
アメリカ・ロサンゼルスで開催される性的少数者のイベント『L.A.PRIDE』。今年はトランプ政権への抵抗の意思を示すため、従来の平和的パレードに代わり、レジスタンスマーチを実施した。本来平和的なパレードのはずが、トランプ大統領に反対の意思を表明する行進が行われたのだ。参加者の一人はトランプ大統領の似顔絵を掲げ「この男のせい。この男を支持する人に対抗するためよ」と強い口調で訴える。主催者のクリス・クラッセンさんは、「1970年に政治的な行進として始めた。全米で初めてのことでした。今年は原点に戻って更新を行おうと思った」と説明した。

もともとロサンゼルスは性的少数者に優しい街だ。会場の警察ブースも、警備が目的で設置されているのではなく、人材採用のため(ロサンゼルス保安局のサージオ・アロマさん)。また、同性愛に厳しいとされる教会のブースも存在する。「キリスト教の多くの宗派は、単に聖書の文面だけを見てホモセクシャリティを批判しているが、我々は批判的な方法で聖書を読み解いている。当教会は同性婚を支持していて、結婚式を挙げることを応援している」(南カリフォルニア・ルーテル教会のクリスチャン・コーラーさん)。
さらに会場にはある悲劇を悼むブースも設けられた。去年6月、フロリダ州~銃を乱射、49人が犠牲になったのだ。レジスタンスマーチは、アメリカ中で性的少数者の権利が危機に瀕していることへの危機感の表れだ。
現地で取材した在米ジャーナリストの小池かおる氏は「日曜日の朝で10万人が集まった。かなりパワフルなエネルギーを感じた。LGBTQの人たちは、今まで戦ってきた結果確立された権利を剥奪されたくないと言っていた。コミュニティ自体に危機感が漂っていると感じた」と話す。

さらに小池氏は「マイク・ペンス副大統領は、反LGBT的な福音主義者で、キリスト教的な政治活動家と評される。妻以外の女性と二人で食事をしないという考え方の持ち主だ。"コンバージョンセラピー"という、ホモセクシャリティなどの性的指向をある種の病気と捉え、それを治療する運動を支援していた過去が明らかになっている」とし、「トランスジェンダーの児童・生徒への学校による差別を禁じる政策を撤回した。トランプ政権のスタンスは保守化しつつある」と指摘した。
パックンも「アメリカには性的少数者の権利を守らなければいけないという法律があるが、トランプ政権は宗教の自由を保証する大統領令を出すのではないかと言われている。これによって、例えば飲食店が宗教上の理由として同性愛者の来店を認めない、ということも出てくる」と話す。

自身もトランスジェンダーで明治大学非常勤講師の三橋順子氏は「連邦最高裁が同性婚を認めないのは違憲だと判断するなど、オバマ政権下ではLGBTの権利の拡大が進み、国内に長年の運動への達成感が広がっていたところだった。現時点では具体的に何かが変わったわけではないが、今まで達成してきたものが失われるのではないかという危機感が募っている」と説明する。

実際、参加者たちからは、「我々の大統領はやるべきことをやっていない。僕達、そして皆の権利が危険にさらされている」と答える男性や「はっきり言って政権のすべてが心配です。トランプは何度も『自分はLGBTの味方だ』と主張していたが、実際にそれを行動に移したことが一度もない」となどの声が上がる。

中には政治家の姿もあった。ゲイであることをカミングアウトしているマーク・タカノ下院議員は「これがアメリカの魅力であって、それを求めて移民がやってくる。この理想に反すると弱くなる」と訴えた。また、民主党のナンシー・ペロシ下院議員は「私達には『平等法』というプランがあります。公民権法を改定し男女同権を含むようになる。それには『LGBTQの人々』も含まれる」と呼びかけていた。

自身も米国留学時代にイベントに参加した経験を持つ宮澤エマは「自分たちが存在することをアピールするパレードから、レジスタンス、つまり戦う姿勢を示すことにギアチェンジしたように見える」と話す。

その一方で、会場のすぐそばでは、トランプ大統領の支持者たちが"デモに対するデモ"を行っていた。「HOMO SEX IS SIN」、"同性愛は罪だ"という意味の旗を振り、抗議の意思を表明している人々。参加者の男性は「アメリカには発言の自由がある。もしゲイたちがこの国を制したら発言の自由はなくなるだろう。私たちは反対する自由を持っている」と話した。

翻って、日本でもゴールデンウィークに開催された「東京レインボープライド2017」が大きな盛り上がりを見せるなど、性的少数者への理解が少しずつ進んでいるようにも見える。
ゲイを公表している公立小学校非常勤講師の鈴木茂義さんは「日に日に社会の興味や感心が高まっていることを感じている。大きなうねりというか、ムーブメントができつつあるので、アピールするひとつのチャンスだと感じている」という。ただ、同じく当事者である友人に言われた衝撃的な一言が忘れられない。
「しげちゃん、余計なことしないで」。
鈴木さんによると、その友人は「社会の中で普通に仕事をしながら、自分なりに趣味や楽しみを持って生活していて、それ以上望むものはなかったんですね。ただ穏やかに暮らしていたいだけなのに、ムーブメントが盛り上がることで、今まで上手く隠れていたのがバレるんじゃないか、周りに疑われるんじゃないかと心配していた」という。

三橋氏も「トランスジェンダーの人たちは困っていたので早くから運動も起きていたが、鈴木さんの友人のような考え方を持つ人が多数派だろう。多くのゲイの人と話していて感じるのは『困ってない』という声の多さ。平日は公表せずに仕事をし、週末には新宿二丁目で暮らせればハッピーなんじゃないか、という考えの人も多い。性的少数者全体が一枚岩というわけではないし、L、G、B、Tそれぞれの中も一枚岩じゃない。運動として進めて行く上で、そこが難しい」と説明した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)
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