もしあなたがラッパーで、自分のライブを確実に盛り上げてくれるゲストを呼ぼうと思うならSHINGO★西成を呼ぶのが正解だ。
ヒップホップにレゲエに、数々の現場をロックし続けることで圧倒的な信頼感を勝ち取り、関西を代表するラッパーとしてその名を不動のものとしたSHINGO★西成。そのSHINGO★西成が3年半の期間を経て完成させた5枚目となるアルバム「ここから…いまから」は、現場主義を色濃く反映したバンガーが並ぶ一方、奏者を招いてブルージーに仕上げた曲も並ぶなど、SHINGO★西成が持つ二面性を見せた1枚になった。
取材続きにも関わらず、疲れを一切感じさせない笑顔で出迎えてくれたSHINGO★西成は、以前と何も変わらずブレないその語り口で話をしてくれた。
―今回もレゲエからインスパイアされた楽曲が収録されています。レゲエからはどんな影響を受けましたか?
SHINGO★西成 もちろんヒップホップは兄弟分のレーベルメイトの般若、ZORNもそうやし、近くにおってくれるTHA BLUE HERBやNORIKIYOとかいろんなアーティストから刺激もらって影響されてるけど、現場の数が多いレゲエのアーティストのモチベーションの維持の仕方とか、表現の仕方に刺激受けることが多かった。自分のライブが終わっても、ラバダブがあったら、ライブ連チャンの売れっ子もレジェンドクラスも一緒になって「もう一回ほな、そろそろイコか!」みたいに現場最後まで盛り上げる行動力とエンターテイメント精神や力の入れ具合抜き具合のバランスほんま学ぶトコだらけやで。
―ヒップホップだったら間違いなく帰ってますよね。
SHINGO★西成 バッと役割終えてきて「ほんでな、さっきの話やけど」みたいな。斜に構えてカッコつけるのがヒップホップっていう時代があって、俺もそこに若気の至りでカッコつける自分に酔ったことがあったからこそ、今はありのままでラップさせてもらってる。
―アルバムの中でも特に耳に入ってきたのが、1stアルバムのリード曲だった「ILL西成BLUES」の続編と言える、西成について歌った「KILL西成BLUES」だったんですが、このタイミングで続編を作ろうと思ったのはなぜですか?
SHINGO★西成 「いっちゃん好きやねんこの街が。でもいっちゃん憎いねん底なしや」ってリリックで言うてるけど、「もうエエか」って、俺がもう一回西成のリアルなコト歌ったらまぁまぁなトコまで言うし、俺も落ちるがもう一回這い上がろうっていうコト言いたかった。もちろんもちろん愛が前提やけど。
―地元に対してここまでやってきた自負があるからこそ言える言葉ですよね。
SHINGO★西成 そろそろ言おうかなと思って。
―1stを出された頃に一緒に西成の街を回らせてもらって強い印象として残っているのが、西成に住んでいる人たちに対してすごい気を使われていたなって。
SHINGO★西成 気を使うのが普通というか。気を使ってるって言うたらマイナスやけど、気遣い。生活しながら気遣いすることは自然やから。子供ができたら、ここに置いたらこぼすだろうなってグラスを動かしたりするのと同じやね。今やったらタバコが隅に追いやられてるとか。30マザファキン8歳から吸い出した俺にはすごい寂しい。
―そうなんですね笑。
SHINGO★西成 みんなと一緒に連れタバコ行けると思ったらどんどんやめていって。俺の相方のDJ FUKUなんて、あんだけ俺がレコーディングで煮詰まってしんどい思いしてんのにバンバン吸ってて。飲みの席とかではなんも言えへんけど、そのスタジオの状況の時に一回タバコやめろやって、そう言ってた俺がタバコ始めた途端にDJ FUKUはタバコやめるっていう。コンビっていうかパートナーって、なんかおもしろいなって。
―DJ FUKUさんとは、今回のアルバムについてどういう作品にしようって話はしたんですか?
