麻雀は、短い勝負であれば運に左右されることもありますが、長い勝負になるほど賢い人が勝てるもの。しかし、麻雀打ちのパフォーマンスには、頭はもちろん体の使い方も密接にかかわっているのです。人前で麻雀を打つことを生業とする麻雀プロたちは、実は対局中の所作にひときわ気を使っています。
専門チャンネルがあるAbemaTVでは、対局中の選手たちは胸元にマイクを付けているので、発声や息使い、牌の音などはっきりと聞くことができます。麻雀は自分の手を作るだけではなく、お互いの手牌や戦略を読み合う心理ゲームでもあります。打っている時の仕草や表情には様々な情報が出てしまうので、ポーカーフェイスでいることが重要です。
徹底したポーカーフェイスのプレイヤーと言えば、佐々木寿人プロ。徹頭徹尾変わらないテンポで摸打(モウター=牌をツモって切る動作)を繰り返します。表情も全く変わりませんし、とにかく速いテンポで、相手にヒントを読み取る時間を与えません。自身は「何も考えず、要らないものを切るだけ」と言いますが、これがなかなか難しいものです。
佐々木プロのメンタルの強さは麻雀界随一。何が来ても揺れない心があるからこそできるポーカーフェイスなのですね。また、あがった時の点数申告も日本一早い!?と言われていますので、ご注目ください。裏ドラが見えた瞬間にはほとんど申告が終わっている、なんていうシーンが見られますよ。
また、こちらも強固な鉄仮面と言えば小林剛プロ。数字に基づいた合理的すぎる判断から「スーパーデジタル」「ロボット」などと呼ばれる選手ですが、その所作も人間離れした正確さです。とにかく常に動きが一定。高い手でも安い手でも、声のトーンがまったく変わらない発声。時には判断が難しく考えこむシーンがありますが、そんな時も表情は一切変わらず、情報を読み取る目が動くだけ。まさにロボットのような打ちっぷりなのです。
そんな小林プロですが、実は「プロフェッショナルとして正しい所作」には並々ならぬこだわりがあります。アガった時にはドラ表示牌と裏ドラ表示牌が見えやすいように、必ず手牌の近くに持ってくる。鳴く時には、「発声して、晒して、持ってきて、切る」の順番を決して破らない。高速すぎない摸打のテンポも、視聴者に見えやすくするため。アマチュアの方に真似されては困る悪いマナー、麻雀用語の間違った使い方などに関しては、他のプロの振る舞いに意見することもあるのです。
ここまでポーカーフェイスが有利としてきましたが、そうは言っても感情を隠しきるのは難しいものです。観戦者としては、そんな抑えきれない感情が見えた時に感動するという側面もあります。瀬戸熊直樹プロは、大事なシーンでは、武者震いでしょうか、気持ちが昂って手の震えに出たりします。鈴木達也プロは、ツモってきた牌が欲しかったものか、引きたくなかったものかでテンションがまったく違います。
石橋伸洋プロは、他者の動向を読む時には思い切り乗り出して盤面を覗きこみます。勝又健志プロや平賀聡彦プロは、どうしても欲しい牌がある時に、ツモる動作がゆっくりになります。そして多井隆晴プロは、心の声が聞こえてきそうなほど表情豊かです。たまに本当に独り言をつぶやいていることもありますが…。感情が出てしまうことは、戦略的には不利と思われるかもしれませんが、これらの選手はそれでも勝っているのですから本物なのです。
実は、これ以外にも選手たちはお互いの「無意識の癖」を分析して、実戦の武器にしています。特に手牌の進行具合などに関係する癖は、発見できればとても強力です。皆さんも、次回「観る雀」をする際には、是非各選手の個性的な所作に注目してみてください。【麻雀キャスター・小林未沙】