
中国が国連の安全保障理事会の決議に基づいて、15日から北朝鮮から石炭などの輸入を全面的に禁止すると発表した。
中国商務省によると、輸入を禁止するのは、「石炭」「鉄鉱石」「水産物」などだという。安保理の追加制裁が完全に履行されれば、過去最大となる1100億円以上の経済制裁が見込まれ、北朝鮮の輸出額の3分の1に影響が出るとされる。その大きなカギを握っていたのが、北朝鮮にとって最大の貿易国である中国だった。韓国メディアによると、北朝鮮の2016年の経済成長率は17年ぶりの高水準を記録したというが、今回の制裁はその成長にも影響を及ぼすと観られている。
北朝鮮と対決姿勢を強めているアメリカは、これまでも北朝鮮に対する制裁強化を中国に促してきた。ペンス副大統領は「中国はもっと行動するべきだと考えている。大統領は習主席とのやりとりでもその点を明確にしたはずだ」と発言、トランプ大統領も自身のツイッターで「中国は口だけで、北朝鮮に関し、何も我々に協力しない。こうした状況が続くことは、もはや許すわけにはいかない。本来、中国はこの問題を容易に解決できるのだ」などと投稿してきた。
■「これで北朝鮮が核開発をやめるとは考えにくい」
これまで中国が北朝鮮に対して行なった経済制裁を振り返ると、2016年12月の石炭の輸入中止(3週間)、2017年2月の石炭の輸入中止(年内の)などがある。

15日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した、中国の外交・軍事に詳しい小原凡司氏(笹川平和財団特任研究員)は「2006年に採択された国連決議をベースに何度か強化されてきたが、人道的な意味もあって民生品は除外されており、軍事目的で使われる物資やそのための技術が対象だった。その"国民に影響を与えない"とことが抜け穴にもなっていた。今回、北朝鮮の主要な輸出の産品である鉄鉱石や石炭、これに水産物の輸出を全面的に禁止することになった。北朝鮮の経済に大きな影響が出る」と話す。

2016年の報告によると、北朝鮮の人口の41%にあたる1000万人以上が栄養不足の状態にあるという。経済状況のさらなる悪化は、金委員長に対する国民の信頼を失わせ、政権の権力基盤が揺らぐ可能性もある。
しかし小原氏は「これで北朝鮮が核開発をやめるとは考えにくい」との見方を示す。
「特に核兵器開発以外の部分の予算が削減されることで、国民の生活がさらに苦しくなるのは間違いない。ただ、社会が不安定化し、金正恩委員長の権威が失墜、非常に危険な状態になるということは考えていると思う。北朝鮮の中でも派閥争い、権力闘争はあると思うし、アメリカにとっても中国にとっても、金委員長の体制が倒れて、北朝鮮自体はそのまま残る方が良い。北朝鮮が本当になくなったとしたら、今度は中国が緊張を高めるだろう」。
中国にとっては北朝鮮が"緩衝材"として存在することで、資本主義国家である韓国と直に国境を接することはないことがその理由だ。
そんな中、経済制裁の強化に踏み切った中国。小原氏は「ある程度"本気"を見せないと、北朝鮮は動かないと思ったのだろう。中国、ロシアが国連の経済制裁に賛成したのは、ひょっとしたら北朝鮮が本当にグアムに向けミサイルを打つかもしれないと思ったからではないか。中国もロシアも、アメリカが軍事力を行使し、この地域の安全保障環境が一変してしまうのは許容できない」と推測した。
■アメリカは北朝鮮に先に手を出してもらった方がいい?
きのう、「金正恩委員長が8月14日に、グアム周辺への弾道ミサイル発射計画の報告を受けた」として、北朝鮮の朝鮮中央テレビが画像数枚を公開した。そこには朝鮮人民軍の戦略軍司令部で「戦略軍火力打撃計画」と記された図面を前に、軍人から報告を受けている金委員長の姿が。背後には「日本作戦地帯」と書かれた日本列島の地図も見える。その一方、金氏は"計画に満足している"として「悲惨な運命の時間を過ごす愚かなアメリカの行動をもう少し見守る」とコメントしたと報じており、これまで数々の強気な発言から態度が一転したようにも思える。

小原氏は「アメリカが軍事力を行使すれば体制がひっくり返ることは理解しているので、挑発行為をやめて対話の姿勢を取れ、と。そうすることで時間を稼げるし、うまくいけば問題の解決に少しでも近づけるかもしれない、ということだと思う」と話す。
CNNなどによるとマティス国防長官は「もし北朝鮮がアメリカを攻撃すれば即座に戦争に突入するかもしれない」と語ったといい、トランプ大統領も北朝鮮を煽るようなツイートを繰り返してきた。
「やはり、アメリカが軍事力を行使するのは、グアムを攻撃されたという"自衛権の行使"という形でしかありえない。本音として、北朝鮮に先に手を出してもらった方が、軍事力行使の理由になると思っているのではないかとさえ思う。これに中国も焦ったのではないか。北朝鮮としても、トランプ大統領がレッドラインを示さないので、どこまで行っていいのかよくわからなくなっている。つまり、アメリカが恣意的に決められるということ。その恐怖感を、中国も北朝鮮も持ったと思う」(小原氏)
北朝鮮の態度の軟化、中国の輸入全面禁止決断の背景には、そんな事情があったようだ。
■拉致問題解決をにおわせ、日本に接近も?
そんな中、安倍総理大臣がトランプ大統領と電話会談を行った。両首脳は高度な警戒監視態勢とミサイル防衛態勢をとる方針で両首脳は一致。ただ、安倍総理は「何よりも北朝鮮にミサイル発射を強行させないことが、最も重要であるとの認識で一致した」とコメントしたものの「断固非難する」「圧力の強化」といった表現は使わなかった。

これは河野外務大臣が8月6日、北朝鮮の李容浩外相と会談した際に「対話を望んでいる」と、北朝鮮の方から日本に対話の糸口を探るような動きをみせたことを踏まえたものとみられている。
小原氏は「一つは中国の言いなりになるということは受け入れがたいので、なんとか他の道を探すためにも、日本との対話を模索している。もう一つは、アメリカとの橋渡しを日本に求めているのではないか。いきなり弱腰になれば金委員長の権威が失われるので、これもできない。だからギリギリの選択として、日本になんらかの役割を求めているのだと思う」と推測。「日本は拉致問題という他の国にはない問題を抱えている。北朝鮮はそのこともわかった上で日本に働きかけている可能性もある。だから拉致問題の解決をにおわせながら、日本に対して何かやってくれということもあるかもしれない」。
「日本もアメリカと連携しながら対応していると思う。マティス国防長官とティラーソン国務長官が連名で出した文書には、"北朝鮮が挑発行為をやめれば対話に応じる"ということも書かれていた。やはり中国が仲介した非公式の米朝の協議などを通して、アメリカも落とし所を探っている状態。日本としてもそれを妨害はしないし、アメリカの姿勢を支持する以外に今のところ取るべき手段はないのではない」(小原氏)
新たな展開を見せはじめた北朝鮮問題は。各国の思惑が入り乱れる中、事態は収束に向かうのだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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