AbemaTV「AbemaNews」プロデューサーに聞く、第三回は『みのもんたのよるバズ!』の演出を担当する原一郎チーフプロデューサー(59歳)。同番組は、その名の通り"朝"と"昼"の顔を務めてきたみのもんたが、初めて夜のキャスターを務める報道番組だ。
その週に起きた社会問題・政治の動きを、各界の識者・与野党の議員などを交えて激論。これまで森喜朗氏、古舘伊知郎氏、石破茂氏などの大物も登場してきた。『AbemaNews』チャンネルのスタッフが"業界の大ベテラン"と口を揃える原氏の、番組にかける思いとは。
■「バラエティよりも面白く、バラエティよりも視聴率を取れるドキュメンタリーを作りたい」
原:1980年に制作専門職としてテレビ朝日に入社しました。実は『水曜スペシャル』、『タイムショック』とか、欽ちゃんの番組など、キャリアの前半20年はバラエティの制作畑でやってきたんですね。
検証報道番組『ザ・スクープ』の担当として報道に移ったのが2000年以降なのですが、それまでの経験を活かして、ファミリー視聴型のニュースバラエティにできないか、という役割を期待されていたと思います。その結果、コアなドキュメンタリーファンも離れていくことになってしまいました。いっそのこと、ガチでやろうよということで、改めて硬派な番組作りを追求していきました。
そして、ミイラ取りがミイラになってしまいました(笑)。それまで作り物の世界を作っていたんだけれど、"事実は小説より奇なり"というように、現実を伝えていく面白さにすっかり目覚めてしまったんですね。
だから記者経験ゼロで、今も出稿部へのコンプレックスを抱えていますが、"バラエティよりも面白く、バラエティよりも視聴率を取れるドキュメンタリーを作りたい"という思いでやってきました。わかりやすく、ハラハラドキドキ、スリリング、それが昔から変わらない自分の強いポリシーですね。
ーー『ザ・スクープ』時代に手掛けた、「桶川ストーカー殺人事件」を巡る一連の取材は、日本記者クラブ賞を受賞されています。
原:内部告発に基づく検察や警察の裏金問題、あるいは冤罪事件なども扱ってきましたね。政府や捜査当局などの"公式発表"による第一報は、意図的に切り取られていたり、作為的に歪められているケースもある。そこで"何か変だぞ"と思ったら立ち止まって、別の角度から独自に検証してみる。速報ニュースと調査報道は両輪とだと思うので、やはりストレートニュースを発信するだけじゃなくて、その裏側に潜む真相や思惑にも迫っていくと。
■ニュースになるような発言を『よるバズ!』で引き出していく
ーーみのさんは、番組が始まる際に
今は放送法の縛りがどうのこうの、言論の自由がどうのこうの言ってますけど、もしできるなら、わたくし、みのもんたのスマホの世界で、大いに意見を戦わせたいと思います。今の若者たちは、みなテレビの前に座らないで、(スマホで)ニュースも見て、電車やバスの中でも自分たちの世界に浸っている、そういう時代だと思う。その世代がこれからの時代を担っていくわけだから、10代後半から20代30代を相手に番組をやっていきたい。
とコメントしていました。AbemaTVでの番組作りに取り組んでみて、いかがでしたか。
原:現場は地上波とそんなに変わらないんです。ただ、制約が少ないので、やりたいものがどんどんできている感覚があります。
そこで最初は、どうやって地上波と差別化するかということで、尖った企画ばかり考えていました。第一回放送では鶯谷のデリヘルの待機部屋から生中継して、風俗嬢が顔出しで出演しました。シングルマザーや貧困の問題といった社会の縮図がデリヘルにはあって、風俗産業がセーフティネットになってしまっている部分がある。そこを議論したかった。あるいはアダルトビデオの撮影で、AV女優の方々が酷い人権侵害に置い込まれている問題とか。
ただ、やっていく中で気がついたのは、実は個人の発信も含めて、インターネット上にはもっと尖ったものがいくらでも溢れていた。我々がニュース番組でやろうとしても大したことないのではないかと。むしろ、地上波クオリティの番組がないので、それを作ることこそが我々の価値なんじゃないかということに気付いたんですね。
そして、安全保障や外交といった問題について時間をかけてきっちりと伝え、そして議論するという方向に番組作りを変えていきました。やはり、1時間、2時間と、一つのテーマをじっくり討論できるのが強みですね。
マスメディアの世論調査では安倍さんの支持率が2割台になっても、番組アンケートでは6割くらいキープしていたり、地上波の視聴者より保守的な傾向のある若い方々も多い。だから保守系の論客もどんどんぶつけていこうと。小林よしのりさんや竹田恒泰さんなどを交えて女性宮家問題を議論した際は、本当にヒートアップしましたね。
ーー若手の女性の有識者の方々を積極的に起用しています。
原:そうですね。みのさんは「俺が良く言ってる銀座のクラブのイメージだ。チーママが下平アナ」と雑談でおっしゃっていましたが(笑)。
ーー森喜朗さんや古舘伊知郎さんなど、ネットにはなかなか出てこないような方が出て来るイメージもあります。
原:基本的に、その週に一番関心の高いネタを、一番旬なゲストでというのが軸なのですが、そこがやはり"みのブランド"と言いますか、「みのさんならば出ましょう」ということで。会社としても、インターネットで切り込むなら大物をどんどんキャスティングして本気を示そうよという思いもあります。
そして、ニュースになるような発言を『よるバズ!』で引き出していく、というのも大きなポイントですよね。とくに政治家の方々からは核心的な発言を引き出そうと、みのさんも僕も一生懸命やっていますね。
例えば内閣改造で新しく大臣になった方や、連携して野党再編を目指す若狭氏と細野氏、民進党代表選の翌日の放送では候補者の方々にも来ていただけるようチャレンジしていきます。
ーーAbemaTVでもドキュメンタリータッチのものをやってみようという思いはありますか?
原:それは思いませんね。やっぱりインターネットの真骨頂はライブ感だと思っていますので、あくまでもVTRはトークのための種だと考えています。それをもとにいかにスタジオで議論していくか、そのための演出だと考えています。
ーー実は間もなく定年を迎えられると伺っています(笑)
原:あと半年なんです。だから、まさかですよ(笑)。なんでこんな年寄りのガラケー人間がインターネットTVの番組をやるんだと(笑)。でも、みのさんはやっぱり超大物だし、若手では荷が重い(笑)。僕は何度か一緒に仕事をしたことがあるので大丈夫だろうと。テレビクオリティを追求するためには、逆にベテランの手練手管も必要なんですね(笑)。
だからプロデューサーなんだけど、三十数年ぶりにインカム付けてスタジオでカンペ出してるんですよ。でも、なかなか言うこと聞いてくれないんだ(笑)。まったく想像してなかった未来だね。とにかく老眼でスマホの画面がよく見えないんだよね。だからiPadで見てます。キャリアの最後で、チャレンジですね。
▶『みのもんたのよるバズ!』は毎週土曜20時から生放送中。次回19日は総集編!