フリースタイルダンジョン」(以下「ダンジョン」)の審査員として、番組開始当初からバトルに的確なジャッジを与えてきたラッパーのKEN THE 390。

リリース・アーティストとしてもT-PABLOWやCHICO CARLITOなどバトル・シーンでも活躍するアーティストとのコラボ曲の制作や、自身が主宰するイベント「超ライヴへの道」と「戦極MC BATTLE」をコラボさせたバトル・イベントを開催するなど、多岐にわたる活動を見せる彼に、ダンジョンのバトルを改めて解説してもらうこの企画。

今回はその導入として、彼のバトル・ヒストリーについて、話を伺った。彼が審査員席に座ることになるまでのキャリアとは。

■Twitterで「KENさんラップするんすね!」みたいなのはありましたよ(笑)


―― 昨年の大晦日に放送された「AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」では、審査員ではなくバトルMCとして番組に登場されましたね。

今年の0時から始まった『Abema HIPHOPチャンネル』の開設イベントにも呼んで頂いてたんで、大晦日はAbemaのスタジオにいたんですね。それで僕がスタジオ入りした時にちょうど、僕とEroneくんのバトルが放送されてるタイミングで、それを先にスタジオに入ってたみんなが見てたんですよ。だから『ヤベえ!』と思ってすぐ楽屋に行きましたね(笑)

――(笑)。

負けた試合だったから、それをみんなで一緒に見るなんて出来ないですよ、『ああ、この後負けるんだけどな……』って思いながら(笑)。気を使われても微妙だから、ほとぼりが冷めるぐらいを見計らって、スタジオに入りましたね(笑)。

――スピンオフ企画とは言え、『ダンジョン』に出た感触はいかがでしたか?

思ったより『普通のバトル』でしたね。

――現場のバトルと変わりませんか?

はい。ルールやシステムも他のバトルと近いから、『戦極MC BATTLE』に出たりする時と手応えは近かったですね。でも、お客さんに360度囲まれた状態でバトルはちょっと不思議な感じでしたね。普通のバトルは客席側の一方向からの反応だけど、ダンジョンは後ろからも前からも見られてるから、見えない所からも歓声が飛んでくる。それは相手も自分も両方だと思うけど、それにちょっと戸惑いましたね。

特に僕はスタイル的に相手に言われた事に対してどう返すかを考えるタイプなんで、相手の言葉に集中したいんですよ。だから、思いもよらない場所から反応があったりすると、ちょっと気が逸れそうになったり。あと、勝負がついた後に、審査員からの解説が入るじゃないですか。あの時間が結構キツい。負けたからかも知れないけど(笑)。

バトルって、普通は勝敗がついたらMCはすぐに舞台からハケるし、負けたら誰にも会わずに帰りたいぐらいなんですよね。でも『ダンジョン』は終わってもステージに残って、勝ち負けの理由を結構な時間をとって説明されるから、あれは結構心にくるな、と。

やってる方にしたら公開ダメ出しですよ。だから、今後はその気持ちも考えてコメントしようと思いました(笑)

――「口迫」は奇しくもERONEさんとの審査員同士というバトルでした。

番組的には審査員席で隣り合ってるけど、ライヴの現場も一緒になるし、バトルでも戦った事があるから、そんなに『審査員同士の対決!』って感じでも無かったですね。でも、やっぱりERONEくんは強かった。自分のスタイルを持ってるし、僕もそれが分かってるから余計な対策をしないで、自分もいつものスタイルでぶつかっていった感じでした

――お互いに「スタイル・ウォーズ」が出来るというか・・・

そうですね。だから小細工無く、集中して戦えましたね

――ただ「ダンジョン」のみを見てる視聴者の中には、KENさんがバトルをするのを初めて見た人もいるかと思いますが、その反響は?

Twitterで『KENさんラップするんすね!』みたいなのはありましたよ(笑)。でも『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』や『ダンジョン』以降で、お客さんはめっちゃ入れ替わってるし、3年前の事はみんな知らないだろうなって心持ちで普段からいます。

だって、いま高校2年でラップ聴き始めた子からしたら、3年前って中2とか中1じゃないですか。それは3年前の事は知らないのも当然だから。いま19歳のぼくのりりっくのぼうよみ君に、『中高生の時、KENさんのラップを聴いて練習してたんです』って言われて、『何の曲?』って聞いたら『“CHASE”です!』って言われて、リリースは2013年だから、それも当然だよなって。でも、俺からしたらかなり新譜の感じなんだけど(笑)

――じゃあ、KEN THE 390が「キラーMC」として名を馳せてた事を知らない人も多いのかもしれませんね。

そうだと思いますよ、というか『キラーMC期』がスゴく長かった訳じゃないから(笑)

■漢くんがMCバトル・シーンに与えた功績がスゴくデカい。漢くんがバトルのスタイル・チェンジをした


――その意味でもKENさんの「MCバトル史」を紐解いてみたいんですが、最初にMCバトルを意識したのはいつでしょうか?

