少子化が叫ばれる中、一部の私立大学が廃校を決定するなど、高卒者を対象とした教育ビジネスに陰りが見え始めている。そのような状況下において唯一、好調が伝えられているのがアニメ・ゲーム系専門学校の声優コースである。

 ネットを中心に『専門学校の声優コースを出ても声優になれない』『専門学校を出た後、新たに事務所の養成所に行くことになるので二度手間』などといった声が数多く挙がっているにも関わらず、専門学校の声優コースは減るどころか、新たに声優コースを設ける専門学校や、新規に開校する声優系専門学校も増え続けている。

 専門学校の声優コースが順調に入学者を増やしている理由について、都内の声優系専門学校で講師をしている舞台俳優が、匿名で答えてくれた。

「都内だけで声優コースを設置している専門学校は20校ほどあります。新たに声優コースを設置する学校も増え続けているので、もしかしたらもう少し多いかもしれませんが、単純に各校の募集定員を100人とすると、都内だけでも1年間に2000人ほどの声優志望者が専門学校に入学することになります。実際は学校の規模により定員が500人のところもあれば、10人規模のところもありますが、平均するとそのぐらいでしょう

 講師はこう話を続ける。

「この2000人という数字はあくまで都内の専門学校に入学した生徒の数で、高校卒業後に大学に通いながら声優事務所の養成所や、声優系のワークショップなどに通っている人の数も入れれば、3000人……下手をしたら5000人ぐらい、同じ学年で声優を目指している人がいるんじゃないでしょうか? しかも、これは都内だけの話なので、全国で考えたら、1万人近い同学年の人たちが声優を目指して何かしらの活動をしているのではないかと……」

■若者に声優志望が増えている理由

 それだけの志望者がいるのなら、アニメ・ゲーム系の専門学校が声優コースを設置するのも納得だが、なぜそこまで声優を志望する人が増えているのだろうか?

「いろいろな理由があると思うのですが、ひとつは声優が身近な存在になっているからではないでしょうか? 声優のアイドル化が進み、若手の声優がラジオやネット番組でバラエティタレントのような活動をしはじめた結果、声優を身近なものとして感じ『自分も声優になれる』と考える人が増えているような気がします。このあたりはお笑い芸人を目指す人たちの感覚に似ているかもしれません。『学校で面白いと言われたから』『テレビに出ている芸人を見てあのぐらいなら自分にも』といった理由が、そのまま『友達に変わった声だと言われたから』や、『自分でもできそう』といった理由に置き換わります。お笑い芸人の世界を見ても分かるように、そこまで甘い世界じゃないんですけどね……」

 お笑い芸人の世界でも、自身が応援する芸人のファンであることが高じて芸人を目指す人が増えているそうだが、声優を目指す人はどうなのだろうか?

「声優ファンが高じて『好きな声優さんに会うために声優になりたい』という人も増えましたね。先ほど『声優を目指している子は全国に1万人近くいる』とお話させていただきましたが、声優雑誌の発行部数ってどれも2万部ほどらしいんですね。声優雑誌の記者に話を聞いたことがあるのですが、読者アンケートを取ると約50%が『声優になりたい』と回答しているそうなので、声優雑誌の読者層と声優を目指している人の層は大体一致する気がします。ファンであることが悪いことではありませんが、誰々のファンというだけでは、学校の授業について行くことすら難しいのが現実です」

■学校に行けば声優になれるのか

 『学校の授業について行くことが難しい』ということは、逆に学校の授業について行くことさえできれば声優になれる可能性があるということだろうか? 核心を突いてみた。

「正直、授業に出ていれば声優になれると約束することは出来ないのが現実です。こういった職業なので、生まれ持った声質や、骨格や舌の長さといった身体的な要因、最近ですと容姿や人生経験からくるトーク力など、いわゆる”才能”や、どのタイミングでどんな人と出会えるかといった”運”も重要になってきます。もちろん、努力も大事ですし、我々も必要な技術を真剣に教えているつもりです。ネットで『声優系の専門学校は無意味』と書かれていることは知っていますし、声優系の専門学校を卒業した人がネットにそういった内容のことを書き込んでいるという噂も耳にします」

 なんと、声優系専門学校の卒業生がネットに書き込みをすることもあるのだという。

「書き込んでいるのが私の教え子だとしたら、申し訳なく思いますが、一方で専門学校出身の有名声優もたくさんいます。”才能”の話もしましたが、在学中にデビューしたり、事務所への所属が決まったりした生徒は人一倍努力をしていましたし、努力をした上で『どうすればデビューできるのか』を真剣に考え、自分の魅力を最大限に引き出す方法を常に試行錯誤していました。当たり前のことですが、人一倍の努力をした上で”才能”や”運”に恵まれた人は声優になれます」

