■台湾がアジアで最もLGBTフレンドリーな背景
LGBTへの理解がアジアの中でも進んでいると言われる台湾。去年5月に就任した蔡英文総統も自身のFacebook上で「愛の前にはみんな平等です。私は蔡英文です。同性婚合法化を支持します。みんな自由に愛を求め幸せになれます」と、同性婚を支持する姿勢を表明。10月には男性から女性へ性転換した唐鳳氏が、閣僚級ポストである政務委員に就任。台湾初のトランスジェンダー閣僚として話題になった。
去年10月には、およそ8万人が参加したというアジア最大級のLGBTパレードが開催された。
テーマは「愛は性別と年齢を問わない」というもの。 同性で手をつないだり、キスをしたり、そしてLGBTの象徴であるレインボーフラッグを掲げて歩くたくさんの人々。参加者たちは「LGBTの人たちと付き合えば何も違いはないと分かるはず。そうやって偏見をなくせば社会の包容力も強くなると思う」。当事者の保護者らも参加、「彼らには性に対する違った見方がある。私たちがもっと大きな包容力を持つべき」と話す。
まさに今、台湾では同性婚が認められるよう、民法改正が議論されている。同性婚を認めている国や地域は、オランダ、アルゼンチン、アメリカ等、欧米に23カ国あるが、成立すれば台湾はアジアで初めて同性婚が法的に認められることになる。
パレードに参加した男性カップルも「僕たちは結婚適齢期だけど、今は出国して結婚するしかない。でも、台湾での同性婚を強く願っているので、法案が通れば社会の目も変わるはず」と期待を寄せる。
改正案では、婚姻に関する条文のうち「男女」や「父母」などの表現を「双方」、「両親」に変更するというもの。性の区別をなくすことで、自動的に同性婚が合法化される仕組みだ。さらに、結婚できる年齢を男女一律18歳にする修正も盛り込まれる。性による年齢の差をなくすことで、あらゆる人が同じように婚姻制度を利用できるようになる。
ただし、この改正案に対しては、家庭・結婚制度が崩壊するという反対論もあり、大規模デモも行われている。明治大学の鈴木賢教授は法改正の実現可能性について「反対派が焦りなのか、目立ち始めた。特にキリスト教関連の人が声を大にして反対運動を行っている。3月24日に憲法判断がなされることになった。その結果が出てこないと、次のステップに進めない。4月後半か5月頭にならないと次の動きはでてこないのではないか」と話す。
こうした台湾での動きについて鈴木教授は「中国との関係ももちろんある。中国よりも民主的であったり、人権を尊重しているというアイデンティティを大事にしている。LGBTの問題もその延長線上で捉えられている」とした。
台湾では大企業も取り組みを始めている。マクドナルドは「私は男の子が好きです」と書かれたマグカップを持った男性の前に座った父親が「私はあなたが男の子を好きだということを受け入れます」とマグカップに書き微笑む、というCMを制作した。
企業によるこうした取り組みには、LGBTという市場が意外と大きいと知ったことでのイメージアップやLGBTに向けマーケティングなのではないか、という意見もある。女性から男性に性転換、「トランスジェンダー活動家」として活動する杉山文野さんは「ビジネスにならないとカルチャーにならないということも踏まえて、どんどんやっていくべき。しかしやはり快く思わない人がいることも確か」とした。
また、杉山さんは「5年ほど前、フランスのマクドナルドが制作した同様のCMが話題になった。こういった流れがある中で日本では去年マクドナルドが、罰ゲームであるかのように男性同士がキスするというCMを流し、炎上して放送中止になった。そういったところで、とても価値観の違いを感じる」と話した。
■日本のLGBT政策の現状はどうなのか?
先日、衆議院議員会館で、院内集会「レインボー国会」が開催された。開催目的は性別に関し不公平や差別的扱いをなくすこと。LGBTの問題に取り組む団体や有識者らが共同で開催し、杉山さんは司会を務めた。
杉山さんは「ソチ五輪では、ロシアに"反同性愛法"という、同性愛者に対して厳しい法律があった。これは人権侵害以外の何物でもないと世界から非難を浴び、オバマ大統領をはじめとする当時の各国首脳が開会式をボイコットした」と話す。
オリンピック憲章は「性的指向による差別禁止」を明記、開催国はこれに準ずることを求めている。しかし2020年の開催を控えている日本では、いまだにこれに関する法律はない。参加した国会議員からは、社会を変えるためにLGBT差別を解消する法案が必要との声があがった。
杉山さんは、「法律があるからいいということではない。アメリカは法律上同性婚を認めているが、社会的に侮蔑されたり、暴力を振るわれたりといった問題があるからこそ、法律が必要だった。日本では、なんの不自由もなく生活はできていて、少し居辛い程度。だから活動もしにくいし、真綿で首を絞められているよう」と日本特有の事情もあることを説明する。
また、日本のいわゆる"オネエカルチャー"に対しては「すごく面白いし、いろいろなことを伝える手段として大事だと思うが、そこだけが目立ってしまうといけない。みんながみんなオネエ言葉を使うわけではないし、女性の格好をするわけではない。バラエティーのイメージが強すぎる現状はよくない」と話す。
幼稚園から高校まで女子校に通っていたという杉山さんは、幼少時代に自身が"女性"だということに驚き、中学生で性同一性障害に関するニュースを見て、自分が置かれている状況が分かったという。
「カミングアウトした時に、友達に『そうだよね。気づいていたよ』と言われた。友達は変わらず接してくれるので、性転換した今も昔も自分は変わっていない」「結果的には女子校でよかったと思っている。というのは、女子だけのコミュニティなので、男女で分けられることがなかった。学級委員長も、重いものを運ぶのも、女子。だから自分が重いものを運んだり、運動会の実行委員長を出来たりなど、役割があった」。
杉山さんはどのような社会を望んでいるのか。「いま、セクシャルマイノリティに問題を置かれがちだが、問題の比重としてはマジョリティにあると感じる。マジョリティがマイノリティに気づかずに、知らぬ間に傷つけている。しかしこれを偉そうにいうつもりはない。私はセクシャリティに関してはマイノリティだが、他ではマジョリティに属するところも多くある。人は必ず、一個はマイノリティを持っていると思う。つまり、マイノリティを持っていることこそ、マジョリティである。私はこういった活動を続けて、LGBTという切り口から、マイノリティに優しい社会を作りあげ、ひいてはマジョリティに優しい社会にしていきたい」と語った。(AbemaTV/AbemaPrimeより)