
■カンヌ映画祭とNetflixが"火花”
世界3大映画祭のひとつ、フランスのカンヌ国際映画祭が現地時間17日から始まった。AFP通信によると、今年はアメリカの動画配信大手「Netflix」によるオリジナル2作品がコンペティション部門へ出品された。
しかし、「2作品をストリーミング配信するだけでなく、フランス国内の映画館でも上映するように」との要請をNetflixが拒否。このため主催者側は10日「来年からカンヌ映画祭に出品を希望する作品はすべてフランスの映画館で上映されなければならない」という新ルールを定め、従わないNetflix作品の出品を認めないとする厳しい声明を発表した。
対するNetflixのリード・ヘイスティングスCEOはFacebook上で「映画館チェーンがカンヌ映画祭での上映を阻止しようとするほど素晴らしい映画だ」と皮肉の効いた投稿を行うなどの反撃を行っている。
カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の出品規定は、「映画祭より12カ月以内に製作」、「製作国以外で上映されていない」、「ほかの国際映画祭で紹介なし」、「インターネット配信されていない」と定められている。

アメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏は、こうしたカンヌ映画祭のスタンスについて「劇場を守る為」と説明する。
「カンヌ映画祭は、もともとフランスの文化を守ることを最大の目的として始まったもの。フランス国内の市場や産業を守るために、Netflixというアメリカ企業の"侵略"を拒むことは正当だろう。」(町山氏)。

実際、フランスには劇場の組合を守るため、映画公開後、DVD化までは3カ月・Netflixなどの定額ビデオ配信までは36カ月の期間を空けなければならないという厳しい規制もある。また、書店を守るため、オンライン書店が値引きした書籍を無料配送することを禁じる という「反Amazon法」も制定した。

「欧州各地で展開するフランスのCanal Plusという大きなケーブルテレビ局は、映画産業にも出資し、劇場を支えてきたドイツやイギリスにも、アメリカ映画に企業が自国の出資してはいけないという法律がある。ヨーロッパは、Netflixだけではなく、小売業をどんどん潰していっているAmazonとも戦っている」(町山氏)。
■"日本の映画会社やテレビ局が出資を断った"作品をNetflixが製作中?
「近年、アメリカ映画は家族みんなで楽しめるような作品が多くなってきた。ウディ・アレンやデビッド・リンチなど、大人向けの作品を作ってきた人たちが、それこそCanal Plusなどのフランス資本で映画を撮っている。Netflixとしても、カンヌで賞を取ることによってヨーロッパ市場に食い込もうという狙いがあったのでは」。そう町山氏が指摘するように、Netflixの脅威に曝されているのは、本国アメリカの映画産業も同様だ。

米アカデミー賞のノミネート条件は「LA郡内の映画館で公開」、「連続7日以上の公開」、「有料での公開」、「作品は40分以上」、「劇場公開前に、TVやネット、ビデオ販売などで公開されていない」と定められている。つまり、一度は劇場で公開されていることが条件なのだ。
「映画の場合、入場料の半分は劇場が持っていき、テレビの場合はスポンサーからしかお金が入らない。一方、ストリーミング配信の場合、見る人が払ったお金が直接制作者に届くため、従来では観客動員が難しく製作費が確保できないような作品の制作も可能になる。クリエイターにとっても、映画には自主規制制度があり、認可制のテレビにも倫理規定や政治的主張に対するハードルもある。それに対し、Netflixの作品では過激な性描写が問題になっているくらい。"やっと大人向けの映画を作れる"と、デヴィッド・フィンチャーなどの監督も制作に参加してきている」(町山氏)。

会員数の伸長と、莫大な月額料金の収入を背景にしたNetflixの規模はもはやハリウッドに引けを取らない。2017年にNetflixがオリジナル作品投入した製作費は、なんと1200億円といわれている。日本の映画業界全体の興行収入が年間約2000億円ということからも、その大きさがわかる。

日本のコンテンツ産業にとっても、Netflixの影響は避けられないはずだ。
町山氏は水面下でNetflixのプロジェクトが動いていると明かし、「日本で今、ある監督を起用して大型ドラマを作ろうとしている。内容が性と大量殺人などの暴力的なの内容なので、日本の映画会社やテレビ局は全て出資を断った」と含みをもたせた。(AbemaTV/AbemaPrimeより)




