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■火力訓練は「一番安上がりな方法」

 世界各国が北朝鮮の動きに注目した25日。核実験やミサイル発射は行われず、ひとまず"Xデー"は回避されたかに見える。しかし韓国メディアによると、北朝鮮は金正恩委員長の立ち会いのもと、日本海側の元山付近で「史上最大規模の砲撃訓練」を行ったという。

 元韓国国防部の北朝鮮分析官だった高永喆氏は「戦車をはじめとする122ミリ、152ミリ、300ミリの多連装ロケット砲を海に向けて一斉射撃する訓練。歩兵部隊も総動員された。本来であれば核実験のつもりだったが、中国の圧力、そして韓国の大統領選挙もあるので、代わりに砲撃訓練を行なった。控えめな対応だと思う」と分析する。

 また、韓国・北朝鮮情勢に詳しい朴斗鎮・コリア国際研究所所長は「何かやらないとプライドが傷つく、という金正恩らしいやり方だと思う。むしろ、何もしなかった場合の方が、意図がわからないという点で怖かった。まだ映像が出ていないので実態はわからないが、石油が不足していることもあるので、火薬だけで済ませられる、一番安上がりな方法でもある」と説明した。

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■原潜を目立つように入港させたアメリカ

 オバマ政権時代のスタンス「戦略的忍耐」を否定、軍事的圧力を強めるアメリカは韓国との合同軍事演習を実施中で、シリア攻撃にも使われた巡航ミサイル「トマホーク」を搭載したアメリカ海軍の原子力潜水艦「ミシガン」が釜山港に入港した。また、アメリカ国防総省は原子力空母「カール・ビンソン」は北上しながら海上自衛隊との2日間にわたる共同訓練を実施した明らかにしたほか、有事の場合には沖縄のアメリカ軍の投入が可能だ、との認識も示した。

 中国の軍事情勢に精通している小原凡司・東京財団研究員は「未確認だが、ミシガンがNavy SEALSなどの特殊部隊を上陸させるための特殊な装置を積んでいるようにも見える」と指摘。上智大学の前嶋和弘教授は「完全に情報戦。潜水艦なので潜らせておけばいいものの、わざと目立つように入港させたのはPR」とする一方、「妥協点が非常に難しいところ。核放棄ではなく"とりあえずこれ以上の開発はやめておけ"という落とし所にしておくのか、そうでないのか。後者の場合、本当に核を放棄させることができるのだろうか」と、アメリカが置かれる苦しい立場を解説した。

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■中国からの働きかけが効いたのではないか

 今回、北朝鮮が核実験やミサイル発射に踏み切らなかった背景には、そんなアメリカからの要請を受けた中国の制裁が効果を挙げたとみるべきなのだろうか。

 小原氏は「中国からの働きかけは効いたと思う。ただ、これは時間稼ぎに過ぎず、最終的には核兵器を手放すかどうかで初めてわかること。また頃合いを見て、開発や実験を始めるのではないか」と指摘。「中国は北朝鮮に対し、改革開放して豊かになれば、新たに交渉力ができてくるんだと言っている。しかし北朝鮮はアメリカや中国と対等に渡り合うことはできないだろうと考える。そうなると、やはりツールは核兵器しかないということになり、放棄は難しいのではないか」とした。

 読売新聞は25日に中国軍など複数の関係筋の話として、朝鮮半島の有事を想定し中朝国境で警戒レベルを高め、10万人規模の兵力を展開しているとの情報があると報じている。「中朝国境上には朝鮮族も多く、そこでの動きに対しては常に警戒している。北朝鮮からの避難民が入り込んで、臨時の政権などを作るといったことは中国にとって受け入れられない」(小原氏)。

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■12万人の特殊部隊は日本にとって脅威

 北朝鮮から「日本列島が沈没しても後悔するな」と挑発を受けた日本は、迎撃ミサイル・PAC3を16カ所に配備。日本海にはイージス艦を展開した。岸田外務大臣は「国民の生命財産を守るべく、高度な警戒監視体制を維持し、いかなる事態にも対応できるよう万全の体制をとっていく」と述べた。

 また、25日午前には日米韓3カ国は実務者レベルの協議を行い、さらなる挑発行為が行われた場合「断固たる措置を取っていく」という方針を確認。防衛省は海上自衛隊のイージス艦とアメリカ海軍のイージス艦が日本海で北朝鮮からのミサイルを迎撃するための共同訓練を行ったことを明らかにしている。さらに政府関係者によると、米空母「カール・ビンソン」と海上自衛隊が沖縄の海域で行った共同訓練を今後、日本海でも実施する方向で検討しているという。

 政府関係者が緊張感に包まれる中、渋谷の街を行く若者たちは「授業に出ていた。自分に出来ることはないので普段と同じように過ごした」(21歳 大学生)、「出張で仕事をしていた。危機感は多少あるが、リラックスしていた」(23歳 アパレル関係)、「口だけかなと思って。実際はないんじゃないかと」 (21歳 動物病院勤務)、「午前中は学校を休んだ。家にいた」(19歳 大学生)と、落ち着いた反応を見せていた。