SHINGO★西成 FUKUちゃんは、ほんまに流行りも現場も見えてるし、分かりやすくいうたら俺より 音の世界を知ってるから。そこは無理なく反省会とかするんじゃなくて話したい時に話すっていうスタンスは今までと変えてないかな。
―じゃあ今作の作り方でこれまでと特に変えた部分はなかったんですね。
SHINGO★西成 変えたわけじゃないな。でもラップを引き立たせるためにメロディーは余計にあった方がいいと思うたんで、無理に入れたんじゃなくて鼻歌程度やけど一応頑張って。自転車乗って一生懸命歌ってるやつたまにおるでしょ。普段は大人しいのに。そんなヤツと同じ種族で歌いながら西成からアメ村のあいだで作りました。
―そことも繋がっていると思うんですが、今回のトラックでは奏者も多く参加していますよね。
SHINGO★西成 そうですね。弾いてもらって。
―弾きだからこそ微妙なテンポのずれも味として出ているなって。
SHINGO★西成 やっぱ、そこ恋しくなってしまいますよね。
―その中でも「KILL西成BLUES」にUYAMA HIROTOさんがピアノで参加しているのは意外でした。
SHINGO★西成 それはトラック作ったDJ A-1が仲良くされてて、力を貸してくれて。DJ A-1は元々、熱い男やけどトラックの話になるとさらに熱い男やったね。
―DJ A-1さんには、最初から「KILL西成BLUES」のトラックをオファーしたんですか?
SHINGO★西成 ワンループの美学を捨てきれられへんくて、どうしても作りたくて。だけどピンと来るのがなくて、相談したら俺も一回作ってみるわって言うてくれて。それで最終的に持ってきてくれたのがあれで。まぁ、この3年の間に親父が亡くなったりいろいろあって心境の変化でトラックも変わったりとか。
―リリックでも歌われていますが、この3年の間の話だったんですね。
SHINGO★西成 そう。それに後輩も先輩もパワーある人が立て続けに亡くなったから。
―確かに、ヒップホップシーンだけを見てもここ数年は毎年誰かしらの訃報を聞きますよね。そういった年齢なのかもしれないですけど。
SHINGO★西成 その人間の与えられた時間やと思ってるんですよ。それと運命やから。そこを俺は無情というか、情がないとか、愛がないんじゃなくて、秋になったら蝉も死にますやん。そのぐらいの感覚でおるよって。夜回りっていうのがあるんすよ西成には。それが人パトって呼ばれていて。人が無事か?生存確認パトロール。人民パトロール。
―警備みたいなものですか?
SHINGO★西成 冬に路上で寝てる人に向けて、リアカーに毛布とおにぎりとカイロとか積んでそれを地元の有志っていうか子供が周るんやけど、その時の掛け声が「G.H.E.T.T.O」の歌でも言ってるんやけど、「わっしょいわっしょい」って言うんすよ。
―あれってその掛け声のことなんですね。
SHINGO★西成 俺らの想像するお祭りのわっしょいじゃなくて、すごい切ないというか哀愁ある感じで、生きてる確認というかそのための掛け声で。炊き出しに来てたおっちゃんや、毛布とおにぎりとか配ったおっちゃんを1時間半あとに通りかかったら死後硬直して固まってアルファベットのEみたいに死んでるのを見て、一緒に声かけた人が「連れてったったらよかったな、あの時、施設に無理矢理でもな。確かにしんどそうやったもん。でも行きたくないって言ってたしな。その人その人の人生の選択やな」。こんなんありすぎたらため息ばっかり言ってられへんし。哀しいコト苦しいコトあっても自分自身で気持ち切り替えていこうと再確認の毎日。そこでハーッばっかり言ってられへんし。
―自分も生きていかないいけないですからね。
SHINGO★西成 基本っしょ。事故とか事件でいきなり家族を失った人とかの気持ちじゃないですか。その小ちゃい何万分の一でも、他人やけど同じこの街で育って、俺が声かけたけど死んでいった時のなんもできなかった無常さとか、それを全部含んで俺は思いっきり表現せなあかんって思ってるから。毎回毎回、とことん一生懸命やろうっていうのを繰り返してたから3年間。ずっとやってきてることやけど、この3年間もその気持ちで。毎回違うライブっていうか進化してやってたから。その時の足らん部分、こういう曲があったらよかったなっていうのを今回もまたやったから。寄せ集めじゃないことだけは確かやね。
TEXT:YAMINONI
PHOTO:OBARA HIROKI
【TRACK LIST】
01. ひらきなおる [Track by PENTAXX.B.F]
02. 鬼ボス feat. J-REXXX [Track by DJ FUKU]
03. 絶句☆ニッポン feat. TAK-Z, KIRA [Track by grooveman Spot]
04. すんまへん [Track by TRAMPBEATS]
05. GGGG [Track by PENTAXX.B.F]
06. 祭り [Track by TRAMPBEATS]
07. 一等賞 [Track by maruhiproject]
08. あんた [Track by DJ AK]
09. KILL西成BLUES [Track by SPIN MASTER A-1]
10. Fuck You, Thank You ほな、さいなら [Track by NAOtheLAIZA]
11. ええやん [Track by Michael James]
12. ここから・・・いまから [Track by NAOtheLAIZA]