トランプ政権とロシアの関係をめぐる疑惑で新たな証言が出てくるなど、アメリカのジャーナリズム界が熱を帯びる中、新興ネットメディアにも注目が集まっている。
4月にフロリダで行われた米中首脳会談。世界中が注目したトランプ大統領と習近平国家主席のこの初顔合わせをいち早くスクープしたのが、今年1月に立ち上げられたばかりの新興ニュースサイト「アクシオス(AXIOS)」だ。3月13日、世界中の記者が狙っていた会談日程だけでなく「両首脳はゴルフをしない」ということまで報じ、世界中のメディアが後追い報道をすることとなった。
立ち上げたのは、アメリカの政治専門メディア「ポリティコ(Politico)」の創業者として知られるジム・バンデハイ氏。設立宣言では「記事が長すぎて退屈。サイトは混乱しきっており、読者を扇情的な見出しで騙している」「我々は効率的で信頼できるニュースと分析を届ける」などと、既存の新聞・ネットメディアに対し挑戦的なメッセージを投げかけた。
そんなアクシオスの記事の特徴の一つは、「簡潔さ」だ。「深い情報を簡潔なスタイルで伝える」というポリシーを徹底、一般的なニュースサイトとは異なり、少ないスクロールで記事が読み終わるように工夫されている。移動の合間など、スマホを使って短時間でニュースを知りたいという読者のニーズに応えるのが狙いだ。米中首脳会談のスクープ記事でも、会談の場所や日付などの要点を短く書き、さらに「今回の米中首脳会談がなぜ重要なのか」「どういった雰囲気になるのか」などの論点とその答えを箇条書きで記しただけのシンプルなものだった。
アメリカでデジタルメディアの動向を取材している朝日新聞デジタル本部の井上未雪氏は、「Twitterのような簡潔さと、イギリスのエコノミスト紙のようなクオリティの高さが一緒になったようなメディア。新しいメディアが次々と出て来るアメリカでも驚いた人が多い」と話す。
取材陣も、バンデハイ氏をはじめとした元ポリティコの人材や、ウォール・ストリート・ジャーナル出身者など、腕利きの記者たちを擁している。経営陣にもオバマ政権時代の国務省幹部や、共和党指導部の元側近など、強力な人脈がありそうなメンバーが並ぶ。
「ポリティコは、ワシントンの政界関係者では朝起きてベッドの中でまず読まないと一日が始まらない、というようなサイト。その創業者がやってるのだから、まさに見逃せないと思う」(井上氏)、「ホワイトハウスや金融関係者は必読」(NY在住ジャーナリスト津山恵子氏)と話すように、政財官界の舞台裏が書かれているアクシオスは、まさに関係者必読のニュースサイトになりそうだ。
また、メディア関係者が気になるのは、そのビジネスモデルだろう。
現在は広告収入で収益を賄っているが、2~3年後には半分を広告収入、残りの半分を購読料収入という構造に切り替えるつもりだという。驚くのは、年間1万ドルという高額な購読料を最終目標にしていることだ。
BuzzFeed Japan副編集長の伊藤大地氏は「日本ではまだ月額購読料4000円以上の新聞が数百万部もの発行部数を誇っているが、アメリカでは日本以上に紙メディアが衰退、デジタルシフトが進んでいる。米国のバズフィードやポリティコは、ホワイトハウスに記者席も持っている」と指摘する。
アクシオスが最近報じたスクープは、米中首脳会談の日程だけでなくバノンとクシュナー上級顧問の確執、バズフィードの2018年上場計画やトランプ政権の予算計画など、どれも新聞・テレビの取材力を上回るような、大きなものばかり。井上氏は、「この短期間でこれだけのスクープを出せるのであれば、お客さんもやはりついてくると思う」と話した。(AbemaTV/AbemaTIMESより)