きのうの朝、北朝鮮が発射に成功したと発表した中距離弾道ミサイル「火星12」。北海道など日本上空を約2分間飛行し、襟裳岬の東1180km、日本の排他的経済水域EEZ外の太平洋に落下した。日本国内への落下物や船舶への被害は確認されなかったものの、北海道から中部地方の各県では「Jアラート」が発令され。上越新幹線をはじめ、交通機関が一時運行を見合わせるなど混乱が生じた。
北朝鮮のミサイル発射後、米韓合同軍事演習中の韓国軍は金正恩委員長ら指導部を全滅させる想定で4機の戦闘機が1トン爆弾8発を投下する訓練を行った。さらに今月24日に実施された「北朝鮮全域の核ミサイル基地など中核施設を正確に破壊できる」(韓国軍)という新型弾道ミサイル3発の発射実験映像を公開した。
今回発射されたとみられる「火星12」は、今年5月に発射されたものと同型である可能性が高いと見られている。さらに、ミサイル発射後日本海上空で3つに分離したと見られている。
韓国で米韓合同軍事演習が続く中でのミサイル発射となった。北朝鮮はなぜ「火星12」を、このタイミングで発射したのか。また、予告していたグアム方面では無かったのはなぜなのか。29日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、専門家に話を聞いた。
韓国・ロシアの領土上空や東京の上空も避けたルートを選択した今回の飛行コースについて、元防衛研究所総括研究官の武貞秀士・拓殖大大学院特任教授は「深い意味があったと見ている」と話す。
「本当にグアムの方向に撃てばアメリカとの軍事衝突になるかもしれないと北朝鮮は思ってきた。グアムの方向には撃たずに、しかし本当に撃ったらアメリカは大変な被害を受けますよという技術的な証明をしたい。そして、3500キロ飛ぶようなミサイルでないと注目されない。そこで燃料をいっぱい積めば3500キロ飛ぶ「火星12」を使い、燃料を調節して発射した。アメリカを過度に挑発することなく、話し合いの場を設けるというニュアンスを残しながら、しかも日本に対しては日米同盟を強固にすれば火傷しますよという警告を与えることも含めてのものではないか」(武貞氏)。
その上で武貞氏は「謎がいくつもある。日本海上で3つに分離し、かつ太平洋上に飛んで行ったということは、燃料タンクを下に落としたのではなく、なにがしの物体がしっかりと飛んで行ったということ。弾頭をいくつか付けていたという可能性がる。それも含め、新しい実験をしたということではないか」と指摘した。
また、29日というタイミングについては「米韓合同軍事演習を意識しているのはもちろん、ミサイル開発・発射に功績がある祖父・金日成さん、父・金正日さんよりも偉大な業績だということを誇示したい。タイミングを考えると8月31日(米韓合同軍事演習最終日)前に撃ちたかったし、"しばらくアメリカの行動を見守る"と言ったのに、軍事演習を中止しなかったねという思いがあるのだろう。また、26日のように短距離ミサイルを3発撃っただけで終わると、国内的に示しがつかない」と分析した。
■すでに核弾頭の小型に成功?核実験強行の可能性も
ミサイル発射前日の28日には、韓国・国防省が「北朝鮮の核実験準備が完了した」との見方を示した。相次ぐミサイル発射の次は、6回目の核実験を強行するのだろうか。過去に5回行われた核実験のうち、北朝鮮は過去5回の実験で様々な課題をクリアさせてきた。1回目の2006年にはプルトニウム型の実験に成功し、2回目には威力をアップ。3回目ではウラン型にも成功している。最後に残った課題はプルトニウム型の小型化だ。前回は去年9月9日、建国記念日に強行されている。実はこの時点で核弾頭の大きさは5トンに達し、どのミサイルにも搭載できないものだったとみられている。防衛白書は「小型化や弾頭化の実現に至っている可能性」と指摘しており、6回目の実験では1トン以下に挑戦するとの見方もある。
自衛隊で情報分析官などを務めた西村金一・軍事・情報戦略研究所所長は「北朝鮮としては、脅威を高めれば高めるほど交渉ができる。おそらくもっとレベルを上げて危機状態をつくるには核実験をやる。そこまでやってアメリカと交渉をする形になる」と話す。
弾頭の小型化について武貞氏は「すでに小型化は成功していて、後は数の問題」との見方を示す。「プルトニウム型の場合は原子炉を稼働してプルトニウムを抽出しなければならないが、ウラン濃縮型なら遠心分離機を約1万台フル稼働させれば数年でウラン濃縮型のものを何個か作ることができる。北朝鮮は世界で6、7番目にウラン鉱石の埋蔵量がある国なので材料は豊富だ。5年ほど前、スタンフォード大学のヘッカー博士が北朝鮮に招かれ、国産の遠心分離機がフル稼働しているのを見て帰ってきている。つまり、今や北朝鮮は弾頭の数を増やすことに努めているだろう。このまま行けば、"核戦争はもうやめましょうね"、と平壌・ワシントンの間で合意を取り付ける、そういった交渉ができるんだと北朝鮮は確信している。その一歩手前まで来ていると見なければならない」と指摘した。
武貞氏は「核実験は地下でやるので、他国は上空から人や物資の出入りを監視している。言い換えれば、核実験をすることもやぶさかではないというのを対外的に発信するため、人を出入りさせているということもあり得る。実際に核実験が近づいているかどうかとは別の問題だ」としながらも、「アメリカに対して核の力を見せつければ、交渉の場に出てくるとずっと考えていたのが北朝鮮なので、核実験をすることによって、アメリカを交渉の場に出すためのトドメとして核実験を強行するという選択は十分にありうることだ」とした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)