自宅のガレージでロシア製の古いバイクの整備に夢中になっている男性。彼こそ、"アダルトグッズ業界の革命児"といわれる、株式会社TENGAの創業者、松本光一代表取締役社長だ。
1967年、静岡県に生まれた松本。現在独身。専門学校卒業後、車の整備士を経て営業マンをしていた34歳の時に脱サラし起業した。松本は、いかにしてアダルトグッズ業界へ足を踏み入れることになったのか。AbemaTV『創業バカ一代』では、その半生に迫った。
■1日で48種類の試作品を試したことも
幼少期から憧れた"ものづくり"への情熱を捨てきれず、家電量販店を回っていたという松本。ある日、足を運んだアダルトショップでふと違和感を覚えたのだという。「家電にはブランドがあって、商品説明もしっかりしていて、デザインも綺麗。だけど、アダルトグッズにはバーコードも企業名も、問い合わせ先もない。わいせつなもので、卑猥な気持ちになって使って下さいというメッセージを送っているだけだった」。
95.4%の男性が日常的にマスターベーションをしているにもかかわらず、アダルトグッズが一般のものとして認識されていないという現実に気付いた松本。「15分ぐらいで起業を決めた」。
松本は1年かけて1000万円を貯め、会社を辞めた。翌日から2年間、朝6時から深夜2時まで研究に没頭した。世の中のありとあらゆるアダルトグッズを2個ずつ買い集めた。
「一個は分解する。一個は自分自身で使ってみる。何十種類も調べていくと、どこが良くないのかがわかってくる。それら全て書き出して、一つ一つ無くしていこうと考えた」。
「使うときはリラックスして、お客さんの気持ちで使わないと駄目。何ミリ直そうとか、少しでも研究者の目線が入ると興奮しなくなってくる(笑)。ロジカルな思考をする状態とリラックスした状態、交互に身を置くと、びっくりするくらい頭痛がするんですよ(笑)」
1日で48種類の試作品を試したこともあるという。「だんだん年を取ってきますと、持続力が…。バイアグラのようなものを飲んで…。これは大変ですよ(笑)。朝までかかりました」。
目指したのは"デザインと機能の両立"。部分的にうまく締め付けることはできないのか。思案するうち、ドラッグストアで販売されているストッキングが目に止まった。「ストッキングは場所によって締め付け度合いを変えていた。それまで真っ直ぐだった僕の試作品も、部分的に圧力を変えることにした」
日々改良し、自ら試すという繰り返しの日々。良いものができたと感じたときは、友人に配って試してもらい、感想を尋ねた。 「ある人からは『もっときつくしてくれ』とか別の人からは『もっとゆるく』とか」。
3年の開発期間を経て、1種類に絞らず、5種類を同時に発売することに決めた。
■今や114種類、社員たちの声は?
無論、すべてが順調だったわけではない。発売後は、大きな壁にもぶつかった。
大量生産に必要な金型を調達する資金にも困窮した松本。しかし、金型店は必死の思いを受け止めてくれた。「あんたのこと信じるからお金は後でいいよ、失敗したら払わなくてもいいよと言ってくれた。本当に嬉しかった」。
商品ができていない段階では、サンプル品抜きでのプレゼンテーションを全国で行った。「5万個の生産を決めて、納期は迫ってくる。でも人が足りてない。知り合いに人材派遣をしてもらって、クレジットカードで毎日キャッシングしながら日当を払って。最後の2週間は本当にギリギリだった」。
苦心して工場を海外に作り、生産開始にこぎつけたものの、初出荷の3万個の製品がすべてダメになってしまったこともあった。輸送時の手違いで、船のコンテナ内が0℃に設定されてしまったのだ。到着した商品を確認すると、ゲルが凍り、成分が外に漏れ出していた。「メーカーは高い品質を維持するのが命だということを思い知らされた」。
今や年商45億円、30代で認知度は83%にも上るというTENGA。街で話を聞くと、渋谷の若者たちからは「腰が抜ける」「本物と似てました」「実際の女性よりも気持ちよかった」と絶賛の嵐。誕生日プレゼントに友人に贈ることも珍しくないようだ。また、新橋の30代の男性たちからは「数え切れないほど使った」などの声が。中には「1ダース買った」という男性もいた。
松本は「多くの方の共感を得られたのは、自分のサイズと感覚が一般的だったのではないか」と笑う。発売を開始した2005年当時は5種類だった製品も、今や女性用なども含め、114種類もの製品を世に送り出している。
10年の叡智を結集した『プレミアム』、「新幹線で暖かくなるお弁当を見てTENGAも温めよう」と、2年がかりで開発した『ホット』、「もっとソフトなやつを作ってくれないかなという要望をお客様からいただいた」ことから作った『ソフト』と、その反対の『ハード』。また、小型で携行しやすい『EGG』『ポケット』、さらには装着すると2リットルのペットボトルも軽々と持ち上げる程の吸引力を発揮する「バキュームコントローラー」も発売している。
東京・港区にあるTENGA本社を尋ねると、入り口には製品がずらりと並ぶ。おしゃれなオフィスで働く社員は63名。 開発室では、3Dプリンターで新商品の部品を作っていた。TENGAの内部が複雑な構造をしていることがわかる。
入社5年目、開発部の池田駿介さんは「飲み会で話のネタになるから。反応はかなりいいですね。男限定なんですけど(笑)」と入社の志望動機を語る。またTENGAの魅力については「デザインが他のものとまったく違う。初めて使った時は、ただただ、びっくりした。女性では味わえないディテールが人の手で生み出されていると思うと感動した」と熱弁した。
TENGAは世界45カ国にまで展開している。海外営業を担当する石塚ジェリーさんは「すごく良い商品だと言われる。洗いやすい、かっこいいといっていただけます」。
女性社員も20名いる。広報宣伝部の西野芙美さんは「性に関してポジティブなイメージを発信したい。開放的に話しやすくすることでいろんな問題が解決できるのでは」と話す。ヘルスケア部門の中野有沙さんは「医療機関でリハビリテーショングッズとしても使われているので、ドクターとやりとりしたり、研究開発に取り組んでいる」と力を込める。
■「セクシャルウェルネス」を目指す
松本の座右の銘は「雲外蒼天」。困難を乗り越え努力すれば快い青空が見える、という意味だと説明する。「誰もが後ろめたさを感じる事無く、性を楽しめるようにしようという大きなテーマ『セクシャルウェルネス="性の健康"』というジャンルを目指している」。
今後の展望について松本は「高齢者や障害を抱えている方、射精障害など性的な面で不自由を抱えている方がもっと性と向き合えるような社会を作りたい。アメリカの学会で日本人が発表した論文に、手でする時よりもセックスの時の方がいい精子が採れるというデータがある。TENGAの方がいい精子を採れたという臨床実験の結果もある。不妊にも役立つ、精子を採取するためのTENGAも考えている」と語る。
「世界中の人々の性生活を豊かにしたい。人が性とどう向き合っていくかを考えたい。エロだけではなく、必要で重要なものとして性とつきあっていく。その分野で最先端の企業でありたい」。(AbemaTV/『偉大なる創業バカ一代 “性なる創業者” (株)TENGA・松本光一社長』より)