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■検察側と弁護士側で分かれる意見

 14日、さいたま地裁で未成年者誘拐と監禁致傷、窃盗の罪に問われた寺内樺風被告の第3回公判が行われた。

 寺内被告は平成26年3月、当時中学1年生だった埼玉県朝霞市の少女を誘拐、自宅アパートで監禁した。少女は監禁中、読書やネットなどをして過ごし、寺内被告と一緒に外出する時と、洗濯物を干すのにベランダに出る時以外、外に出ることはなかったという。誘拐からおよそ2年後、外出中の寺内被告の隙を見て逃げ出した少女は、東京・中野区の公衆電話から母親に連絡し、その後警察に保護された。

 寺内被告は警察の取り調べに対し「中学の頃から女の子を誘拐したいという願望があった」などと話したほか、公判でも「物を窃盗するくらいの罪だと思っていました。それも車や美術品などを盗むより断然軽い罪だと思っていました。私にいじめ、ストーカーをする輩がいなければ、本件犯行は起こりえなかった」と証言している。

 こうしたことから、公判では被告の責任能力をめぐって、検察側と弁護士側で意見が分かれている。

 検察側は精神鑑定書に基づき「対人的不安定・情緒的不安定・感情の欠落」があるとしながらも、「自動車ナンバーを用意するなど犯行に計画的」と指摘。「自閉スペクトラム症を有しているが、全ての基準を満たさず"傾向"にとどまり、症状は犯行の背景的要因にすぎない。劣等感の代償として犯行に至った可能性があり、完全責任能力が認められる」と主張。一方の弁護側は「中学2年生から統合失調症だった」「犯行に計画性はなく統合失調症の可能性が高い」「妄想的で自他の境界が不鮮明」「犯行当時生きる目的が欠如していた」などからなる精神科医の意見書を示し、責任能力の欠如を訴えている。

 犯行当時、寺内被告は千葉大学工学部情報画像学科に在籍しており、大阪府出身で千葉で一人暮らし。また、中学は有名進学校を卒業しており、事件発生前には自動車の免許も取得していた。3回の公判を傍聴し、寺内被告を間近に見てきたテレビ朝日社会部の古武家朋哉記者は「淀みなくハキハキとしゃべっていて、話すスピードも割と速かったと感じた。ただ、自分が本当にやったことをわかっているのか。ある意味、他人事のように聞いているのではないかなという印象を受けた」と話す。

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 弁護側と検察側で判断が異なっていることについて、吉川クリニック院長で精神科医の吉川和男氏によると、対人関係の問題など、統合失調症の一部の症状は自閉スペクトラム症の特徴とも似通っており、鑑別が難しいのだという。また、鑑定時期が違うことから、被告が後で妄想的な発言をし始めたため、統合失調症との判断が下ったのかもしれないと指摘した。

■一度起訴されれば、減刑はめったにない?

 刑法39条1項には「心神喪失者の行為は罰しない」、2項には「心神耗弱の行為は、その刑を減刑する」と記載されており「心神耗弱者」の場合、部分的に責任能力が認められている。

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 被告人の刑事責任能力の有無を争点になる場合、法廷でそれが戦略化してしまうという問題も指摘されている。なるべく罪を軽減させたい弁護側と、起訴する以上は有罪に持っていきたい検察側とで、採用する鑑定も異なってくるのだ。

 三平弁護士は「医師によって鑑定結果が違うので、弁護側は一番刑が軽い判断に基づいて主張する。検察側は当然刑が重い判断に基づいて主張する」と説明する。

 さらに三平弁護士によると「刑事裁判制度は単純な報復ではなく、更生という側面もあり、善悪を判断できる能力があるかどうか、さらにその善悪の判断にしたがって自分の行動をコントロールできるか、この二つが揃って初めて法的に責任を負わせられる。ただ、前提として裁判官が明らかにに罰するべきだと判断すれば、鑑定結果がどうであろうと有罪にすることがある。統計上も無罪になることは非常に少ない」と話す。

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 吉川医師も「一旦起訴されれば、統合失調症であっても減刑になるケースは珍しい。自閉スペクトラム症なら、ほとんど心身喪失や心身耗弱を勝ち取ることはできない」と現状を説明した。

 実際に、平成20年に起きた秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚に対しては、精神障害を疑わせる事情はないとして死刑判決が下されたほか、昨年起きた相模原障害者殺傷事件の植松聖被告について「自己愛性パーソナリティー障害」と診断が下されたものの、責任能力はあると判断されている。

■海外では服役と同時に治療も

 責任能力をめぐる議論の中でターニングポイントになった事件がある。精神障害を患う被告人には責任能力が無いとして、罪が問われない時代があった。その慣例を覆したのが1984年に行われた裁判だ。1969年、自分が愛されていると一方的に思い込んだ統合失調症の患者が相手の家を襲って5人を殺害、4度の精神鑑定の結果、いずれも統合失調症と診断されたが、最高裁は統合失調症を患っていたからといって心神喪失の状態にあったとされるものではなく、被告人の犯行前の生活状態、犯行の動機や様子などを総合して判断するべきであると判断した。これ以降、心神喪失の判決は著しく減少していく。

 一方、外国に目を向けると、イギリスには「マクノートン・ルール」という、物事を分別する能力の有無や程度を評価する仕組みがある。また、日本では「人権の観点から、理論的に非難できない人に対して刑罰を科すことはできない」(三平弁護士)が、スウェーデンには責任能力という概念が無く、アメリカには責任能力よりも訴訟能力が争点になっている。

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 吉川医師は「責任は負わせるけれど同時に治療も行う国もある。ヨーロッパは死刑制度がないので、精神障害の凶悪犯の場合、精神病院に長い間拘留される。実際の刑期よりも長く精神病院にいることもあるし、退院する時もかなり厳しく観察制度がついて、再犯を起こさないよう厳しい処置が取られる」と話す。

■「刑務所から出た時に何のフォローアップもない」

 さらに、吉川医師は「日本には刑務所から出た時に何のフォローアップもない」と指摘する。

 「相性の良い病院や主治医に巡り会えればフォローしてもらえるが、それもあくまで善意で成り立っているもので、制度化はされていない。たとえば寺内被告が社会に戻った後、同じような問題に直面しないか、社会がきちんと対応できるような体制はない」(吉川医師)。

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 現在、「心神喪失者等医療観察法」にもとづき、社会復帰を促進することを目的に精神障害のために殺人などの重大な他害行為を行なった人に対して適切な医療を提供する制度はある。しかし、この制度の対象は、心神喪失と認定された場合のため、それ以外のケースは医療を受けられないのだ。

 三平弁護士は「被害者にとってみれば、加害者に対して手厚いサービスを施していいのかという思いもあるでしょうし、どこまで強制的な入院の措置を取るかなど、様々な問題が絡んでいるので、制度づくりは簡単には進まない」と話す。

 罪を犯した人に対する治療・更生、そして再犯防止のために、国民はどれだけの負担をすべきなのか。国民の理解や議論や必要だ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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