問題がクローズアップされることになったのは、民進党が入手したある文書によってだった。文部科学省の職員が作成したものも言われており、「これは官邸の最高レベルが言っている事」「これは総理のご意向だと聞いている」といった文言が並んでいる。
17日、菅官房長官は「『官邸の最高レベルが言っている』だとか『総理のご意向だと聞いている』というようなことは全くなく、総理からも一切指示はない」と反論、19日には松野文部科学大臣も「共有ファイル等の中に該当する文書の存在は確認できなかった」と語るなど、野党側と真っ向から対立している。
また、学園の加計孝太郎理事長が安倍総理の学生時代からの友人であるということも、問題視されている理由の一つだ。二人はゴルフや会食を数か月おきにする仲で、2015年のクリスマスイブも一緒に過ごしていたという。
今年3月の衆議院予算委員会では、社民党・福島瑞穂議員からの「政策が歪められているんじゃないですか」との質問に安倍総理は「彼から頼まれていないので働きかけてもいません。もし、働きかけているという確証があれば責任を取りますよ」と答弁していた。
■地元では騒動に困惑の声も
獣医学部の新設予定地である愛媛県今治市の生産年齢人口(15~64歳)は、2005年の約10万6000人に比べ、2015年には約8万6000人と、10年でおよそ2万人減少、"若者離れ"が進行している。そんな今治の地で獣医学部新設に手を挙げたのが、学校事業を手がける加計学園だった。計画には京都府も名乗りを上げたが、「同じ地域に獣医学部2つは開設しない」「『平成30年度に開設する』条件をクリアできない」との理由で、今治市だけが新設予定地となった。
今回の騒動について「戸惑いがある」と苦笑するのは、今治市議会議員の井出洋行氏。「正直な話、せっかく待ち望んでいた学園都市ができるんだなという気持ちに水をさされたというか、迷惑ですね」と話す。
今治市に住む今治MANZAI塾塾長の森純野さんは「僕の知る限り、今治のみんなは獣医学部の新設はウェルカムだ。これ以上騒いで入学する方が減ってしまったら大迷惑なので一刻も早く解決してほしい。おばあちゃんおじいちゃんばっかりだから若い子に来てほしい」と胸の内を語る。
市民に話を聞くと「新しい若い子が今治に入ってきて人口的にも活気が出るなら大いに歓迎すべきやなと思う」「若い人にしか出来ないことがあるし、地域の活性化に繋がると思うので大学が出来ること時代は賛成」と、活性化に繋がると歓迎ムードだ。一方、「ニュースが流れる前から私は反対だった。無償でやってしまったらいくら何でも今治の懐がもたない」という反対の声も聞かれた。
今治市は1983年から「学園都市構想」として大学や獣医学部の招致に努めており、設置決定はまさに"悲願"でもあった。加計学園の獣医学部新設でも、市は約37億円の土地が無償提供、事業費の約半分にあたる96億円も県と一緒に負担するという、いわば"至れり尽くせり"の内容だ。
しかし、今治市が無償で土地を提供しているのは、加計学園だけではない。今治を本拠地に活動するプロサッカーチーム「FC今治」に対しては、ホームスタジアムの土地を無償貸与している。
経済ジャーナリストの磯山友幸氏は「若い子がたくさん来くるというのは地域活性化の最大の切り札。それだけに、学校を誘致するというのは、地方自治体にとってはファーストプライオリティー。助成金を出したり、土地を無料で提供するというのもある意味では当たり前」と話す。
■「そもそも各省庁に対して総理が働きかけるための制度」
安倍政権は2015年、アベノミクスにおける成長戦略の一環として今治市を国家戦略特区にしており、安倍総理は「獣医学部の設置や地域主体の旅行企画について制度改正を決定した。このスピード感で岩盤規制の改革にもできるものから着手し実現していく」と語っていた。
そもそも国家戦略特区とは、安倍政権が成長戦略に掲げた取り組みの一つで、地域を限定し、国・地方・民間が協力して大胆な規制緩和や税金を優遇してビジネスをしやすい環境をつくるというもの。国(特区担当大臣)・自治体・民間事業者が参加する区域会議で区域計画が立てられ、内閣総理大臣が議長である諮問会議においてその区域計画の認定や規制改革メニューが追加され、決定する。現在、全国に10区以上の国家戦略特区が指定されており、地域の国際化や農業の規制改革など、それぞれの目標が設定されている。
元経産官僚の宇佐美典也氏は「それまでの『構造改革特区』という取り組みでは、各省庁が『これくらいだったらいいだろう』という程度の規制緩和しかできなかった。そこで総理がトップに立って、リーダーシップを発揮するんということでできた制度が国家戦略特区。だから各省庁に対して総理が働きかけるための制度なのに、それが問題とされたら、なんでこの制度を作ったのとかいうことになる」と話す。
その上で宇佐美氏は「加計学園の獣医学部新設は、霞が関では有名な案件で、これまで15回出して却下され続けた。それが国家戦略特区になったら1度で通ったのは、確かに総理のリーダーシップなしにはありえなかったこと」と指摘。認定NPO法人フローレンス・駒崎弘樹代表理事も「国家戦略特区のトップは総理。省庁に対して規制緩和しようというのは職務範囲から逸脱したことではなく、むしろ頑張ってやらなくてはいけない」と主張している。
磯山氏も「国家戦略特区はプロセスがかなり大変で、色々な議会を通って最終的に決めていく。安倍総理が霞が関に一言言ったからといって、それで全てが決まってしまうというような単純な仕組みではない。」として、贈収賄などの犯罪に持っていくのは無理があるとした。
■背景に官邸vs文部科学省の構図?
問題となっている文書について宇佐美氏は「霞が関では、会議の前後で話されたことを若手がメモに起こして配るということはよくあるし、政治主導をしようとすれば、こういう文書は自然にできるもの。あってはいけないものではない」と説明、「ただ、政治の世界では"誰が言った"ということが重要なのでああいう書き方はしない。発言した人が威光を借りようとしたという印象がある」と指摘した。
さらに宇佐美氏は「安倍総理が憲法改正で教育無償化を訴えるなど、政治で教育分野がホットなトピックになっている。そして、そこに生まれる巨大な利権を文科省に握らせたままで良いのかという官邸の意図もあり、文部科学省OBの天下り問題が取り上げられるなど、官邸と文科省の対立の構図がある。それで"なんで俺たちばかり…"という文科省側が反撃しているのだと見ている人もいる。今回の文書も、官僚OBが暗躍したのではないかという説もある」と話す。
ジャーナリストの堀潤氏も、「前事務次官が出会い系バーに出入りしていた、ということを読売新聞が突然報じた。事件化されてないことを、週刊誌でもないのに、しかもどうしてこのタイミングなんだと、色々とうがった見方をしてしまう」と指摘した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)