■声優系専門学校のメリットとデメリット

 最後に声優系専門学校のメリットとデメリットについて、件の講師に聞いてみた。

「メリットという言い方が正しいのかわかりませんが、例えば高校卒業まで演技の経験が全くないという方は、専門学校の声優コースは、選択肢のひとつとして考えてみても良いと思います。『専門学校を出た後、新たに事務所の養成所に行くことになるので二度手間』という声も聞きますが、養成所には入所試験があり、ある程度の基礎力がないと、そもそも養成所に入所できません。学費は決して安いものではありませんし、在学中にデビューや事務所への所属を決めることが一番ではありますが、演技経験がないのなら、卒業後に養成所へ入所することも含めて検討してもらえればと思います。

 ここ数年、声優志望者が増え続けており、定員を増やしたり新たに声優コースを設置したりする専門学校も増えていますが、このまま定員や新たにコースを設置する学校が増え続ければ、いずれ頭打ちになることは目に見えています。そこで、各学校ともに実績を出そうと必死です。スマートフォンのゲームを中心に学校のスタジオを収録に提供する代わりに学生を出演させるなどのタイアップを行ったり、無理矢理にでも学校の”顔”となる卒業生を作り出すために事務所やレコード会社とデビュープロジェクトを組んだり、さまざまな施策を行っている専門学校がほとんどです。在学中に学校のコネクションや講師のコネクションを上手く利用できれば、デビューへの道も近づくと思います。

 声優志望者のメリットとは別に、業界全体にとってのメリットもあります。昨今の若手声優ブームにより、ある程度、年齢を重ねると仕事が激減してしまう瞬間が訪れます。以前は30代でもアイドル的な人気を維持できましたが、今はどんどん若い子が出てきますので、中堅なるとギャラの高騰に伴って仕事が減ってしまうんです。

 このタイミングで廃業される方も増え始めていますが、声優コースの講師という仕事が存在するおかげで、中堅もなんとか食いつなぐことができるんです。講師業をメインにすることには賛否両論あると思いますが、廃業するよりも後進の育成に回ったほうが業界にとってプラスになりますし、声優を続けながら講師をしていれば、中堅が活躍する現場に呼ばれることもあります。このまま、頻繁に業界の若返りが続き、中堅が廃業するだけでは、そもそもベテランという存在が消滅する可能性だってありますからね」

 では、声優を目指す上で専門学校に進むデメリットはあるのか。

「一番は学費の問題でしょう。年間で100万円近くかかるところがほとんどですからね……。100万円近くの学費をいただいていても、前述のように確実に声優になれるとは約束できません。さらに、各校ともに”顔”となる卒業生を例に出して、”好きな声優さんに会うために声優になりたい”という人を勧誘しているところが多いので、どうしてもギャップが生じます。”顔”となるような人は、必死に努力してきた子ばかりですからね。”誰々に会いたい”というように甘い理由で入学した人がそんな努力をできるはずもなく、早々に退学する例も後を絶ちません。

 卒業後の道についてもデメリットというか問題点があって、デビューや事務所への所属が決まったり、大手事務所の養成所への入所が決まったりする人はどうしても一握りです。声優になることをあきらめた人を就職率の母数から外したり、一般企業や他のコースにきたアニメやゲーム系の求人を紹介したり、さまざまな手段で学校側は就職率を上げようとしますが、それも厳しいのが現状です。

 そのような状況下において、私のような舞台系の講師が、自身の劇団に卒業生を誘う例も増えています。声優も舞台役者も同じ役者ではありますし、私自身、演劇の魅力に取り憑かれて舞台役者を続けていますが、はっきり言って舞台だけで食べていくことは不可能に近い状況です。若い頃はお客さんの前で演技ができることや、バイトの合間を縫って仲間たちと稽古ができる楽しさだけで走り続けてきましたが、チケットのノルマはキツイし、いつまで舞台役者を続けていても、成功の道が見えない点も事実です。

 そんな演劇の世界に、悪い言い方をすれば、チケットノルマの養分となるような学生を安易に誘うのはどうかと思います。学校は劇団への所属も就職とカウントするので、学校からは感謝されますし、誘った講師にその感覚はなくてもチケットノルマを課す対象が増え、それでいて指導という名の下にこき使える新人を確保できる……。私がこんなことを言うのも何ですが、声優になりたくて専門学校に来た人に『舞台で演技の基礎を学ばないと声優になれない』といったような話をして、自身の劇団に誘う講師はいかがなものかと思うんです」

 出演者の若年齢層化に伴い、ファンにとってより身近な存在になった声優。志望者が増え続ける中、アニメ・ゲーム系専門学校の声優コースに進学するなら、現状を的確に把握しつつ、卒業後の進路も想定して学ぶ必要があるようだ。


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