やっぱり『B-BOY PARK』のMCバトルですね。漢(a.k.a GAMI)くんが優勝した2002年の『B-BOY PARK』の時に、当時僕と一緒にラップをしてた志人(降神)が出場してて、ベスト4まで上がったんですね。そしたら僕らがやってたイベントに、全然知らないお客さんが来るようになって。

今までは友達しかいなかったから、普通に『お客さん』が5人も10人もくるっていう異常事態が起きて(笑)、バトルで勝つと注目されるんだ、って事が実感として分かったんですよね。それで志人はもちろん、大学の同じサークルだったTARO SOULやDEJIと一緒にバトルの練習をするようになって

――今みたいにSNSでイベントの告知をするような時代でもないから、バトルで名を上げる事による宣伝効果はスゴく大きかったと。

ライヴに人が来て欲しい、音源も作りたい、って思ってたけど、どうして良いか分からない状況だったんですよ

――「DTMで宅録してフリーダウンロード」なんて考えられない時代だから、先輩に顔を繋ぐとか、どこかのクルーに入るぐらいしか、ヒップホップ・シーンではリリースに辿り着く方法が無かったですからね。

そんな中で『バトルに出ると注目される可能性があるみたいだ』って事が分かったから、光が指した感じでしたね。そこでバトルやフリースタイルを超練習し初めて。並行して、DEJI経由でラッパーのMETEORにも会って、ダースレイダーが主宰するレーベル:Da.Me.Records(以下ダメレコ)につながっていくメンバーとも関係が出来ていったんですよね。

――「B-BOY PARK」のバトルは、99年から01年までKREVAさんが3連覇するという事がありましたが、その段階ではそんなに注目はしていなかったんでしょうか?

見てはいたんですけど、年上の人達が多かったので、自分がバトルに出るっていうよりは、オーディエンスとして見に行ってた感じですね。あと、僕らの世代的な所で言うと、僕の2歳上の漢くんがMCバトル・シーンに与えた功績がスゴくデカいんですよ。漢くんがバトルのスタイル・チェンジをしたと思う。

――具体的に説明していただけますか?

「当初の『B-BOY PARK』のバトルは、基本的にはマイクを交互に回しあっていくんじゃなくて、お互いの持ち時間に『フリースタイルで技を見せ合う』っていう、例えればダンス・バトルみたいな方式だったんですよね」

――「何小節」じゃなくて時間制でしたよね。だから何分間か1人でフリースタイルして、終わったら交代して、それで終わりでした。

だけど漢くんのスタイルは、もっと会話だったりコミュニケーションするような方向性だったんですよね。だから相手の言葉に返したり、サイファーの延長ともいえる方法論だったし、その後に漢くんやMSCの人たちが始めたイベント『お黙り!RAP道場』は、マイクを交互に回していって結着をつける形だった。今はそれが普通のバトル・スタイルだけど、当時はそれがスゴく新しかったし、それならやってみたいと思ったんですよね。

■「バトルだから何を言ってもいい」にはならない。終わった後にちゃんと説明出来る事じゃないと、バトルとはいえ、ラップには乗せなかった


――そこにバトルの転換点があり、KENさんもそこに参入するキッカケになったと。

だから『B-BOY PARK』と『お黙り!RAP道場』(とそこから進化した『ULTIMATE MC BATTLE』)は同じMCバトルって言われるけど、形式が全く違ったし、出場する側、ラップする側の感覚も全く違ったんですよね。まずアドレナリンの出方が違う。

技見せだったら自分の書いてきた事をそのまま言っても悪くはないけど、会話型のバトルだとそれは意味をなさないし、相手の言ったことにどう返していくかっていう、もう一段階上の脳の使い方をするんですよね。それがスゴく刺激的だった。それから、もう一つ大きかったイベントは『SSWS』。

――「新宿スポークンワーズスラム」。ラッパーだけじゃなくて、詩人や漫談だったり、「言葉」で表現する人は誰でも出れるイベントですね。

そこには俺やダメレコのメンツも出場してたんですけど、そこで求められる能力って、ラップの上手さじゃなくて、『いかに<おっぴろげ>られるか』『自分の事をどれだけ語れるか』だったんですよね。

――ジャンルが幅広いからこそ、評価の基準が「その人のありかた」になるというか。

どれだけ自分を解放して、その上でフリースタイルで言葉が出せるかの勝負だったんですよね。だから、その経験によって、いかに人前でさらけ出せるか、自分の考え方や思ってる事を、恥ずかしいぐらいエモーションを込められるか、っていう経験値を積めたことはスゴく大きかった。そこで訓練を積むと、MCバトルに出ても、エモーショナルな、感情的なラップが出来るようになるから、ただ韻が踏めるだけ、フロウが上手いだけの奴より、圧倒的に言葉に説得力が生まれるんですよね。

