『チェイサー』『哀しき獣』のナ・ホンジン監督と日本を代表する名優・國村隼がタッグを組み、本国韓国で約700万人の動員を記録した映画『哭声／コクソン』が公開になる。平和な田舎の村＝コクソンを舞台に、村人が自分の家族を残酷に殺害するという事件が続発。國村演じる、得たいの知れない“よそ者”が疑われるが――。このほど来日したナ・ホンジン監督、そして國村隼が映画『哭声／コクソン』についてツーショットで魅力を語った。
Q:本作は、キャラクター造型が秀逸ですよね。國村さん演じる山の中の“よそ者”は最初謎の男ですが、やがて学者、悪魔と見え方が変わっていく。どのように作り上げましたか？
國村：この映画に限らないのですが、僕は自分が立ち上げなくてはいけないキャラクターを、その手触り肌触りまでイメージできるかが大事だと思っているんです。今回の“よそ者”について言うと、外見は人のように見えますが、人ですらないかもしれない。だから、作品全体のトーンのなかでどういう役割をはたしていくか、そういう視点でアプローチもしました。
Q:また、國村さんだけでなく、警官ジョングの娘役の女優さんの演技も凄まじかったですが、どういう演出をすると、あのようなお芝居になるのですか？
監督：この映画が失敗する危険性があるとしたら、その子役だなと思っていました。ただ、反対にいい結果が出るとしたら、それもこの子役のおかげだろうとも思いました。撮影前、韓国の子どもという子どものオーディションを行い、その当時、小学校4～5年生の子をキャスティングしました。その時、あの子は今までの彼女の人生で経験したことがないような身体的なラインを超えるだろうと思いました。力を使う、声を出す、肉体的な苦痛というようなラインのことです。また、心理的、精神的にも子どものラインを超えるだろうとも思いました。善悪や神という宗教的なことについてですね。
だから、あの子と接する時には、ひとりの大人の俳優として接していました。ラインを超え去るために、です。彼女は肉体的なラインを超えるために半年間ほど訓練を行い、心理的なラインを超えるために宗教的な話をたくさんしました。もともと彼女はクリスチャンでしたので、宗教的な救済を得るような話をたくさんしましたね。
Q:ちなみに、國村さんは何かのラインを超えたりはしましたか？ 滝のシーンでは、「たまらず泣き言が出てしまった」など、そうとう過酷な撮影だったそうで。
國村：そういう意味では、すべての経験が初めてに近かったですね。こういうキャラクターを演じることも初めてで、韓国映画も今までは観ているだけで出演は初めてで、何もかも新鮮な経験でした。確かに、肉体的にも非常にハードな現場でした（笑）。そこで一線を越えたかどうかは別として、おそらく今までの映画で一番体力を使ったとは思います。
監督：ほかにあるでしょう（笑）？
國村：いえそんなことはないですよ、絶対に。これが一番です（笑）。
――その一切妥協しない、まったく手を抜かない演出なども韓国映画の魅力だと思いますが、本作に参加されて思うことはありますか？
國村：実は今回の映画に出る前、韓国映画を観る側だった時に僕自身、その力強い感覚や俳優さんたちのモチベーションが高そうな印象を受けていました。いったい撮影現場はどうなっていて、どうしてこういう作品になるんだろうって興味を抱いていた時にオファーをいただいた。今回参加してひとつ思ったことは、システムの違いもあるでしょうけれど、韓国では撮影現場において監督が絶対的な権力を持っている。すべては監督からのみ発信されて、それゆえに監督はすべての責任を負っているわけです。
監督：ああ、それは自重しないといけませんね。絶対的な権力者の立場にいるとしたら、現場について、もう一度考えないといけないです（笑）。
國村：（笑）。本当に、エンターテインメントのヒエラルキーでは、おそらく映画が一番高いでしょうね。だから携わっている人たちは高いプライドとモチベーションを持っていて、お客さんがそれを支えている。第一、5,000万人くらいの人口で1,000万人の映画人口がいるわけですから、映画を愛しているんですよ。だから韓国では面白い映画が生まれると、僕は思っています。
監督：それと観客って、そこまで大事だったのかと、いろいろと考えさせられます（笑）。
Q:國村さんのような日本映画界の名優が、韓国映画というフレームの中で凄まじい演技を披露している映像を観ることは、本当に楽しくて興奮します。今後、日本人の俳優を起用して映画を作る予定や願望はありますか？
監督：『哭声／コクソン』の続編を作らないといけないですね。よそ者についての話を。肝に銘じておきます（笑）。
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