意識もしっかりし、五感や内臓機能は健康なまま、筋肉が徐々に痩せ、力が失われていく病気「ALS=筋萎縮性側索硬化症」。発症原因は不明で、現在も治療法は見つかっておらず、平均寿命は3年から5年と言われる指定難病の1つだ。患者数は世界で42万人、日本には9434人がいるという。治療法の研究支援のため、著名人などが氷水を頭からかぶる映像がネット上で拡散、話題を呼んだ「アイスバケツチャレンジ」でも、認知度が向上した。
日本ALS協会理事の青木良浩さんは、ALSに罹った父親を14年間にわたって介護をした経験を持つ。「父の場合は口の周りの筋肉が衰えていくタイプだった。呼吸筋が衰えて、あと飲み込みができなくなった。手足は動く時期があったので、呼吸器を付けて歩いている時期があった」と振り返る。青木さんによると、「アイスバケツチャレンジ」で集まった寄付で基金を作り、治療薬や研究開発、患者の生活支援に使うことができたと話す。
「車椅子に乗って人前に出ることに父は抵抗があったようで、この発想はすばらしいと思った」と青木さんが話すのが、武藤将胤さん(30)の活動だ。
かつては大手広告代理店で働くバリバリのビジネスマンだった武藤さん。ALSを発症したのはおよそ3年前。現在は同じ境遇の患者を支援、啓発する団体「WITH ALS」の代表を務めている。
「ALSを宣告されたのは仙台の病院。東京に帰ってくる新幹線の中で、自分がALSになったことに意味があるのではないかと感じた。学生の頃から、"社会を明るくアイデアを形に"というテーマで、学生団体、広告会社とやり続け、人生を送ってきた。だったら今やるべきことは、ALSと闘っている方、他の障害と闘っている方の未来を少しでも明るく変えていくアイデアを形にすることが僕にとっての使命だと感じた」。
団体では武藤さん自らALSがどういう病気なのかを訴え、患者たちと触れ合うイベントを行うなど、支援だけでなく、病気を理解してもらう活動を実施。立ち上げた啓発サイト「WITH ALS」では、自身が発症してからの時間が刻々とカウントされている。
「症状は最初は手から来た。徐々に箸が持てなくなったり、ペンが使えなくなったり、最近は足にもきていて、歩行する時に転びやすくなってきている。主治医からも車椅子の導入を考えたほうが良いと言われた」と、手足や喉の筋肉が衰え、歩行や声を出すことができなくなっていく様子を語る武藤さん。
歩行ができなくなるALS患者にとって、車椅子生活は必ず通る道。「車椅子の導入を考えるにあたって、WEBや店頭で数々の車椅子を見たときに正直、前向きに乗りたいと思うものが1台もなかった。障害者用の乗り物という印象が強かったので、抵抗感があった」。
そんな武藤さんが出会ったのが、最先端技術を駆使した車椅子「パーソナルモビリティ WHILL」。従来の車椅子とは一線を画したそのデザインで、2015年のグッドデザイン賞大賞を受賞している。指先を動かすだけで操作ができ、7.5センチメートルまでの段差も越えられる。
「これだったら、どこへでも出かけたい、という印象がすごく強かった。子どもの頃に自転車を買ってもらった時の感覚とすごく近くて、今の僕の生活の、世界の幅を広げてくれる乗り物」。
優れた性能を持つWHILLだが、価格はおよそ100万円と高額だ。介護保険を使えば月に5000円程度でレンタルも可能だが、40歳未満は介護保険適用外だという。そこで武藤さんが思いついたのが、カーシェアと、そのためのクラウドファンディングだった。
「僕自身もそうなのですが、ALSという病気は進行性の極めてスピードも早い病気なので、手で電動の車椅子を操作できる期間は限られている。そういう限定的な期間しか乗れないものなら、なおさら同じ病気と闘っている方、同じ悩みを持っている方の間でシェアしていけたらいいなと思っている」。
武藤さんは「ALSになって良かったと思えることが一つだけある。それは同じ病気、障害を抱えている方の気持ちが痛いほど想像できるようになった。その想像力を得られたのは本当にありがたかった。だからこそ僕は自分ができる形で、同じ障害を抱えた方、仲間の未来が少しでも明るくなるように創造したいし、どんどんアイデアを形にしていくことを精一杯やっていきたい。いつかはこのALSを生き続けて治す日を、僕は絶対に自分でそこまでたどり着きたい」と力を込めた。
ALSについて取材してきた『BuzzFeed JAPAN』副編集長の伊藤大地氏は「すばらしいなと思ったのは、広告プランナーとして働いていた。それで30歳。インターネットをよく知っている。シェアも若者に浸透している文化ですし、クラウドファンディングも新しいこと。自分の環境と新しい環境、インターネットを組み合わせてより良い活動をしている。その頭のやわらかさ、前向きさに心を打たれた」とコメントした。
武藤さんが企画しているクラウドファンディングの期間は今月いっぱい。15日時点で375万円以上が集まり、すでに目標を達成している。上回った額で、頭を支えるヘッドレストなどのオプションにしていく予定だ。カーシェアは5月から開始される。(AbemaTV/AbemaPrime)