 小原氏は「日本の圧力のかけ方は軍事力ではなく外交努力。安倍首相がトランプ大統領の問題意識の優先順位を変え、優先課題ではなかった北朝鮮問題のプライオリティを上げた。もし日米首脳会談で安倍首相が何も言わなければ、トランプ大統領は何もしていなかったかもしれない」と指摘。その一方、「潜伏、破壊工作を行う、12万人にも上る北朝鮮の特殊部隊には警戒しなければならない。日本の原子力発電所は狙いやすいなどと教育されている」と警鐘を鳴らす。

 朴氏は「メディアが北朝鮮の見せたい映像ばかり見せるので恐怖感が増幅する。もっと北朝鮮の社会構造や国民の意識の変化、軍備などについても分析して提示すべきだ」と苦言を呈した。

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■ロシアが影響力を発揮したということはない

 今回の北朝鮮問題で、日米中韓の四カ国は歩調を合せているように見える。六カ国協議を構成するもう一つの国、ロシアの動きはどうなったのだろうか。

 イギリス紙「デイリー・メール」は、ロシア軍が北朝鮮との国境地帯に向けて部隊を派遣していると動画も載せて報じた。ロシア政治が専門の中村逸郎氏は「実は中国とロシアの間でも非常に緊張が高まってきていることがここにきて明らかになった」とコメント。ロシアメディアはこの報道を否定しているが、中村氏は「(ロシアは)アサド政権という正式な政府から要請を受けてシリアの中に入っていった。今回も同じように金正恩委員長から正式に入ってくれという要請があったというロジックを使う可能性はある」と話す。

 ロシアの政治・軍事が専門の小泉悠・未来工学研究所研究員は「北朝鮮がロシアにとって重要な友好国の一つであることは間違いないが、もともと旧ソ連時代からそれほど影響力はなく、ソ連崩壊以後は関係がさらに希薄になっている。今回の問題で、ロシアが影響力を発揮したということはない」との見方を示した。

 ただ、ロシアが北朝鮮との経済関係を維持しつづけようとする理由については「中国と同じく、アメリカとの緩衝地帯として北朝鮮にいてほしいから。ただ、核を持つことはロシアにとってもさすがに都合が悪いので、なんとか現状維持をしたい、というのが考えだと思う」と推測。「ただ、東アジアで安全保障問題以外に存在感を示すものがないロシアは六カ国協議には積極的だ。ロシアが常に席を持てるような安全保障の枠組みが東アジアにあればいいという考え」とした。

 安倍首相は月末にロシアを訪問、プーチン大統領と首脳会談に臨む予定だ。北朝鮮問題の打開に向け、日本がロシアに働きかけを行うことはできるのだろうか。

 これについて小泉氏は「ロシアにとっては中国の存在が非常に大きい。安全保障問題を天秤にかけた場合、中国との関係を損ねてまで日本のためにしてくれることはない。ロシアを通じて何かをするのは望み薄だ」との見方を示した。

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■韓国大統領選の行方も重要な要素

 今後、北朝鮮の核・ミサイル開発を止めるためにできることは何だろうか。前嶋氏は「核放棄が無理なら開発を止めさせて各国間で管理という方向性もあるが、"今度は違う"という姿勢を見せなければならない」と指摘する。

 朴氏は「経済制裁が効いていることは間違いない。北朝鮮の経済構造はいびつになってきている。ソ連崩壊の時と非常に似てきている」と指摘、小原氏は「資金源を止めるというのは難しいが、国内の疲弊に指導者がどれくらい耐えられるか」と話す。

 これまで、打開策として「斬首作戦」や「亡命」など、金正恩氏の排除による体制変更が取り沙汰されてきた。

 朴氏は「米中は、"核を持った北朝鮮はだめ"、ということでは合意していると思う。金正恩政権がある限り核がある。核がある限り金正恩政権がある。これをセットで無くす方法として、米中が水面下で話し合っている可能性がある」と話す。

 小原氏も「米中ともに軍事的な行動を取った場合のリスクや不確実性は認識しているので、金正恩氏を別の手段で変える、いわば勝手に変わってくれるのが一番いい。アメリカは中東でそういうことをやってきた。中国も、金正恩氏の周囲にどういう人がいて、国内にどういった不安があるか、といったことは良く知っているはずだ。亡命も含め、中国主導の体制変更、という可能性はありうる」との認識を示した。

 また、来月9日に予定されている韓国大統領も不安予想だという。 朴氏は「今回、アメリカ、日本、中国の連携はスムーズに言ったが、韓国で北朝鮮寄りの政権が出来た場合、ここに不透明性が出てくる」と指摘した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)

AbemaPrime 北朝鮮"Xデー"緊迫の1日!!各国の思惑を緊急討論 | AbemaTV
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