そうなると、今までとは比較にならないぐらい、自分の言葉やバトル・スキルが磨かれるようになって。自分としても、フリースタイルで、即興で、その場の熱量に反応して、自分の言葉を出す事にスゴく面白みを感じたんで、積極的にバトルに出るようになりましたね。

――当時はキラーMCとして名前が高かったですね。

一時、マジで勝ちまくってた時がありますからね(笑)。本当に負ける気しなかった。俺だけ使ってる武器が全然違うっていうか、ナタで向かってくる相手に機関銃を向ける感じで(笑)、それぐらいビジョンが違ったんですよね。ダメレコや韻踏合組合、MSCの連中は、みんなそういう最新の武器を使ってたから、そこら辺の旧式の武器で戦うやつには負けない感じになってましたね。

――だから、当時のバトルはMSCとダメレコがバチバチにやりあってた印象がありました。

ほぼどちらかのメンバーが優勝する感じでしたからね。でも過酷は過酷でしたよ。イベントの最後にやるオープン・マイクも今みたいに平和じゃなくて、絶対バトルになってたし。普通に観客として見てただけなのに、舞台上から『いるんだろ!出てこいよ!』とか呼び出されたり、ジャッジもないから延々みんなで戦う事になって(笑)

――フリースタイル地獄ですね(笑)

完全に地獄(笑)。お客さんも盛り上がるから抜けられないし。だから、敵対してた訳ではないけど、今ほどバトルがスポーティな状況でもないから、当然MSCとは距離があったし、仲良く喋ったりはして無かった。特にダメレコみたいな、ナードまで行かないけど、ちょっと文系寄りの連中からすると、MSC勢は接したことが無い系の人たちだったから(笑)

――当時のMSCは超ハードコアだったですからね。一方ダメレコは良い意味で大学のサークルノリだったから、その温度はかなり違って。

でも、だからこそ一歩でも引いたら、このままずっと引かなきゃいけないと思ったし、行くしか無い!って感じでしたね。バトルが加熱しすぎて、最悪ぶん殴られても・・・そんな事する人たちじゃないんだけど、ここで尻尾巻いたら俺らは一生日陰で生きなきゃいけん、みたいな意気込みで

――急に広島弁が出るような、そんな仁義なき戦いモードだったんですね(笑)。

本当に腹を括って戦うしか無い感じでしたよ。でも、だからこそ『バトルだから何を言ってもいい』にはならなかったんですよね。そうやってガチで戦ってるからこそ、終わった後にちゃんと説明出来る事じゃないと、バトルとはいえ、ラップには乗せなかった。

――ステージを降りても言えることじゃないと、バトルでも言うべきではない、と。それは漢さんも同じことを言ってますね。

同じような状況にいたから、その意識は共有してると思う。それに本当に現場が怖かったですからね。声援が『あいつ殺せ!』とかですからね(笑)

――それぐらい殺伐としてましたね。輩も多かったですし。

当時は『MCバトル』とい形式が浸透してないし、取り巻きや仲間がいっぱい会場に来てたから、MC同士はバトルだって事が分かってるんだけど、取り巻きは『俺の仲間に滅茶苦茶言いやがって!』になるんですよね。だから、ディスるんならぐうの音も出ないほど徹底的にするし、中途半端に口先だけのディスはしなかったですよね。そっちの方が危ないから。相手が危なすぎてディスらないとかありましたもん、バトルなのに(笑)。

リアルに身の危険を感じる時があったし、ハード目のバトルで優勝したら、はなび(註:ダメレコに所属していたMC。元プロボクサーの経歴を持ち、KEN、EI-ONEと共にユニット:りんごも結成していた。「ダンジョン」にも登場)が『KENちゃん、俺の後ろから離れないで』ってボディ・ガードしてくれて、さっさと帰るっていう。

――今はあんまり聞かないですね、そんな状況(笑)

勝ったのに余韻に浸る間もなく、危ないから帰るっていう(笑)。勿論そういうハードなバトルだけじゃなくて、面白いバトルもいっぱいありましたけどね。ダメレコ主宰の「3on3」でMETEORと戦った時は、当時電車の置石の事件があったんですけど、METEORが『あの犯人は俺だ~!!』とか訳わかんない事言いだして、その上ワイヤードのマイクを持ったまま服を脱ぎだして、コードに服が絡まっちゃって上手く脱げなくて悶絶してるっていう行動に出て、それが面白すぎてラップできなくなったり。そういう『天才肌』と『ひどい奴』が紙一重な奴が少なくなりましたね。もっと温かい目で楽しめる人が欲しい(笑)

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