な事実に優先する"ポスト・トゥルース"政治の時代をトランプ氏は巧みに利用した。私たちが普段接しているニュースは、果たして真実を伝えているのだろうか?映画の中でジャーナリストたちはそう投げかけている。
上智大学の音好宏教授(メディア論)は「トランプが大統領になるからといって、アメリカのことが嫌いになった人たちはあまりいないのではないか。それは、トランプを批判する人、賛成する人たちの姿が見えていて、言論の自由があるという認識があるからではないか」と話す。
I.F.ストーンは、ベトナム戦争の1964年の「トンキン湾事件」を徹底検証、アメリカ政府に疑問を呈し続けた。7年後に機密文書が流出したことで、アメリカが参戦するための口実を作る陰謀があったことが明らかになり、これを報じたニューヨーク・タイムズを始め、アメリカのジャーナリズム全体が政権を批判していった。
それに対し、日本はどうだろうか。「多様な意見を提示する状況が本当にあるのか。様々な大手メディアがしがらみの中で発言できない状況があるのではないか。それを打ち破ろうとする力、提示することが大切だ」(音教授)。
さらに音教授は、取材を積み重ね、事実を積み重ねることで真実の報道に一歩近づく。日本に問われているのは、憶測で語るのではなく、事実の積み重ねをしっかりやっているメディアがどれだけあるのかということ、と指摘した。
元NHKワシントン支局長で外交ジャーナリストの手嶋龍一氏も、「(政府側は)本当に重要なことは発表しない、ということがある。つまり、嘘はいっていないけれど、本当のことも言っていない場合がある。そこを掘り下げるような報道は、役所、企業から出る情報だけに頼っている既成の"記者クラブジャーナリズム"では出てこない。日本はそういうところにズボッとはまってしまっている」と話す。さらに「日本とアフリカの一国以外、このような記者クラブはありません。今、そういうメディア環境にいるということは、報じる側も、視聴者・読者も認識しておくべき」と指摘した。
また、手嶋氏は信頼すべきジャーナリストの条件について「結局最後は人間に行き着く。人間が介在する要素が大変薄弱になってきている。勇気をもって直接会って話を聞く。その中で情報を得るということをやっていること」した。
SNSの発達により、マスメディアと個人の発信がフラットになり、誰が発信したものなのか、またそのバックグラウンドは何なのかが気にかけられることなく情報が拡散していく"ポスト・トゥルース"の時代。真実を見極めるために、メディアやジャーナリストが果たす役割は大きい。(AbemaTV/AbemaPrimeより)