昨年5月21日、音楽活動をしていた女子大生・冨田真由さんが、東京・小金井市のライブハウス前で首や背中など20カ所以上をナイフで刺された事件。20日、東京地裁立川支部で初公判が開かれ、殺人未遂などの罪などに問われている岩埼友宏被告が起訴内容を認めた。
冒頭陳述で検察側は「事件の1週間前には、腕時計などのプレゼントを送り返してきたことなどについて、被害者を問いただし、相手にされなければ殺そうと考えた」とし、「事件当日『死ね』などとメモ紙に書いている」として、計画性と強固な殺意があったと指摘した。また、冨田さんの刺し傷が34カ所にも上り「体を丸めるように倒れている冨田さんの首や背中に狙いをつけ多数回刺し、『死ね、死ね、死ね』と繰り返した」と説明した。
107日間にわたる治療の末、一命は取りとめた冨田さんだがが、神経麻痺や視覚障害、PTSDなどの後遺症が残っているという。(関連記事:小金井ストーカー刺傷事件 女子大生が手記に綴った警察への怒り、悲しみ)
岩埼被告のものとみられるTwitterによると、冨田さんにプレゼントを贈ったのは1月。内容は「腕時計をプレゼントする意味を知っていますか?大切に使ってくださいね(絵文字)」といったもので、ここまではファンの行動ともとれる。
それが2月1日には「『腕時計』捨てたり売ったりするくらいなら返して。要らないのなら返して。それは僕の『心』だ。」と投稿、さらに4月28日にはプレゼントが送り返されたことについて「お前それでも人間か」と語気が強くなり、事件の1週間前には、「お前の努力を全部無駄にしてやりたい」と書き込むまでになった。岩埼被告はこの日、折り畳みナイフを購入したという。
弁護側は「計画性はなく突発的。事件当日、被害者に話しかけたが無視されて衝動的に刺してしまった。強固な殺意はなかった」と主張した。岩埼被告も「衝動的に刺した。殺そうとは思わなかった」と殺意を否定した。
■「わかってるけど、やめられない」
SNSの普及もあってか、近年増加しているストーカー被害。
20日には、Twitterで声優・歌手の水樹奈々さんに対し「殺す」などと投稿したとして、滋賀県に住むアルバイト・福島彰浩容疑者(32)が逮捕された。警視庁によると、福島容疑者は水樹さんに「会いたい」などとメールをしていて、「返事がなかったので腹いせでやった」と、容疑を認めているという。
こうしたストーカー行為は、加害者の心の中にどう映っているのか。かつては自身もストーカー行為を繰り返しており、現在は加害者たちの更生活動に取り組む団体「ストーカー・リカバリー・サポート」代表の守屋秀勝氏に話を聞いた。
かつて守屋氏は、ある女性に母親を投影してしまい、通算1000回以上、1日100回以上の執拗なSNSメッセージの送信を繰り返していたという。守屋氏は相手の女性について、「恋愛感情とも似ているが、(自身の)家庭環境に不和があったので、理想の母親像という形で投影してしまった」「"他人は何を考えようと、何をしようと自由である"という認識がなかったこと。そして自分の気持ちを自分で処理しなければいけなかった」と振り返る。
こうした行為の原因は「自分の気持ちを処理できず、相手に処理してもらおうとすること」だとし、相手の「やめてほしい」という言葉も「見捨てられるという恐怖心。虚無感と不安感が増幅してしまって、相手を自分の手中に収めなければ、我慢しきれない状態」と、相手を支配的に考える方向に向かってしまうのだという。
警視庁からの文書警告を受けた守屋氏だが、それでもストーカー行為をやめることができず、自ら治療を望み、ある有名な依存症治療を専門にやっている千葉の病院に足を運んだ。しかしそれでも完治することはなかった。
葛藤の末、守屋氏が出会ったのが「アドラー心理学」だった。「相手は自分を避けたい目的のために後付けの理由をつけたに過ぎない。それに気づいたときに、フッと腑に落ち」、回復することができたという。
「誰にでもなり得る」というストーカー。「"私はあなたのこと嫌いですよ"と発言していても、"猛烈にアタックされたら中にはそこまで言ってくれるんだったらいいじゃない"っていう方もいる。そこまでアタックすることってもはや、ストーカーと紙一重」(守屋氏)。
では、ストーカー行為の被害に遭った場合、どのように応すべきなのか。
守屋氏は「よくやりがちだが、メールや電話などの着信拒否を絶対してはいけない。拒否をすると、相手は逃げ場がなくなってしまい、ますますエスカレートさせてしまう」と指摘、「まず証拠を取ること。そして"私はあなたと一切付き合う気は何もありません"と、明確に意思表示をしたあと、直接の接触はせず第3者を通し、やめてほしいことを伝える」とした。
周りが寝静まった時に悶々と考えて、誰か話を聞いてもらいたい、誰かと話をしたいと思う深夜の時間帯が一番危ないという守屋氏。「気持ち悪いままで、誰かに聞いて欲しかった。とにかく理性でやっちゃいけないのはわかってる。わかってるけど、やめられない」という自身の経験から、仕事と睡眠以外は相談を受け、深夜2時くらいまで電話で話すこともあるという。
回復はあっても完治はあり得ないといわれる「ストーカー」。しかし守屋氏は「きちんと認知の歪みを矯正すれば、私は完治できると思っている」とし、 国をあげて政府も強制的な医学的治療に力を注ぐのではなく、加害者の更生支援の拡充を訴えた。(AbemaTV/AbemaPrimeより)